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ショパンの明るい悩み相談室は今日も行列

 クラシック音楽愛好家の方の中で、ショパンというのはとてもビミョー(カタカナ)な音楽家ですよね。

 まず、私立の音大ピアノ科でアンケートを取ってみるとしたら、女子学生のおそらく9割くらいが好きな作曲家の第3位までにはショパンを入れると思います。

 これがですね、作曲科や楽理科(作曲や音楽史など学問的にやる所)の東京藝術大学の男子学生にアンケートをとると、ショパンが好きな作曲家のトップ3に入る確率は0だと断言できます。

 ……と、「断言します」と書いちゃったので東京芸大楽理科出身の一緒のオケやっている男友達(そいつはチェロ)に、昨日LINEで聞いてみましたが、「そらそうだわな」ってことでした。

みこちゃんLINEによる

 さて、こっから分かることは、ショパンは女性に大人気だということですが、それはショパンがちょーイケメンだったことは別にすれば、やはり曲が女性ウケする、そして、作曲を志向するようなとんがった人たちの評価は低いということになりますよね。

 楽器は弾けないけど、ショパンなんて無自覚に弾いているバカ女ピアニストに比べても遥かにクラシック通なんだ俺は!を自認する人もまた、ショパンは嫌い、聴かないという人が多いのですが、そのビミョー(カタカナ)なカッコつけ方はよくわかります。

 ショパンが好きだとか、悪くないよねなんて言うと、通な人たちに、
ふふん(¬_¬) と軽蔑されそうだと思って警戒しているわけですね。ちなみに、そういう人に限って、ショパンが大好きな凄いグラマラスな美人を奥様にしているというパターンもいっぱいあるあるというのもビミョー(カタカナ)に面白いですね。

 自分はインテリフェミニストだけど、奥さんはバカでショパンが弾けておっぱいが大きいのがいいというわけで、間違いなく上野千鶴子の餌食となるタイプです。

 みこちゃんはというと、ときに男勝りですが、リアルみこちゃんは(ネットでもよく見れば実はかなりそうだと思いますが)ある意味典型的な女子脳であります。でも、作曲にはむちゃくちゃ詳しいですし、作曲の理論こねくり回すの大好きです。さっきの楽理科のKなど簡単に論破することもできます。しょっちゅうからかって遊んでる。でもでもショパンは意外にも好きなのです。

 さて、このショパンのビミョーさを解明するのはとっても面白そうですね。

 ここで、表題の「ショパンの明るい悩み相談室」というのがそのビミョーさを解き明かす補助線となってくれるのです。

 ショパンというのは一言でいうと、メランコリックなのに明るいということです。ここらで曲を聞いてみましょう。ショパンの中でも良くテレビCMやドラマでも流れる有名な曲なので、知っている方も多いでしょう。前奏曲第15番「雨だれ」です。

 前回やりましたベートーヴェンの、悲愴と似ているな、と思った方はそれこそ通ですね。

 旋律の詩人ショパンにしては珍しくとても和音先行の作曲の仕方をしています。縦方向にずんずんと和音が響いているその中に、美しい旋律が載せられている感じがしますよね。

 でも、この「雨だれ」の音、ベートーヴェンがとても意志的で男性的だったのに比べて、どこか明るくないですか?白のワンピかなんかの女性が雨粒が打ち付ける瀟洒な家の出窓に右肘を付いてメランコリックに外を眺めて、恋人のことを夢想している、なんてイメージが湧いていくると思います。

 これなんか、ショパンの作曲じゃないけどイメージとしてまさに、そんな曲ですね。着ている服は黒ですが、メランコリックなんだけど、そのメランコリックをどこか楽しんでいる。もう、あたしをこんな気分にさせて、とメランコリックな表情をしながら頭の中は、マゾ幸福的に彼氏のことでいっぱいですよね。悩みを抱えていると思いますが「ねえ、何悩んでいるの」とはぜったいーーいーーに訊かない方が身のためですよね。男の惚気話3時間聞かされるに決まっています(爆)。

 そうなんですよ、明るいんです、悩みが……。ベートーヴェンの悩みとはまるで性質が違っている。

 では、本題でこれをみこちゃんが作曲理論的に解明してみせます。

 意外に思うかもしれませんが、ショパンはJAZZのコード理論で解釈するとものすごく明快に理解できます。まずは、JAZZスタンダードナンバーの名曲中の名曲、Mistyを聴いてみてください。

 これを、クラシックもJAZZもあまり知らないけど、音楽は大好きだという人に聴いてもらうと、さっきの前奏曲14番「雨だれ」と、両方ショパンだと聴こえる人が多いと思います。雰囲気は(というか作曲家のやりたいことは)そっくりですよね。

 なんで似ているのかというと、それはこの動画のサムネにもりますように「10度の和音」を多用しているからなのです。この動画の理論の説明とても明快なので、作曲も面白そうだなぁ……という人は冒頭の曲演奏の後の解説も是非どうぞ。

