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蒼色の月 #133 「離婚調停不成立③」

私が今日目標としてきたもの、全て夫に了解させることができた。

「それでは、休憩を挟んで裁判官同席の元、お話がありますので一旦待合室の方でお待ちください」
調停委員がそう言った。

私は結城弁護士と持ち合い室に戻った。

「麗子さん、頑張りましたね」

「先生、これで長男を希望の大学に送り出してやることが出来ます…ありがとうございました!」

あんなにはっきりと、言いたいことが言えたのは、結城弁護士との綿密な打ち合わせと、先生の後押しがあったからだ。
先生が私を信じて、私に思いのたけを発言させてくださったからだ。
私の目から涙がこぼれた。
いつもの涙とは違ううれし涙だ。

「麗子さんの頑張りですよ!」と結城弁護士。

「先生、ところで裁判官からお話っていったいなんですか?」

「調停は今日で終わりって事です。離婚調停は不成立です。裁判所はこれ以上話合いを続けても、結論が出ないと判断したんです」

「え?今日で終わりなんですか?ということは、もうここに来なくてもいいんですか?離婚はしなくていいってことですか?」

「そうですね。今回のこの調停では、離婚にはなりませんでした」

そうか。
長男の進学費用を確保できただけでなく、もうなんだかんだと離婚を迫られる調停も今日で終りなのか。
私は今まで両肩に背負っていたものが、軽くなったようで力が抜けた。

「それでは、もう一度調停室にお願いします」

休憩が終ると、書記官が私たちを呼びに来た。

調停室には裁判官、二人の調停委員、そして書記官、夫とその弁護士が既にいた。
そしてそれから裁判官により、離婚調停の不成立の確認が行われた。
不成立と裁判所側が判断した理由などが述べられたが、最後に裁判官が私に向けて言った。

「麗子さん、息子さんの大学2次試験、うまくいくといいですね。うまくいくように私も祈っていますよ」

「ありがとうございます…ありがとうございます…」

本当ならば一番祈らなければならない父親と、赤の他人でもこうして祈ってくれる裁判官と。
夫や義父母や美加の母のような、私の考える常識を逸脱した人間に関わってきたこの1年半。
世の中には裁判官のような善人もいるんだなと思うと、私の心は救われたのだった。

やった…
やりきった…

これで晴れて、悠真を希望通りの大学に送り出してやることができる…。
安心した4年間の大学生活を送らせてやることができる…。
私にはこれ以上のしあわせはない。母親だから。

我が家を、羽ばたいていく悠真の未来に幸あれ。

2次試験まで後一か月を切った冬のことだった。



mikotoです。つたない記事を読んでいただきありがとうございます。これからも一生懸命書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!