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17話 風が踊る場所

 竜の首コロシアム『グランドマスターズ』2次予選がこの日行われた。1次予選突破をした者達の戦いなので、それなりに落ち着いた雰囲気を持つ戦士たちが闘技場にいる。
 1次予選は単にふるいにかけただけ、本当の闘いは2次予選から始まる。2次予選は運営からは”メイクマスター”と呼称されている初心者バトル卒業の戦いである。
 2次予選からは飛竜も続々と参戦する。
 2次予選開始前の説明会にて、運営から話されたことは、三頭の飛竜が参戦すること。
 名前は舞踏竜ベルキュロス。刃竜カーマレギオン。そして風牙竜サーベリオス。彼ら三頭はそれぞれある属性の攻撃を得意とする飛竜だった。
 今回の課題は風属性への対処能力だ。とはいうもの風属性へ対処するのははっきり言えば無理だ。それは攻撃が竜巻やカマイタチなどの自然発生するものと似ているから。
 説明会が終わると彼らは闘技場の選手控室へと戻っていく。

「聞いたことあります?舞踏竜ベルキュロス?刃竜カーマレギオン、風牙竜サーベリオス」
「風牙竜サーベリオスは割と有名な飛竜だな。サーベルタイガーのような牙を持つ素早い身のこなしの飛竜だよ」
「舞踏竜ベルキュロスの噂なら聞いたことあるわ。何でも踊るような身のこなしで風だけじゃなく雷も操るという話よ」
「刃竜カーマレギオンはキールカーディナルでごくたまに現れる飛竜ってお父ちゃん、言っていたなあ」

 選手控室から観客たちのため息と歓声と悲鳴が聞こえた。1次予選とは明らかに違うメンツに早速犠牲となってしまった選手がいたのであろう。
 無情な棺桶が係員の手で運ばれる。その場は凍り付く。これで犠牲者は15人目だからだ。1次予選突破を果たしたのは65名。
 これだけでも大したものだが、既に15人が殺されてしまった。冗談では済まされない人数だ。
 
「冗談では済まされない犠牲者だね」
「明らかに2次予選では殺しに来ているよね、運営も」
「2次予選突破したら、貴重なアクセサリーを景品にするって、こういうことだったのですね」
「突破できるなら景品としてあげるってわけね」

 それぞれが不安と極度の緊張に包まれる中、インビジブルナイツで一番手に名前を呼ばれたのは、彼だった。

「レンドール・ボーフォード選手!闘技場入り口までお越しください」
「今回は俺が一番手か。いってくる」
「この状況、打開してくださいね」

 闘技場入り口で彼は深く息を吸い、落ち着かせるように深く息を吐いた。
 そして拳銃の確認をして、長い銀髪を止めたリボンをもう一度きちんと結い直す。レンドールの癖のようなもので、髪の毛に触れることで精神を落ち着かせるらしい。
 光の先の闘技場へ視線を移すと彼はゆっくりとした歩調で闘技場へと姿を現した。
 太陽が燦々と降り注ぐ中、舞踏竜ベルキュロスが華麗にその姿を現した。暗緑色の鱗を持つしなやかな身体をした飛竜だ。
 レフェリーの鬨の声と共に試合は開始された。

「試合開始!」

 レンドールが拳銃に弾を装填する前に舞踏竜ベルキュロスが先制攻撃してきた。まるでとびかかるように右側の鋭利な翼で切り裂くように攻撃する。
 レンドールはバク転しながらそれを紙一重で回避する。すると彼の頬に血が流れた。右の頬に血が流れる。

「ちっ。かすったか」

 舞踏竜ベルキュロスが威嚇してくる。そして両者はしばしにらみ合う。

「出だしがとても静かな戦いだ」
「さすがの魔法騎士も攻めあぐねているのかな」

 レンドールも同感だった。舞踏竜ベルキュロスとは初対戦だ。どういう攻撃するかもわからないし、どういう戦い方をするかもわからない。
 弱点も全く知らない。炎か、氷か、雷か?するとベルキュロスが放電した。身体中から雷撃エネルギーを纏わせる。

「雷か。ということは弱点は氷か!迂闊に近寄るのは危険と見た。さっさと終わらせてもらう!」

 レンドールが両方の手に氷の魔力を手のひらに集める。まるで吹雪のように荒ぶる氷の魔力を集める。

「貴様は氷の弾で撃ち殺すことにしよう」
「魔笛散弾射!」

 レンドールが手のひらから息を吹いて、氷の飛礫を散弾銃のように発射した。
 舞踏竜ベルキュロスが吹雪のような攻めにうろたえている。身体を動かそうにも氷の散弾が四方八方から襲いかかり動けない。
 そのまま彼は押し切るつもりだ。次々と氷の魔力の散弾を生みだし、手のひらから発射させる。
 観客は余りの猛反撃に魔法騎士の恐ろしさを知った。舞踏竜ベルキュロスが蹂躙されている。あれほどさっきまで優位に立っていたのに、それをひっくり返した。
 舞踏竜ベルキュロスはその舞い踊るような体術を見せることないまま、一気に倒された。

