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よわよわ作家とつよつよ編集さん 18

18 手を伸ばして




2Pみつき「……メールするんだ? 米田さんにしてみれば、気苦労が増えるだけなんだよね。こんな負担、編集さんとして、仕事の範囲外じゃないかなって思うんだけどね?」

1Pみつき「そこは本当に申し訳なかったです……(反省)」


 というわけで、泣きつきました。GOです。
 メールを超要約すると、
『こんな思考になっている危険な状態なんで、助けてください。どれくらい危険かというと、もう表紙タイトル文字は明朝体でいいですって思うくらいヤバいです
 ……です。

 明朝体でいい。――よく考えなくても、ロゴを担当されてる編集さんにもデザイナーさんにとってもこの上なく失礼な話なのですが、たぶん周りのことまで考えられなかったのだと思います。
 もともと自分の筆力に自信を持ってないうえに、書けなくなってることで、余裕がなくなってしまったのですね。(そして明朝体が好きな方々、ごめんなさい。明朝体にも失礼でした)
 それに対し、米田さんのお返事が以下でした。


米田さんのメール『まず、大変言いにくいことを教えていただき、ありがとうございます。そしてこれからお伝えする内容は、水面下の他社に関わることにも触れさせていただきますので、どうかくれぐれもご内密にお願いします』

 ……とのことでしたので、以下、米田さんからのお返事も超要約になります。

米田さんのメールの続き
『個人的にみつきさんを不安にさせてしまっている状況について、とても心苦しく思っています。イラストレーターさんの件でもお待たせしてしまい、ロゴまで進めば後は大丈夫だろう……と思っていたらこの内容なので、頭を抱えております。
 もう不安から抜け出したい、楽になりたい、というお気持ちも分かります。いっそロゴはプロに頼まず、ささっと既存書体で簡単に済ませてしまいたい、と考えてしまうのも仕方ないことだと思います。
 しかし商業作品において、ロゴを含めたパッケージングは非常に重要であり、表紙次第で売れ行きが何倍も違ってしまうというシビアさがあります。 
 そして一作品だけロゴが既存書体で手がかかっていないものがラインナップに並ぶということは、お店で例えるなら他の商品はキレイにラッピングされているのに、それだけラッピングなしで店頭に並べられている状態であり、お店の姿勢や質を疑われる内容になってしまいます。
 レーベル側はより多くの読者に手を取ってもらい、満足してもらえるものを届けていくために、可能な限りの手を尽くしていきます。みつきさんの不安はこちら側の不手際やタイミングなどが要因で、みつきさんにまったく落ち度がなく、理不尽な事態が重なってしまっていて本当に申し訳なく思っています。しかし、レーベルとしての責任は『作家さんの作品をより多くの方にお届けして、ファンの獲得や報酬に繋げていくこと』であり、そのための仕上げに関して妥協することはできません』




みつき「…………。(ノД`)・゜・。デスヨネ……」



 他にも、こちらのメールでは、米田さんが個人的に見聞きしたという、他の作家さんたちの哀しくて理不尽な出版ケースも教えていただきました。
 これは「みつきよりも大変な思いをした方たちがいる」ということではなく、「みつきは出版社さんに大事にされてるよ」と伝えてくれたのだと思います。

 以上のように、米田さんのメールの内容は大変ていねいに書かれており、誠実に真摯に、対応してくださっていることがわかるものでした。

 ただ、問題がありまして。

 私の読解力が著しく減っていたのです。

 何度も読み返したんですが、頭になかなか入ってくれない上に、印象強いところだけをピックアップしたため、おかしな解釈につながりました。
 すなわち、

『みつきより理不尽な思いをした人はたくさんいるよ。あなたのケースなんかたいした不運じゃないんだから、受け入れて強くなってね』

 というトンデモ解釈です。

 そう、認知がおかしい。悪い方へ歪んでいたのです。
 けれどこのときはまだ認知の歪みに気づけていません。私を助けてくれるはずのメールをいただいておきながら、自らの歪みによって、さらなるダメージを負ってしまう事態となりました。

みつき:そっか。これが出版界では常識なんだ……これからは、こういうことに慣れて耐えて、いちいち哀しむようなことがないように心に鎧をつけないといけないんだ……。)――と、考えました。

 ただ、心のどこかで『米田さんがそんな酷いことを言うわけない』という思いもありました。だって今まで、米田さんのくれた言葉には、温かさや誠実さがあったから。
 ゆえに念のため、次の返信で質問を入れることにしたのです。

みつき「略)おそらく私を傷つけないようにご配慮くださってると思いますが、自分の読解力に不安があるので、いまいち正確に受け取れたのか自信がありません。これこれこういう解釈で合ってますか?(と、間違えている解釈を例に出して聞いてみる)――合っているのなら、受け入れますので大丈夫です」

 すると。

米田さん「略)こちらの件ですが、簡潔にお伝えさせていただくと、
『人間相手である以上、想定外のことが起きてしまうことはどうかご容赦ください。その上で私のやり取りが至らぬことで不安を膨らませてしまい、ごめんなさい』という内容になります」

 という返事が来ました。
 ここで、ようやく自分の認知が歪んでいることに気がついたのです。
 

 ……ゾッとしました。
 もしそれに気づけなかったら、この先どうあがいても関係は壊れていたでしょう。


 米田さんも私の状態に気づいたのか、「一度、通話しましょう」と提案してくださいました。
 けれど。 
 通話はありがたい配慮だなと思う一方、今、一対一で話すわけにはいかないな、とも思いました。
 だって、これで言いたいことを言ってしまったら、感情を全て露わにしてしまったら……どうなります?
 ただの依存になってしまいませんか?
 
 感情のコントロールも出来ずに、ズルズルと相手に頼ることの怖さは、作家なら誰もが知るところです。自分の創作ができなくなります。ましてや仕事上の関係で、それがいいことなんてひとつもありはしないでしょう。(※精神療法で使用する依存関係などは除きます)

 自分の中に在る小さな意地やプライドのようなものが、「そっちに行ったらダメ!」と警告を発しました。

 米田さんと話す前になんとかしないといけない。

 とはいえ、不安定な自分の中で正常な自分のことを考えるって不毛です。バイアスでおかしくなってるのなら、私情を入れずに私を客観視してくれる第三者がいなくては改善は難しいです。

 しかし身内にも友人にも話せません。こういうときは他の先輩作家さんを頼ればいいのかと思うのですが、いきなりこんな重い話を話せる知り合いなんて存在しません。
 最悪、時間が過ぎて自然に戻るのを待つしかないかなと考えたところで、ひとり、そんな人がいることに気がつきました。



みつき「……そうだ、星乃先生がいる」



 困ったときの神頼み、ならぬ、困ったときの占い師……それは星乃先生。
 占いだけではなく、悩みごとへの客観的意見をずばりと伝えてくれる第三者。
 今回はそちらの面から、相談にのってほしいと思ったのです。

 さっそく、米田さんにメールの返信をうったあとで、星乃先生の予約を取りに行きます。
 人気な占い師さんだったので、一ヶ月待ちも覚悟していたのですが、このときは本当にすんなり、翌日の予約がとれたのでした。


>19に続きます

>第1話はこちらから


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