![パンダヤンキーポエム](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/6748933/rectangle_large_6b64009167821c21c3041fee16bdfe9c.jpg?width=800)
ナゾの頭突きを喰らった話。 ~シンナー少年との夏~
シンナー少年、恐るべし。
たった今まで仲良く話していたのに、
いきなり頭突きを喰らわせてきた。
理由は… 彼にも解らないようだ…
中3の夏であった。
小学校からの友人であったS
(本名を杉○と言う。シンナーのSでも可)と、
その年の夏、毎日のように遊んでいた。
中学受験をして遠方の私立中学へ進んだおれと、Sは、
小学校卒業以来、その夏までほとんど会う事は無かった。
Sは、小6の頃には既に、番長の風格を見せていた、
筋金入りの不良少年であった。
進んだ地元の中学でも、不良のエリートコースを歩んでいるらしい事は、
風の噂で聞いていた。
中3の夏に再会した時、彼はシンナー依存に陥っていた。
おれ自身は一度だけ、勧められて試してみたのだが、
臭いが気持ち悪くて、「効き」が解る前にやめてしまった。
そして二度とやる事は無かったが…
Sと遊ぶと、彼はほぼ毎日、であった。
ある時は、地元のサーフショップに「ボンド」を買いに行く。
おれはサーフィンも全く知らないのだが、ウォーターボンドという、
チューブ入りの黒い歯磨き粉みたいな、サーフィン用品。
これをスーパーの透明のビニール袋に適量入れて、口に当て、
「イカさん」などと言いながら、引っ張ったり戻したりして、吸う。
(ビニール袋の伸縮が、イカが泳ぐ姿に似ているからだ。)
ビニールの中身が「ジュントロ」になる時もある。
ジュントロとは、所謂 ”トルエン” らしい。
「ボンド」よりも高い。
そして入手に時間と労力がかかる。
わざわざ新宿まで買いに行くのだ。
小一時間電車に乗り、新宿駅東口を降りて、
線路沿いに新大久保駅方面へ。
右手の雑居ビルが立ち並ぶ界隈に、
それらしい売人の兄さんがいる。
少し離れた所から見ていると、
グーにした手を口元に充て、
「コン コンッ」と舌を鳴らす。
これが合図って訳だ。
近寄って行って「2本!」とSが言い、金を渡すと、
どこかのビルへ消える兄さん。
すぐに戻ってきて、
紙袋を渡してくる。
中には、リポビタンDのような茶色のビンが2本。
中には「ジュントロ」が入っている。
これを、ティッシュに染み込ませ、
そのティッシュをビニールに入れて吸っていた。
(直接ティッシュを嗅いでいた時もあった)
とにかく毎日そんな調子で、
おれは朦朧としたSと、噛み合わない会話をして爆笑したり、
彼が妄想に耽っているらしい姿を、興味深く見たりしていた。
その日も、Sはシンナーに耽っていた。
夜7時過ぎの公園。
確か、音楽の話をしていた。
デビュー直後だった、マライアキャリーがどうのこうの…
みたいな話をしてたと思う。
ふと、酩酊していたSが、会話の流れと全く関係なしに言った。
「タイマン張ろ?」
「…?」
タイマンとは一対一で殴り合いのケンカをする事である。
我が耳を疑った。
「タイマン張ろうぜ…」
「…え …?」
ベンチから立ち上がり、おれに向かってくるS。
おれも思わず立ち上がる。
次、一瞬だった。
ゴッ!!!
胸倉を掴まれたのとほぼ同時に、
Sの額が飛んできた。
Sはおれより少し身長が低く、
丁度いい具合に、額がおれの鼻に当たった。
「…! …!」
とっさに後ろへ引いたので、クリーンヒットは避けられたが、
鼻なので、それなりに痛い。
「ちょ! 何? 何だよ? いきなり…」
「あ?!」
目がイッテQだ。
「いや、おれ! K(←おれの本名)だよ! K! 何、タイマ…」
ドスッ!
Sの膝が腹に飛んできた。
「ちょ! 落ち着け! S!
おれだ! Kだよ! なんでタイマン張るんだよ!」
「 … 」
しばし動きが止まった後、頭を振りながらSは言った。
「もういいや… 訳わかんね…。」
”訳わかんねーのはこっちだ、ゴルァ!!”
とは言えなかったよ…。
正直、怖かった。
いや、Sがヤンキーでケンカが強いとか、もちろんそれもあるけど…
訳わからなくなって、
小学校からの長い付き合いであるおれに、
たった30秒前まで仲良く話していた、おれに対して
いきなり頭突きしてくる、
その狂気がね。
シンナーの「効き」を自分で経験してないから、
その辺の説明が出来ないのが、もどかしいが、
とにかく、”シンナー怖いな”、っていう印象だ。
それ以来、おれはSとの距離を置き、
疎遠になっていった…
余談だが、
それから20年程たって、精神病院で知り合ったシンナー依存症患者は、
ちょっと酷かった、脳のダメージが。
薬物依存症患者には多数出会ってきたけど、
「一見普通」である事がほとんど。
と言うか、断薬した後は全く普通、ほぼ全員。
挙動不審とかも、無い。
でもその人は、
よく解らない事を四六時中呟いていたり、
ぼーっと立ち尽くしていたり、
見てて、痛々しい位にやられていた。
彼をバカだと思う人は、ある意味、健康である証拠だ。
おれたち依存症患者は、
彼が ”なぜシンナーをやらねばならなかったのか?”、
それは「やらなければ生きていけない」境遇にあったからだと、
知っている。
同じ病気だから、理解できる。
故に、同情しか感じないのだ…
Sは、元気にしているだろうか…
End
※Sは「はじめてのタバコ」の中心メンバーでした。 ↓ 宜しければ…
ありがとうございます! (ノД`) 頂いたサポートは、いつの日かパンを、 パンが無ければお菓子を食べればよいので、 お菓子の専門学校で作り方を習う必要性、 そうなってくると学費とか交通費、 え、ちょっと待って下さい、 紙に書いて考え直そう、そうするとやはりパン、 いやペンか、ペ