Have a monster 執着を手放せなくても仕方ない本当の理由
私のアパートはペット禁止にも関わらず、私には長年飼いならしているペットがいる。
このペットは動物園やペットショップでは絶対にお目にかかることができない、珍しい種類のペットだ。が、恐らく誰もが飼ったことがある。
長年一緒にいるにも関わらず、このペットに名前を付けていなかった。しかし名前がないと記事が書きにくいので、仮にレオン君と呼ぶことにする。
姿形は艶々の黒ヒョウを想像していただきたい。レオン君は私が中学、高校生の頃はシマウマくらいの大きさがあった。当時の私にはとても扱えなかったにも関わらず、せっせとエサをやっていた。
20代になり、社会人となってストレスがかかるようになると、レオン君はゾウくらいの大きさに肥大化した。とても扱えず、出ていくよう何度も伝えたがレオン君は涼しい顔で居座り、私はレオン君の下僕となってレオン君の為に働いていたようなものだった。
30代になった今、レオン君はラブラドールレトリーバーくらいの大きさになった。
お察しの方もいるかもしれないが、レオン君の住処は私の胸の中である。動物ではなく、モンスターと呼ばれる分類の生き物だ。この種のモンスターは、夜になると「サミシサ」を大量に生産するので非常に困る。
私のレオン君は黒ヒョウの姿をしているが、ある人はたくましく大きな鷲であり、ある人は美しい胸筋を持つサラブレッドであり、ある人は愛くるしいチワワである。どんな姿であれ、時にこのモンスターは肥大化して胸の中で暴れまわる。時に人間を死に追いやる力さえ持っている。
このモンスターを肥大化させずよき友として扱うことができるかどうかは、子どもの頃に親から適切な扱い方を教えてもらえた人だけである。そういう人は生涯に渡りモンスターを肥大化させることなく、サラブレッドであれば鞍をつけて一緒に旅するよき相棒とまでなる。
しかし、親とて完璧ではなく、時に親自身が自分のモンスターに手を焼いている場合がある。そのような場合は子どもに扱い方を教えるのは不可能であり、よって子どもも自分のモンスターを扱えなくなってしまう。
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執着は手放しましょうとしばしば教えられる。
執着は自分自身を苦しめるので手放しましょうねと。執着してない人から見れば、アルコールに依存したり恋愛依存症になっている人を見れば「自分を律していないから」とか、「意思の力が弱い」とか思うかもしれない。
しかし実際は意思の力は関係ない。誰でもそういったものが悪いと頭ではわかっている。しかし執着を断ち切ろうと右へ進むと、肥大化しているモンスターが左へ進む。
モンスターとは切れない糸で繋がれているため、強烈な力で引っ張られるのでとてもかなわない。チワワくらいの大きさならやすやすと抵抗できるが、ゾウくらい肥大化していると抵抗するのは不可能である。
それでもいずれ執着を手放さないといけない。ではどうするか。
自分でモンスターの本当の姿を確認しに行かなければならない。これは他人に代わってもらうことは不可能で、絶対に自分で成し遂げなければならない。
実はほとんどの人が自分のモンスターの本当の姿を分かっていない。私もレオン君が本当は黒ヒョウだったことを知ったのは30代になってからだった。本当は美しい羽根を持つ鷲の人も、ゴジラみたいな怪獣を想像しているのである。
モンスターの本当の姿を確認するには体力と思考力、精神力がいる。なので不健康な生活をしている人はモンスターは肥大化したままである。
20代のある日、レオン君が人生最大に肥大化した。私はジタバタもがいたが、どうにもならなかった。1日中不安が付きまとい、好きな人や仲間から少しでも冷たい素振りを見せられると胸が焼けるような思いがした。
そこでつべこべ言わずに1週間だけ、夜10時には布団に入って休むことにした。残業して夜遅くなりご飯が食べれなくても、お風呂に入れなくても、一切自分を責めず10時には布団に入った。そうするとレオン君も少しおとなしくなった。
1週間でかなりの成果があった。なので私はそのプロジェクトをもう1週間延長することにした。かなり良くなり、レオン君が少し小さくなった。なので1か月続けてみることにした。
ここから、私が本当のレオン君を知る旅が始まったのである。
しかしレオン君と向き合うのは相当な勇気がいった。ある時は海外に行けばレオン君が生産する「サミシサ」をどうにかできるかもしれないと思ったが、海外に行っても同じであった。生産者であるレオン君そのものと向き合う必要があった。
海外から戻り、私は再就職して楽しく働いた。しばらくはレオン君もおとなしかったので、向き合うのも中断していた。しかし私は油断してしまい、生活習慣が乱れ、またもレオン君が肥大化してしまったのである。
そのうち職場でトラブルがあり、泣く泣く退職した。しばらく休む中で、私はノートに自分の思いを1日中書き綴った。すると驚いたことに、レオン君の輪郭がちらっと見えたのである。私はここに、レオン君の本当の姿を知るヒントがあると確信した。
何となく書き綴った自分の思いの中からいくつか言葉を選び、抽象的な表現をより具体的にしていった。下のような感じだ。
これを繰り返せば繰り返すほど、レオン君の輪郭がはっきりしていった。
しかも驚いたことに、肥大化していたと思っていたレオン君だが、実はプロジェクションマッピングのように壁に映し出されたレオン君の大きな影に自分が怯えているだけだったことに気が付いたのである。
自分の感じたことを具体的な言葉に書き起こすことが、私にとってレオン君のコントロール方法であった。人によってコントロール方法は違うと思う。
スマホのメモで上をやろうとしたことがあるが、気の散りやすい私にはスマホは向いていなかった。紙とペンがいい。紙とペンのおかげでレオン君がよき友となった。レオン君は黒ヒョウだが、実は黒猫くらいのかわいいやつかもしれない。
レオン君の輪郭がはっきりすると、なんとレオン君が「サミシサ」を生産する回数が減った。ゼロではないが、今ではそれもコントロールできるようになってきた。「サミシサ」はレオン君が自分に会いに来てほしいという合図だったのかもしれない。
私がレオン君に会うため参考にした本がこちら。少し難しいが、「境界性パーソナリティ障害」は私のトリセツとなった。社会生活に支障を来しているわけではないので、私は「障害」までは行かないのだろうが、確かにこの性質が自分の中にあったと思う。
「メモの魔力」は抽象的な言葉を具体的にする方法が参考になった。