よわよわ作家とつよつよ編集さん 21(最終話)
21 よわよわ作家とつよつよ編集さん
さて、書き始めること林の如く、です。
このエッセイを書いたときは、最初はリハビリ程度に思ってはじめたのですね。
「気負わずに書けて、知人が見てくれる程度のゆるい日記でいいかな」と。
ところがいざ、キーボードを打ち始めると、止まらなくなったのでした。
それどころか、書けなくなってたはずなのに、書くことによって、自分の心が落ち着いてきたのです。
気がつけば、下書きが四万字越え。
日記といえど、少々気合を入れて読み直さねばならない分量になっていました。
みつき(……楽しいな? 以前、気晴らしのために買い物に行ったり、ゲームで遊んだりもしたけれど、それよりずっと)
書いているうちに季節がかわります。
ルーティンをこなし、日々の輪郭がぼんやりとなりかけたあたりで、米田さんから久しぶりのメールがきました。
米田さん「お世話になっております。たいへん長らくお待たせいたしました。表紙のロゴ装丁ができあがりましたので共有させていただきます。最終締め切り日がOO日で、OO月OO日の発行になります。本当にお待たせしてしまい申し訳ありません」
みつき「……ふにゃ?(´゚д゚`)」
できあがった表紙を見ますが、なんだか別次元からのメールのように思えてしまい、一度画面を閉じてしまいました。
……なんか。なんか、今、未来を感じるような文言があった気が。
この満たされた日常から脱却する兆しがあったような。
たぶん、メールには良いことが書かれていたと思うんです。数ヶ月前の私なら、喜ぶ内容だったのかもしれません。
でも今、心の中に「嬉しいーやったー!」っていう気持ちはありません。数分待っても同じ。それどころか、どの方向を向いたらいいのかわからなくなってきました。
みつき「どうしちゃったんだろ……?」
こんなはずじゃなかったのにな? と首をかしげます。
ホント、何が起きたのか。待ちすぎておかしくなった? あるいはマヒした?
自分の心をじっと観察してみます。
「どうせまた延びる」なんて、悲観的になってるわけでもない。心は穏やかだし、マイナスな感情は見つからない。
この状態が嫌というわけでもない。「今日はおやつあるよ」って言われたくらいの嬉しさはある。でもどこかに「それは私の好きなおやつだった?」って思う部分がある。
自分の気持ちを把握できないまま、もう一度米田さんからのメッセージを読み返しました。
米田さんのメールからは、「出ますよ」の気迫を感じます。だから、今回は本当に出るのだと思いました。
じゃあやっぱりそこは応えないとと思い、返事メールを書きます。
「嬉しいです! ありがとうございます。楽しみです!」――とキーを打ったところで、やっぱり違うかな、と削除しました。
本当は、違う。
ぜんぜん、ワクワクもドキドキもしてない。
一方で「また延びてもいいかな」と思います。あるいは、「本が出ないことになってもいい」とさえも。
だって、どちらの結果でも、編集さんと創った経験はのこってる。過程だって、エッセイでWEBに出せば、誰かは読んでくれる。
ここで消えたとしても、私のやることは決まっている。また書くだけだ。
2Pみつき「じゃあ、良い思い出になりそうなデビューじゃなくてもいいんだね?」
最近はめっきりでなくなっていた、もう一人の自分が問いかけてきます。
1Pみつき「良いデビューの思い出……それ、そんなにおいしいかな? 例えていうなら誕生日に食べるケーキくらいの嬉しさじゃないかなぁ。そりゃあ祝福されたデビューのほうがいいに決まってるけど」
(※他の作家さんの幸せなデビューを否定しているわけではありませんので誤解なきようお願いいたします。むしろたくさん幸せになってください☆)
そもそも私にとっての良いデビューって、なんだろう。
たしかに賞をいただいたときは嬉しかった。なんて幸運なんだろうって思ってた。
だから、デビューするときはもっと嬉しいだろうなって予想していたのに、直前になった今、それほど幸せな自分を思い描けない。
だって、デビューは通過点。
良い思い出になっても苦い思い出になっても、今後、小説を書いていく上で、支えになるほどのものにはなり得えない。
それどころか、たいして力量のない私がデビューで満たされてしまったら、この先どうするの。不安のほうが大きくなるんじゃあ? ――なんて思ってしまう。
だから、これからももっと、自分を彫って。
もっと、大事に磨いて。
自信満々にやるより、うだうだ迷いながら書くくらいでちょうどいいんじゃないかな。
『承知しました。どうぞよろしくお願いします。表紙も装丁も素敵です。ありがとうございます!』
結局、米田さんにはそんな返信をうちました。
それ以降、メールでのやりとりは途絶え、私はエッセイを書く日々になったのです。
+++
最終〆切日・前々日です。
米田さんからのメールがきてました。
「なんだろう。もう確認することなんてないはずだけどな?」と思いつつメールを開きます。(メールが来ていたのは昼間なんですが、私が見たのは深夜でした)
米田さん「ただいま準備を進めている最中なのですが、編集長から作品内の話タイトルが『数字のみ+話タイトル』だと読者が見づらくなるのでは? との意見をいただきました。
それで話タイトルのナンバリング部分の訂正を検討していただければと思うのですが、いかがでしょうか?」
みつき「……はい?( ゚Д゚)」
米田さんのメールの続き「よくある形としては『一章、二章…』『一話、ニ話…』『ACT.1、Act.2…』といったものになり、今作の場合だと『一話、二話…』の組み合わせがバランスが良いように感じています。
また、今作の文量でプロローグ+20話+エピローグは細かく分かれているため、話の区切りを5話(もしくは章)ぐらいにまとめられると良いと思うのですが、可能でしょうか?
