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さすがの吸引力。カレー沢薫/ドネリー美咲『ひとりでしにたい』

現在も講談社『モーニング』で連載中の漫画作品。伯母の孤独死をきっかけに、老後と今現在の人間関係のあり方、家族への接し方、お金の使い方、趣味への関わり方を含む生き方と、周りの人々の苦労について思いを馳せ、価値観をアップデート(更新)していこうとする女性が主人公の物語。

この作品は一言でいうと「小気味よい」。Twitterなどで小出しに登場する、人々からの世間への憤まんやイライラ、傷つき、辛さなどが凝縮され、タイミングよく登場するからだろうか。かいつまんだだけでも「そう!そうなのよ!」と膝を打つセリフが満載なのである。

どうやったら「結婚すれば安心」って思えたのか メチャメチャ気になるんで 教えてもらえますか(28頁)

優雅でオシャレな子育て そんなものあるはずがない・・・(69頁)

たとえ気にかけてくれる人がいても 自分の窮状を隠そうとします 「大丈夫」って(74頁)

なぜ人のやってることは「チョロく」見えるのか(89頁)

なんで女の仕事は簡単に休めると思ってんの?むしろ私ら独身女にとって・・・仕事ほど大事なもんってある?(99頁)

カレー沢氏は漫画以上に文章力に相当秀でた方なので、その語りも相まって作品全体の魅力が出来ている。ヘヴィでシリアスになりがちな主題を扱うにあたり、カレー沢氏のダイレクトかつストレートフォワードな言葉選びや、進行のリズムによって、暗い気持ちにならずに読み進むことができるのだ。

また、主人公の描き方が功を奏しているのだろう。主人公の山口鳴海(なるみ)は、もともと家庭環境に恵まれて、進学にもさほど苦労しなかったタイプで、世間の厳しさに対して無頓着な方だった。しかし「ひとりでしにたい」という課題を得てからの向上心、知識欲、努力は著しい。ご意見番の那須田(なすだ)君ばかりでなく読者からも危なっかしく見えることはあるのだが、それでもちゃんと人の話を聞き、学んで成長していく様子は大変好感が持てる。

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(第1巻、電子書籍版、125頁より一部抜粋)

この作品で扱われることは、性別、結婚しているかしていないか、子供はいるかいないかにかかわらず、全ての人の生活に関わることだと思う。認めたくなくても世の中と人のあり方は変化するものだ。自分がいかにいい生き方をできるかを考えるヒントとして、この作品をお勧めしたい。

モーニング公式サイト

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