よわよわ作家とつよつよ編集さん 20
20 まだ、陽は沈まぬ
後日、米田さんとの通話の時間がきました。
みつき(妄想中)
『……セリヌン米田。私を殴れ。力いっぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と通話する資格さえ無いのだ。殴れ。』
……なんてことを想像しながら、通話の覚悟を決めるみつきです。
結局、星乃先生の言葉は噛み砕けないままでした。
これまでは、占いって信じる方だったんです。内容が良いときは特に。
けれど、今回はじめて「信じられない」という想いが胸の大部分を占めました。
1Pみつき「まちがってないって、言われてもね……。自分の創作に自信がないところは事実だと思うしねー」
2Pみつき「そういうとこじゃん? 決めつけ、思い込み、そして頑固」
1Pみつき「むう……。たしかに『自分はこういう人間だ』って言いきれる強さはない……。むしろ経験上、『他人から見た自分のほうが真実』だったりすることも多々あった……」
ふと思い出したことがあります。
私がショッピングに出かけた日のこと。素敵な洋服を見つけたので、さっそく試着をし、同行していた友人に意見を求めたことがありました。すると。
「着たいなら止めないけど、そんなに似合ってもないかな」
友人の答えは、感触の良いものではありませんでした。
「そっかぁ」と言いつつも、ガッカリです。諦めきれずに服を持ったまま立ってると、さらに友人は言いました。
「自己イメージと、他人から見たみつきちゃんのイメージはまた違うんだよ」
それを聞き、「なるほど」と納得し、服を戻します。
その後、数日経ってから例の服を見にいくと、やっぱり自分には似合わなかったことがわかりました。
みつきのファッションセンスが無い、ってお話ではなくてですね。
あまり自分の目を過信しないほうがいい、って話です。
思い込みが強いままで進むと、だいたい失敗します。(←してきました。反省)
ならば、自分に対しても「こうだ」って決めつけるのはよくないことかな、と思い、星乃先生を信じて、いくつかの認識をあらためることにしました。
ひとつ。私は自己肯定感がさほど低くはない。
ひとつ。メンタルもそんなに弱くはない。
ひとつ。文筆の才能がまったくないわけではない。……あるほうじゃないけど、なくはない。(震え声)
脳内グラフのメモリを少々引き上げます。
その上で、米田さんとの通話にのぞみました。
時刻は朝の八時。お互いのあいさつと少々の雑談を終え、本題に入ります。
+++
みつき「今回のことは珍しいケースだとは思うんですけど、同じ目にあっても耐えられる方はいらっしゃると思うので、結局は私の心の問題だなって思うんです。泣き言をいってすみませんでした」
米田さん「いえいえ。デビュー前のわからない未知の状態でってなると、苦しいですよ。これが一度、デビューを経験した作家さんだとそうでもないのですが、先の展開がまるで見えないから不安が通常よりものしかかってしまうんですよね。そういう感情を持ってしまうのも仕方がないことだと思います。もっとみつきさんとコミュニケーションをとって、そうならないようにしなかったのは私の落ち度です」
いえ、そんなそんな。(慌)
だれも予想できないと思います……こんな展開。レアだし。(誰も悪くないという点がレア)
むしろ、十分にコミュニケーションをとってくださったから、回避できた部分が大きかった気がします。
米田さん「いい作品にして出していきましょう。また時間が経ったあとでも読んでいただけるように、動いていきたいと思っていますので」
みつき「ありがとうございます。今後もよろしくお願いします」
終始、和やかムードで会話が終わります。そこで、今朝いちばんに考えたことを切り出してみました。
みつき「それで、ここからは別のお願いなんですが……。書籍化までの一連のできごとを、体験談として、エッセイにさせていただけないかなって思うんです」
ちらりと頭の隅に星乃先生とのやりとりが浮かびます。
最初はエッセイなんて恥ずかしいし、人が読んでどう思うかなって考えると不安しか生まれないし、ぜったいムリって思ってたのですよ。
でも、今さらだなぁと思い直しました。
そういう感情を書くのが作家なのだし、恥をかいたらかいたで、早い段階のほうがいいのかな……と。
しかし米田さんの反応は、芳しくありません。
米田さん「出版社の事情をあれこれ書くのはタブーですので……」
――あっ、そうですね。当然ですね。
もっともな心配だと思います。ちょっとコンセプトを伝えるのを忘れていました。違うんです。
つまりは――。
「これだけ話を聞いて、こんな言葉をくれる編集さんがいる」ってことを、まだ知らないデビュー前の作家さんもいますよね?
以前の私みたいに、「編集さんと会うのが不安」って思ってる作家さんも、いるかもしれない。
一歩まちがえば、「私の編集さん、いいでしょ?」って、自慢話にきこえてしまうかもしれないのですが。(←違いますから。ほんとに違いますからね!( ;∀;))
「編集さんが素敵だった話」は、世の中にいくらあってもいいと思うんです。
だって、誰かと一緒に創るのって楽しいじゃないですか。『いつか自分もこんなふうに、編集さんと創りたい』って、思ってもらえるじゃないですか。
――という主張のもと、「タブーは書かない」などのこまごました条件を付けて、米田さんに許可をいただいたのでした。
米田さん「初めてデビューするよってなったときに、高確率で他の人にも起きそうな内容になるので、共感を呼ぶような書き方でお願いしますね」
みつき「私自身、転ばなくてもいいところに自らダイブしてるような気もするので共感まではお約束できないのですが、できるかぎり善処いたします」
そうして、米田さんとの通話は終わったのでした。
>21へ続きます
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