虚構の中の僕と私
「ゲームばっかりしてないで、勉強でもしなさい!」
というのは、ゲームをしていたり、youtubeを見てばかりいる子どもに親が言う、定番のセリフだ。家庭にファミコンなどのゲーム機が導入された時代から長く受け継がれてきている。
私は、というとそんなファミコン世代まっただ中を生きてきた。しかし、
「ゲームは1日1時間!」
という非常にまっとうな家庭のルールなど、対岸の火事で育ってきたゲーム大好き人間なので、あまりそのようなセリフを言われたことがない。なので、長時間のゲームが、無条件に良くないものであるとは、思っていない。
同様に、昔は夕方17時から20時近くまでは、アニメなどのゴールデンタイムであった。平日は、色んなテレビ局を梯子しながら、長々とテレビを見ていた。なので、youtubeをずっと見ているということが、これまた無条件に良くないことだとも思っていない。TVばっかり見ていても、ゲームばっかりしていてもそれなりに大人になっているし、ゲーム脳には多分、なっていない。
ただ、最近のネットの隆盛はなかなか、難しいものがあるなと思う。ゲームもオンライン接続ができるようになって、昔ほどすぐ飽きることが減ってきているし、同じ作業の繰り返しなのに終わりがないものも問題だ。課金などの問題もあって、昔のゲームよりも今のゲームの方が、やめにくい。依存しやすい要素があちこちにちりばめられているな、とは感じる。
Youtubeに至っては、自分の好きな動画だけをお勧めされながら延々と見られるというのが問題である。自分で能動的に探さなくても見たいものが提供される、TVみたいにその時間に万障繰り合わせてTVの前に座る必要もなく好きな時間に見られる。計画通りの実行はあまり必要がない。労力が要らない分、惰性で見続けてしまう。これまた終わりを自分で決めることも難しい。
大人でも難しいと感じるものを、子どもが自分でどうにかできるかというと、なかなか難しいのが実情であろう。そうすると、どうしても、大人が制限をかけなければいけなくなる。子どもに任せっきりにしていても、そう簡単に解決しない。しかし、子どもが楽しいと思っているものを止めさせるとなると、抵抗されるのが当たり前である。
そうすると、そこに激しい親子葛藤が生まれてくる。最初は、長くやりすぎて目が悪くなるといけないからとか、他にも勉強などもやってほしいからというのが、ゲームを制止する理由だったはずが、だんだん、ゲームを止めなさいと言ってもやめないから、とにかくやめさせる、もうやらせないようにするが、目的になってしまったりする。子どもにとっても、何も利点になることがなければ、やめようとも思わないだろう。時に、友達とオンラインでプレイする約束をしていたとなると、自分の沽券にかかわる。約束破りは、友人間でなくてもご法度だ。
家族内の険悪な雰囲気はゲームや動画によって作られているといっても過言ではなくなってきてしまう。
元々、ゲームや動画などの創作物は、狭い世界で生きている子どもたちにとって、自由に空想の翼を広げられる限られた場である。時に、主人公に自分を重ね、ヒロインに自分を重ね、悪役に共感したりする。それは、物語を読むだけでなく、自分でゲーム上のキャラを操作することで広がっていく。自分だけの世界を作ることだってできる。
ゲームによっては、点数を競い仲間から称賛され、自分の出来るという気持ちを高めたりもする。現実世界の出来ない自分を忘れ、万能感を得られる時間でもある。しかも、それらも何も無条件で与えられるわけではない。レベル上げやら細かな造形やら、そこそこの努力も必要なのである。努力の元に得られる報酬。これぞ、達成感。
虚構の世界の中では、嫌になればリセットをしてやり直し、色んな分岐を楽しめる。冒険も恋愛も戦争もスポーツも街づくりもなんでもありの世界の魅力。最近は、そこに友達と一緒にコミュニケーションをとりながらも出来るようになり、虚構の自分がさらに現実に近づいていく。
偽りの世界で、なりたい自分になるのか。偽りの世界だからこそ、偽りだと偽りながら本当の自分をおずおずと現すのか。
ゲームをしている姿やyoutubeを見ている姿は、ただ怠けているようにみえるかもしれない。しかし、その姿の裏側に、もう一つの世界の中に、何を求めてゲームをし、何から逃げるためにyoutubeを見、何とつながるためにチャットをしているのか。
大人たちも、子どもの過ごす虚構の世界に少しでも思いをはせ、出来ることならば少しぐらいは踏み込んでみないと、見えてこないものはたくさんあるだろう。
最近は、同じ空間にいても右と左で違うゲームをしていて、各々別の虚構に閉ざされているディスコミュニケーションもありそうだ。
たまには、子どもに嫌そうな顔をされながら、子どものするゲームを教えてもらいながら一緒にやってみるのもいいかもしれない。
(文責:K.N)
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