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初めの1か月

アッサラーム・アレイクム。

人もすなるnoteというものをついに始めてみることにしました。日本でのコロナ第5波がようやく下火になりかけた2021年の9月11日、奇しくも、アメリカでの同時多発テロから20年目のメモリアルデーにドバイを経由して土埃舞うカラチ空港に降り立ちました。

最初の、印象を書き残しておかなければ忘れてしまいそうです。

この時期パキスタンに来るのは正直気が進みませんでした。COVID-19の不安と搭乗手続きの煩雑さもあったものの、それ以上に心を憂鬱にしていたのは、一つには、この国パキスタン・イスラム共和国でのジェンダーイシューが息苦しかったこと。そして、隣国アフガニスタンがアメリカ軍撤退によりタリバン政権下となるなか、今なお「パキスタンのタリバン」がテロを続けているという治安面での不安。パキスタン北西部は神学生たちによるタリバン揺籃の地であり、潜伏していたビンラディンが発見されたところでもあります。

実際のところ、南部のカラチにアフガン情勢は大きな影響もなく、治安はここ数年は安定しているそうです。とはいえ、2018年には在カラチ中国領事館が武装勢力に襲撃されています。これはタリバンとは別件ですが。https://www.cnn.co.jp/world/35129128.html

街に銃とガードマンとがあふれています。車窓から街を観察しながら、最初はとにかくこれに慣れなかった。自警団なのかカラシニコフに眼光鋭い黒マスクの若者たちがピックアップの荷台を占領している姿はほぼ、想像上のテロリストです。私たちのような駐在日本人家族の外出には随行ガードマンもマストで付きます。そもそも、外国人の姿をからきし見かけない。女性が普通に歩いているのも見かけない。ゴミの山と、大量のカラスと、そして、野犬たち。

そんなわけで、警備の厳しい大型ショッピングモール以外は自由な外出など望むべくもないのかと気が滅入っていたところ、憂鬱の原因その1のジェンダーイシューのほうで意外なことがありました。

最近よく話題になる世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数。2021年度の日本はG7最低の120位という低迷が横ばい状態ですが、ここ、パキスタンはぶっちぎりのワースト5です。

152位 シリア
153位 パキスタン
154位 イラク
155位 イエメン
156位 アフガニスタン

これまで私が日本で培ってきたパキスタン女性のイメージというと、思い浮かぶのは、女子教育の重要性を訴えたために襲撃されたマララさん。それから、名誉殺人が止まない家父長制の強さ、児童婚の横行とリプロダクティブヘルスの問題から国際NGOが活動していること。そして、渡航準備中の8月にパキスタンの都市ラホールの公園で「300〜400人の男たちが女性TikTokerを2時間半にわたり暴行」というニュースも衝撃でした。

そんなパキスタンに着いたばかりの頃。カラチで海外渡航者用ワクチンを打つことになりました。町に野犬がウロウロしているので狂犬病はマスト。町が汚水に塗れて全体的に衛生状態が悪いので破傷風とB型肝炎。それから、この国にはまだあるというポリオ。現地の病院にはなるべく行きたくないと思っていたのに、夫の「絶対に大丈夫」に圧され暗い気持ちでゴミゴミした一画にあるアガ・カーン大学病院クリフトン診療所に向かいました。待合室の人びとから物珍しそうな視線を一身に浴び、ナーバスな気持ちがマックスになった頃に問診のため診察室に呼ばれると、待っていたのは流暢な英語を話す女医さんでした。マルグリット・デュラスにどこか面差しが似ています。おや、と思う間もなく、次の処置室でもキビキビ動く看護師さんたち、そして、薬局を仕切る薬剤師さんたちもみな女性なのです。

街であれほど「見えない」女性たちがプロフェッショナルな仕事の場では活躍している。ジェンダーギャップ153位という数字だけからは見えてこないことがうかがえる最初の出来事でした。新聞を開いても、コラムニストの女性たちには建築家、弁護士、などの肩書きが見えます。そういえば、ずいぶん昔にテレビで見ていたイスラム国家初の女性首相ベナジール・ブット氏(後に暗殺)もここパキスタンの人でしたっけ。マララさんが勉強に情熱を傾け、リーダーへの思いを持ったのも、このブット首相の存在があったからだといいます。

分からないことだらけです。特に分からなすぎるラホールの事件のこと、もう少し時間を置いて調べてみようと思っています。それと、件の診療所のおおもとであるアガ・カーン財団のことも。

May peace be with you






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