本_ガーナ

2020年ブックレビュー『「空気」を読んでも従わない』

群れるのが嫌いで、友だちは少なくてもいいと思っている私は、なぜこの国の「同調圧力」がこんなに強いのだろうとずっと考えていた。最近、その強度が増しているのも気になる。

で、大好きな鴻上尚史さんの『「空気」を読んでも従わない』(岩波ジュニア新書)を手に取った。鴻上さんの「顔」が好きで、鴻上さんの戯曲はもちろん大好きで、アエラの「人生相談」は私のバイブルだ。いつか鴻上さんにインタビューしたいがために、鴻上さんの著書を読み続けよう、という魂胆もあるけど。

「目からウロコ」とはこのこと。
多くの人を息苦しくしていた正体は「世間」だったんだ。鴻上さんによれば、「世間」と「社会」という二つの言葉を理解すると、この息苦しさが少し楽になるという。「世間」とは、私たちの現在、または将来、関係のある人たち。具体的には学校や職場、近所の人たちのこと。一方の「社会」は、私たちの現在、または将来、関係のない人たちのこと。道ですれ違った人や電車で隣に座った人などを指す。

日本人は基本的に「世間」に生きている。「世間」の人たちとは簡単に交流するけど、自分とは関係ない「社会」の人たちとはなるべく関わらないようにしている。もちろん、「世間」が、江戸時代に強固なつながりを築いた「ムラ」からきていることは想像に難くない。ただ、現代社会には「世間」が中途半端に壊れた状態で残っている、という。ご近所付き合いは希薄になっても、学校や職場が強力な「世間」になっているのだ。

そして、「空気を読め」という時の「空気」。「世間という大きなものが、くだけて日常的になり、いろんな場面にいろんな形で現れるようになったのが『空気』」と、鴻上さんは解説している。

「世間」にはルール、というか大きな特徴がある(これも目からウロコだった)。
1、年上がえらい
2、「同じ時間を生きる」ことを大切にする
3、贈り物が大切
4、仲間外れをつくる
5、ミステリアス(世間にしか通用しない方法をつくる)

非合理で効率的ではなくても、世間は簡単には変わらなかった。なぜなら、日本は外国に侵略され、支配された歴史がないからだ。外国からの侵略や支配の代わり、襲ったのは地震や水害などの天災。だから、「仕方ない」「しょうがない」と受け入れる考え方が身についてしまったという。

日本が「同調圧力」の強い国であるのは、「世間」のルールに「仲間外れをつくる」があるからだ。根底には、「仲間外れ(村八分)になると生きてはいけない」という恐れを日本人の誰しもが持っているからだろう。

「みんなひとつになろう」という「同調圧力」は、「みんな同じことを考えている」と「ひとつになることはよいこと」という前提がある、という。そこで、私は考えてしまった。2019年の流行語大賞になった「ワンチーム」は、実は恐ろしい言葉ではないかー。

ラグビー日本代表が「ワンチーム」という文化をつくり上げたのは、多彩な国の出身者が集まったチームだったからだろう。日本全体が表層的な意味だけで「ワンチーム」を掲げたら、何だか恐怖…。

鴻上さんは「世間」との戦い方を教えてくれる。まともに「世間」と戦おうとせず、5つのルールをうまく利用するのだ。怖い先輩が「世間」を支配しているなら、その先輩より年上の先輩に助言を求めたり、強い「世間」だけでなく、いくつもの弱い「世間」に所属したりするーなども、息苦しさから逃れる手だろう。

最終章の「スマホの時代に」は、もうまさに、その通りだと感じた。
スマホ(特にSNS)は不幸なことに、「世間」を「見える化」した。(他の媒体で、鴻上さんはインターネットの最大の罪はおバカを見える化したこと、とも言うが…)。それによって人の評価が気になって仕方ない「自意識過剰人間」を多く出現させてしまった。

「世間」と「社会」のからくりを知っているだけでも、とても生きやすくなる。それは、学校や職場の中であえいでいる人たちにとって、大きな収穫に違いない。

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