ピンクチョコ

2020年ブックレビュー『界』 (藤沢周著)

藤沢周さんの「界」(2015年)という連作短編集を読み終えて…50代ぐらいの男性って、こんなこと考えるんや、女性をこんなふうに見てるんや…と軽いショックを覚えた。

「月岡」「千秋」「化野」など9つの話のタイトルは、主人公の男性・榊が旅をした場所の謎めいた地名。榊には別居している妻子がおり、一回りほど年齢が下の「女」との付き合いも続いている。榊が新潟出身の作家という設定なので、読者は榊が藤沢さん自身ではないかと、ちよっと錯覚してしまう。

旅に出ている榊は、「女」を愛してはいるが、関係に倦んでいる。旅先で、榊は都会にいる「女」を気遣いながら、メールや電話で連絡を取れはするものの、すれ違う女性、あるいは呑み屋で一緒になった女性らに目を奪われる。粘っこいその視線に、男の老いやいずれ訪れる死、「女」への背徳の情をひしひしと感じる。

「化野」では、小さな居酒屋で出会った見知らぬ若い女性の放尿の音に芳烈さや清々しさを覚え、「寿」では歩道に倒れた女性の露わな太ももに目を奪われ…。と、私がこう並べて書くと、変態チックだけど(笑)藤沢さんの書き味は、時折交じる非現実的で幻想的な描写も相まって妖しく美しい。

…とうとう榊は「八橋」という章で、暴力を振るう夫から逃れたきた女性と一夜をともにする。男女の繊細な表現を読んでいる自分が「女」の目線になったかのように、文字を追っている。冷徹に見下ろすように、男の情事をみつめる眼差し…。

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