 オクターブは8音で構成されているのに10?なんてあるの?という疑問を持った方がいると思いますが、何のことはない、ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド(ここまで8個で1グループ)の次に、もう一回、レ・ミとつなげると、ド(1個め)・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・レ・ミ(10コめ)となりますよね。

 ドレミのすぐ近くのミの音をオクターブ上においたのが10度の和音で、これがまた、絶妙に世界の調和!的ないい響きがするのです。ポピュラー曲でも、ああ、開放的ないい曲だな、でも開放的なだけじゃなくてなんかメランコリックだな、というのはほぼ間違いなくこの10度の和音を使っています。

 リチャード・クレイダーマンの「渚のアデリーヌ」を分析してみましょう。

 最初の1小節目は、何の変哲もないハ長調(C)で、一番上の音が「レ」で(9度和音)、すとんと落ち着くように、2小節目でその9度の和音のレが1音上昇してミの音(10度)にどっこいしょって、落ち着いていますよね。これは、作曲的にはものすげー単純なほとんど、作曲を今日から始めた人でも書けるような曲なんですが、それでも、メランコリックで明るい、駅前の明るい悩み相談室クリニック待合室で流れている名曲になっていますよね。

 ではここで、さっきの「雨音はショパンの調べ」の楽譜も見てみましょうね。思いっきり10度が使われています。

 主旋律が始まるところを、楽譜が読める方だけで良いので、見てください。読めない方は、明るい悩み相談室だなあ、と実感してみてください。

 作曲的な理屈を書きますと、左手の小指5の音(ルート)と、右手の5(一番上の旋律)を同時に視界に入れてください。Dm7でレミファのファ、でルートがレで一番上がファ(混声四部合唱では、ソプラノとバスでつまり、クラシック楽典用語の外声部)、次のコードのBb on Dは、Dm7の代理コードなので飛ばして、次のドミナントのCですが、ルートが左手の小指(5)のド、で右手のコードボイシングは最上位がミになっていて、これも外声が、ルート(1度)と旋律(10度)になっています。代理コード飛ばして見てくださいね。ほぼ全部これですよね。

 ドレミのミはとても重々しいのです。ドとミというのはもともと物理学的な周波数もとても親しいものを持っていまして、近くに持ってくるとものすごくお互いを補強し合う波動を持っています。

 ところが、そのミを遠ざけて、一オクターブ上に配置すると、物理学的な波形はサインカーブで周期性が8度で出るので、減衰振動になりながら、共鳴の度合い(波形)は同じなんです。


波形は同じで振幅 r が一定のまま、周期 t がX軸方向に伸びたり縮んだりするってことだね



 近い波動の人が近くにいると疲れますが、長年連れ添った夫婦って、波動は同じだけど適度な距離感持っていますよね。あれと同じことを音楽の中で人為的に起こすことができます。余談ですけど、「引き寄せの法則」が大好きなんだけど、うまくいかない、という人は10度和音で構成された曲をいっぱい聴くと効果あると思うよ。


 これが「ショパンの明るい悩み相談室」の正体10度の和音でした。

 恋愛も、言ってみれば当人にとっては深刻ではない適度な悩みがあった方が楽しかったりしますよね。深刻な悩みはそれこそ身を焦がすような苦しみなわけですが、適当にメランコリックな気分が加わると、何だか大人の恋をしているような(笑)そんな気分にも浸れちゃったりします。

 そうそう。だから、これをご覧のクラシック通の男性がよく行きそうな高級レストランで流れている音楽、演奏家の間ではあれをラウンジピアノと言いますが、高級ホテルや高級レストランでピアニストが弾いている曲は、たとえその原曲がこてこての演歌でったとしても、みこちゃんが10分で完璧に、帝国ホテルで流れて当たり前のムーディーな音楽にすることができます。それは、10度の和音で編曲すればいいだけなので、編曲もものすごく楽なんですよ。

 みこちゃん家では、父の気に入ったお客さんが来ると、みこちゃんがピアノ弾くんですが、一番ウケるのは、そして実はテクニックのないみこちゃんが上手だねーとお客さんがまんまとだまされて感動されるのが(爆)、演歌を10度編曲した曲です。森進一でも八代亜紀でも、コード進行さえ眺めていれば、JAZZ理論がわかっている人は一発で「明るい悩み相談室」的曲に即興で編曲できます。そして、これは実はとても簡単なのです。みこちゃん家の応接間も帝国ホテルに早変わりしますよ。

 このみこちゃんの音楽史~ギリシャ音楽からSMAPまででは、クラシックを経由して近々JAZZ方面に移動しますので、そのあたりの編曲技法もどんどんご紹介していきます。

 そんな音楽を聴きながら本日はお別れしましょう。

 ではまたね♪


 


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