貧困一家が金持ち一家の暮らしに入り込んでいくコメディホラーサスペンス映画『パラサイト 半地下の家族』

画像1

 今日は本ではなく映画です。

 本当はいつも通り本を紹介しようと思っていたんですけど、前々から気になっていた『パラサイト』を今日なんとなく見に行ったらとんでもなく面白かったのでこっちに変更します。

 最初は見るの怖かったんですよね。

 この作品、結構話題じゃないですか。テレビではバンバンCMやってるし、Twitterなんかを見ていると「面白い」という感想ばかり流れてくるし、パルムドール受賞作だしアカデミー賞作品賞ノミネートだし、とにかく絶賛のオンパレードなんですよ。だから僕の中の病みの部分がひょっこり顔を覗かせて「面白くなかったら、お前自身が面白くないってことだよな」って言ってくるんすよ。

 『ジョーカー』も同じような感じだったと思います。バンバンCMながれて、バンバン高評価炸裂して、アカデミー賞有力候補と言われてて、「面白いと感じないヤツは感性がおかしい」と言わんばかりの状況でした。まあ僕もログラインだけ聞いて「こりゃおもしれーだろーな」って思っていて、期待を両手で抱えて映画館に行ったんですよ。

 だけどまったく響かなかったんです。

 面白くなかったとは思いません。面白かったとは思います。ただ宣伝されているほどには面白いと思わなかったですし、アーサーが悪へと転がり落ちる過程も転がり落ちた後も別に何も心に刺さりませんでした。見終わった後には「俺、感性死んでるのかな」と心が無になって、しばらく落ち込みました。

 だからもし『パラサイト』を面白いと思えなかったらどうしようと考えてしまったのです。もし面白いと思えなかったらそれは僕の感性が本当に死んでいるということの証明になってしまい、心が灰になって風に乗ってどこかに飛んで行ってしまうのではないかと。

 期待半分、怖れ半分で映画館に向かいました。

 結果、滅茶苦茶面白かったので安心しました。見終わった後に「こりゃすげえこりゃすげえ」とひとり呟きながら劇場を後にしたので、周囲から見たら完全にやべーやつだったと思いますが仕方がありません。それくらい面白かったので。

 本作は2019年のパルムドールを受賞し、2020年のアカデミー賞作品賞などにノミネートされている作品で、韓国の格差社会を描いたコメディホラーサスペンス映画です。ジャンルごった煮やないかーい、と思われるかもしれませんが間違ってはいないと思います。冒頭からコメディタッチでテンポよく展開されていくのですが、それがだんだんと重くゆっくりになっていくのです。コメディ映画が気がついたらホラーサスペンスにすり替わっているのです。

 物語は半地下の家(韓国の低所得者層の象徴とされる住居)に暮らしている貧困一家の長男が、友人の紹介でとある金持ち一家の長女の家庭教師を始めるところから始まります。長男は上手く金持ち一家の母娘の心を掴み、今度は妹を他人と偽って、金持ち一家の長男の家庭教師にさせます。そして今度は妹がある仕掛けをほどこし、貧困一家は徐々に金持ち一家に「寄生」していくのです。

 「寄生」の過程はコミカルにテンポよく描かれ、ついクスクス笑ってしまう場面も沢山ありました。けれどもシーンには常に「何か」が隠れているんです。笑いの影に絶えず不穏な何かが潜んでいて、面白いのになぜか不安になるというそんな感覚がまとわりついていました。ログラインはシンプルながら話の終着点がまったく見えず、面白いのに上向きにした刃の上を歩いているような緊張感が続き、一瞬たりとも画面から目が離せませんでした。字幕を読むために視線を動かすのさえ嫌になるくらいに。

 そして緊張がマックスに高まった瞬間に起きる衝撃の展開は心臓を目一杯握り絞って解き放つような緊張と緩和を一気に味わわせてくれました。

 最後の方はもう歯を食いしばりながら観てました。「どうなるんだこれはどうなるんだこれは」と。映画館じゃなくて家で観てたら途中で一回止めて心を落ち着ける時間を設けていたかもしれません。

 少し気になってる人はぜひ見に行って下さい。

 ただ、これはコメディホラーサスペンス映画です。貧富格差を描いた社会派作品でもありますが全体的にはホラーサスペンスの要素が強いです。血も出ます。結構心臓に来るので苦手な人は半目で見た方がいいかもしれません。

 では。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?