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返信

前略。 お手紙ありがとうございます。
締切日ぴったりに原稿をあげて、意図せず無言の圧力をかけてしまった私が、お返事申しあげます。
 
 さて、みことの3人の「甘え」についてですが、そういう視点で3人を眺めたことがなく、

『そこそこ良いバランスで「甘え」「甘えさせる」関係がうまく成り立っているのかなと思うのです。』

と言われれば、そうかもしれないな、くらいの感覚です。
 
 私にとって「甘え」は家族や恋人のような関係でのみ発動するもので、友人関係でもなかなか、仕事の関係では絶対に発動しないものだからです。そういう意味で、私は「甘え」のない、父性社会の住人なのかもしれません。私が思う「甘えの許される関係」である家族や恋人と言うのは、東畑(2022)が言うところの、ナイショのつながりです。親密な関係ゆえの傷つけ、傷つきもあれば、深い理解や癒やしもある関係です。

 これに対して、みことの3人は、いくら仲がいいとはいえ、シェアのつながり(共同性)です。カウンセリングルームを経営するという目的を共有し、クライエントファーストでときには周囲と戦うという気概、心理士としての大変さ、母として・女性としての悲喜交交ひきこもごもを共有し、支え合い、お互いを傷つけない関係です。お互い傷つけない、相手が自分を攻撃してこない安心感があるので、楽に息ができるし、思ったことを比較的何でも言い合えます。色々と言い合う中でケアし、ケアされる関係でもあるし、心理士としてのスキルを高め合う関係でもあると思います(土井の言う「甘え」はここに存在するのかもしれませんね)。
 
 みことの3人がうまくやっているのは、今言ったように目的を始め様々なことをシェアする関係だからだと思いますが、ひとつ私が感じている「秘訣」は、3人が持っている「バランス感覚」です。例えば、誰かひとりが職場での愚痴を言うとします。いかに腹が立つ出来事だったか、いかに相手が無理解だったか、などなど。他の二人も同じ職種で非常勤の立場で働いたことがあるので、良くわかります。大変だったね、お疲れさま、と労う。愚痴を言った人のイライラをちゃんと受け取って、一緒に怒ったりもします。でも、怒りがエスカレートしそうになったり、相手に対して攻撃的になったりすると、3人のうちの1人が、まあまあ、となだめたり、違う見方や打開策をポンと出してきます。そして、話が収束に向かう流れが出来てくる、という感じがあるのです。1人ではイライラしているだけのことが、3人で話すと軌道修正されて、なんとか明日以降も健康に働いていけるようになれるのです。これは3人それぞれが臨床で培った「バランス感覚」を持っているからでは、と思っています。

 このバランス感覚は、3人の意見が食い違ったときにも働き、趣味嗜好が違っても、喧嘩にならずにすんでいます。例えば、カウンセリングルームの内装に関しても、刺激が多くて面白いものを好む人、ガーリーで可愛いものを好む人、シンプルで実用的なものを好む人、で3人バラバラなんですが、なんとか落ち着いて運営をしているのはみんなバランスをとるのがうまいから、ではないでしょうか。
 
 1人ではバランスを欠いてしまうときにも、3人でいるとバランスが取れる。3人よれば文殊の知恵とはよく言ったものです。1人ではなかなか挑戦できなかったカウンセリングルーム開設も、3人で助け合ったから出来た、と思っています。
 
 とはいえ、私達の小舟はまだまだ漕ぎ出したばかり。これからもバランスを保って頑張っていきましょう。
 
 さて、新しいコラムはリレー書簡の形をとるようなので、もう1人の考えも次の回で知れるのでしょうね。ちなみに「家族だって他人」のコラムの執筆スタイルですが、私の場合は一番言いたいことが最初にあって、全体を書きあげてから、タイトルを最後につける方法をとっていました。なので、目次を作りたいからタイトルだけ先に出して、と言われても無理… というのが本音です。
 
 さて、そろそろ筆を置いて、次の方に順番を回しましょう。またお話する機会を楽しみに。
 
 
草々
M.C.

※参考文献
 東畑開人
 『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』 新潮社,2022 


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