 続けさまに2回戦に突入する。次は刃竜カーマレギオン。黄色の飛刃と呼ばれる鱗をまるで彼の魔笛散弾射のように浴びせるという飛竜だ。
 しかも纏う鎧を貫通して、裂傷状態という出血状態に陥るという。放っておけば出血多量で死んでしまう。性格は獰猛かつ狡猾。
 その黄色の飛竜が風に乗り姿を現した。
 
「こいつが刃竜カーマレギオン。距離を置くか」

 レンドールが意識的に距離を置くと、カーマレギオンが飛刃を飛ばしてきた。刃のような鱗が彼の身体を切り刻む。

「ううっ!こ、これは!?鱗か!?あうっ!」

 レンドールが回避運動する度にカーマレギオンを先を読んで、必ず自分の飛刃を食らわせるように飛ばす。
 傍から見ればレンドールがワザと食らって見えてしまうのが恐ろしい所だ。

「何をやっているんだ?旦那は?ワザと食らっているのか?」
「いいや。カーマレギオンが旦那の身体の動きに合わせて鱗を飛ばしているんだ」
「飛竜の中には頭の良い奴がいるんだな」

 このままでは文字通り生殺しではないか。レンドールは距離を置くとかえって危険とわかったので、一気に背中の剣で加速しようとする。
 しかし。

「ううっ!何だ!?血が…止まらない…!」
「裂傷状態だ!」
「旦那!迂闊に動くと血が止まらなくなるぞ!」

 これが裂傷状態か。レンドールは回復魔法を唱えて窮地を脱しようとするが、カーマレギオンから絶えず飛刃が飛んでくる。
 これではジリ貧だ。こうなったら、回復を諦めて攻撃するしかない。
 レンドールはイクシードで一気にカーマレギオンの懐に入った。
 そして、攻勢に転ずる。

「ラウンドフォース!」

 攻防一体の技ラウンドフォースで回避しながら、回転斬りを食らわせると立て続けに技を出した。

「クライムハザード!」

 突き刺した剣を今度は上空に引き裂きながら持っていく。カーマレギオンの尻尾が斬られた。上空に飛び跳ねたレンドールは今度は大きく袈裟斬りをする。

「シールドブレイク!」

 地上に降りると、最後に十八番の技を炸裂させた。

「桜花気刃斬!」

 まるで、剣技の総決算を見させられた試合は刃竜カーマレギオンの身体が見事に微塵斬りにされて終わった。
 だが、レンドールはまだ裂傷状態だ。無理に身体を動かしたので血が流れて、かなりの痛みを感じる。
 3回戦の相手が出るまで、彼は回復魔法で傷を塞いでいた。

「あ、後1戦。何とかなるか」

 3回戦が開始される。風牙竜サーベリオスが、真っ赤な体躯を見せて登場する。口からはサーベルタイガーのような牙。その牙は獲物の返り血で真紅だが、磨き上げると群青色に輝きを放つという。
 裂傷状態を脱したレンドールは素早く拳銃に氷結弾を装填すると一気に速射する。
 サーベリオスは聞いたことがある。こいつは氷が弱点だから得意の竜巻ブレスが来る前に倒す。
 だが、やはり風牙竜サーベリオスはここでレンドール目がげて竜巻ブレスを吐いた。
 
「うおっ!?」

 竜巻ブレスに巻き込まれて彼の身体が宙に浮いた。細かい風の刃が彼を刻み始める。

「今度はカマイタチか、だが…!」
「そうそう、刻まれ続けるのは性に合わないな!」

 その風の力を利用してレンドールは逆さまに落下して剣を風牙竜サーベリオスに向けた!
 竜巻の風を利用して、彼が必殺技を出した。

「スパイラルソード!」

 身体ごと回転してまるで独楽のように刃を立て風牙竜サーベリオスを切り刻んだ。
 サーベリオスの背中に剣が突き刺さる!真っ赤な血が傷口から出た。レンドールが背中に深々と剣を刺す。
 そしてある呪文を唱え、サーベリオスの身体の中を凍結させた。

「コキュートス!」

 氷結地獄にも等しい氷が風牙竜サーベリオスの身体を凍てつかせる。やがて体内を循環する血液まで凍らせたサーベリオスは力なくその場を倒れて力尽きた。
 レフェリーは風牙竜サーベリオスに近寄り、既に事切れているのを確認すると高らかに宣言した。

「レンドール・ボーフォード選手!2次予選突破とする!」

 観客は本日初の2次予選突破を果たしたレンドールに賛辞を述べる。

「やったー!すげえぜ!旦那~!」
「やばい!今の試合、10倍だ!オッズが美味しすぎる!」
「そっちを買えば良かった……」

 レンドールも観客に笑顔を見せて、そしてため息をついた。そのまま選手控室へと去った。
 ”さすがに今回はやばかったな”。これがレンドールが漏らした感想であった……。

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