#11 勘弁してよ(富士山御殿場口登山道新五合目: 人間交差点2021)
地殻変動等により隆起してできたと言われている南・北・中央アルプスに代表される山々は、起伏が激しく山肌は岩石が剥き出しで、誰もが服装・装備など相応の準備をして登山に向かう。一方、浅間山・大山に代表される火山の噴火によりできた山々は、火口からの噴出物により約30度の自然傾斜で形造られていて、その美しくなだらかに見える形状に騙されて、登山というよりはハイキングといった感覚でとらえている人が多いような気がしてならない。植物限界の標高2500mあたりを過ぎると、噴出して固まった溶岩と火山灰・火山弾が複雑に山肌をなしている。霊峰富士も然り。しかも標高は3776m日本一である。一般的に標高差100mで0.7℃の気温差があるといわれる。海抜0mの沼津港で35℃の猛暑でも、御殿場口5合目(標高1440m)では25℃、七合目(3040m)で14℃、八合目(3350m)で11℃、山頂ではなんと9℃である。しかも風速1mで体感気温ー1℃下がる。五合目付近では微風であっても、七・八合目が無風とは限らない。七合目で風速10mであれば体感温度は4℃、八合目では1℃、山頂ではー2℃となる。さらに、雨による体温低下を考えれば、アルプス登山とそん色のない服装と装備が欠かせないのだが。
その日は朝から雨が降ったりやんだりのはっきりしない天気。6合目付近から分厚い雲のかかった午後、雨に打たれてズブ濡れになって下山してくる登山者がチラホラ。そんな時に、20代前半とおぼしき若い男性二人がやってきた。一人はポロシャツ・ズボン・スニーカーにポシェット。もう一人は、ジャージーにTシャツと運動靴。片手にスポーツドリンク。そんな二人に声をかけた。「こんにちは。散策ですか」
「いやー ちょっと登ろうと思って」「えっ 大石茶屋までですか」「山頂ですよ!」「えっ そんな服装じゃだめですよ。死んでしまいますよ」「大丈夫、大丈夫」と言いながら二人は鳥居を駆け抜けて登って行った。検収員に彼らの登山を止める権限はない。「あーあ 行ってしまった」と嘆いていると、中畑さんが「大丈夫だよ。雲の中で雨に打たれて30分くらいで帰ってくるよ」と慰めてくれる。ズブ濡れの下山者が一人二人と鳥居の下に返ってきた。雨風の状況を聞いてみると、やはり強い雨の様子。これから登山しようとする人がポツン、ポツンとやって来る。健康チェック・体温測定後のリストバンド、保全金をお預かりして領収書の発行をしている眼の先に、鳥居をくぐりこそこそと走り去る先ほどの二人を見つけた。中畑さんの言う通り。全身濡れネズミ状態である。気づかぬふりで見送った。懲りたことであろう。
こんな人たちに今流の言葉で言えば 「勘弁してヨ~」
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