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蒼色の月 #49 「真実①」

夫が家に帰らなくなって4ヶ月。
来月からは、悠真は高校3年生、美織は中学3年生、健斗は中学1年生。
悠真と美織は受験生になり、いよいよ我が家はダブル受験。
大事な年だ。

家事と仕事と子育てと、こなしてもこなしてもやることが押し寄せる日々の生活。夫のこともあるのだが、目の前のやるべきことを、必死にこなすだけで私は精一杯だった。

夫は家を出て以来、義父母の家で寝泊まりしている。
私から、夫に何度か話合いを求めてもなんだかんだと理由を付けては話し合おうとしない。
家を出て、一度は離婚届を突きつけたのは夫の方なのに。夫が何を考えているのか、私にはわからなかった。もはやわかろうと努力する気力もなくなった。

私はこの半年で10キロ瘦せた。

設計事務所で仕事上の最小限の会話を交わし、働いた分の生活費をもらい、家に帰れば子供達の前で元気な母親のふりをする。夜、疲弊した心は安定剤で無理矢理眠らせて休ませるしかない。

義父母との約束を守っていれば、いつか夫は帰ってくる。
本当にそう思っているのか、そう思いたいだけなのか。
もう自分でもわからない。

疲れた。

夫も事務所も全て放り出して子供達と家を出て、全て終わりに出来たならどんなにいいか。
けれど、それで私が一瞬楽になったとしても、子供の心を傷付けるのでは、結局その先には罪悪感と苦しみしか私にはない。まして子供たちの生活を、未来を守れないとなればなおのこと。
私は逃げても逃げなくても、どっちみち苦しみの中ということだ。

「俺たちは麗子の味方だ。ちゃんと事務所を守っていれば健太郎はお前の所に帰ってくる。健太郎はうちでちゃんと預かって説得する」

縋るのはその言葉だけ。
ここまできても、子供達のしあわせのため元の家庭を取り戻したいという気持ちは私の中から消えない。
それが正しいのかどうかは、私にもわからない。
多分正しくはないのだろう。
しかし消えないのだ。

それが子供達への、愛の証であるかのように、私は苦しい気持ちを抑え、今も事務所に行き続けている。

家を出てから夫が、子供達に会ったのは暮れと美織がケガしたときの二回だけ。夫は子供達に電話すらしてくることはない。

口には出さないけれど、子供達が不安な気持ちでいることは充分に感じる。

家に帰ってこなくても、せめて会うことだけでも、電話だけでもしてくれたなら少しは。子供達が少しでも安心するために、父親の愛の切れ端でも感じることが出来たなら。

なんとかして夫に子供達に会ってもらおう。
会えないなら電話でもいいから、子供たちと話してもらおう。

私はそう思った。

それくらい求めたっていいじゃないか。
夫は子供達の父親なんだから。
子供たちの当然の権利だ。

でもどうやって?

その相談がしたくて、私は久しぶりに義父宅に電話をした。
電話口に出たのは義母だった。


mikotoです。つたない記事を読んでいただきありがとうございます。これからも一生懸命書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!