最終締め切り日手前での提案で申し訳ありませんが、よろしくお願い致します 」
て。
……い。
い、い。
今ですかあぁ――――!?!?( ゚Д゚)・゜・。
あ、明後日〆切で今日ですか!?!? なんならすでにもう深夜なので、明日〆切になってます!! 明日は日中、出かける予定なんで、いないんですけどね!?
そんなの、そんなの……
やるしかないでしょ!!!!!!!!!!( ;∀;)
急いで、作品の小タイトルを書き並べ、区切りの良いところで分けました。
短い睡眠をはさんで起床。ついでに各タイトルも改変。なんとかそれらしいものに仕上げます。
やってるうちに誤字を見つけてしまい、それも修正。不安に襲われて、最初から推敲、修正。
昼間は、出先から米田さんにメールを送りつつ、終わらせました。
みつき「お、終わった……最後の最後までこれかあ。_:(´ཀ`」 ∠):_>モウゲンコウヨミタクナイ……」
そんなこんなで最終締め切り日。燃え尽きて灰になり、大地の一部となった頃、ようやく発売日を迎えたのです。
+++
書籍発売日です。
みつき「書籍出ましたーーーーー!!!!わーーーーーーーー!!!(拍手) 米田さん、ありがとうございます!ありがとうございます!!!!」
米田さん「おめでとうございます! めっちゃお疲れ様でした!!!」
みつき「ありがとうございますううううう!!!(握手&拍手)
ここまでこれたの、米田さんのおかげです!!!感謝ですよーーーーーーーー!!!」
米田さん「私はお手伝いをちょこっとさせていただいただけで、しっかり見事に作品を完成させたのはみつきさん自身です。本当にお疲れ様でした!!」
みつき「米田さんの力がなかったら、キレイなハピエンにならなかったと思っています。ありがとうございますうううう――――!」
(以下、熱が冷めるまで会話が続きます)
2Pみつき「めっちゃ、喜んでるじゃん……デビューは通過点じゃなかったの?」
1Pみつき「それはそれ。これはこれ。喜ぶべきときに喜ばないと後悔するでしょ」
かくして、私の作品は無事に世間に放出されたのでした。
長かったなぁ、と思います。あっという間だったなぁ、とも。
米田さんとWEB上での固い握手を交わしながら、これまでのことを振り返ります。
あのとき。私がいちばんひどい状態だったとき。
メールを打って、精神状態を知らせておくということができたのは、米田さんを信頼していたからだなぁって思います。
だって、こちらが泣きついても、冷たくあしらわれることを考えなかった。
当然のように、自分の気持ちを伝えれば、慰めだけではなく前へ進むためのなにかしらの回答をくれると思っていたのです。
それは些細なやりとりや小さな積み重ねがあってこそ。
はじめから私のような新米作家にもしっかり向き合って、関係を作ってくれた米田さんだからこそできたんだと思います。
つくづく、私にはもったいない担当編集さんでした。
作品を創る過程でのアドバイス、ネタにまつわる雑談などから、世界を広げてくれました。
今は、ひたすら感謝を伝えたいです。
+++
みつき「……書くことって、すごいよね」
何、当たり前のことを言ってるんだ? と皆さんは思われることでしょう。
ずっと昔から、ペンの力は証明されていますものね。
私も頭ではずっと、すごいことだって思っていたんです。でも、実感するまでに至ってなかった。
こんなに密接に、心と連動しているものがこの世にあるなんて。
もし、世界に文字がなかったら、書物がなかったら、人の生き方ってどうなってるんだろう。
今、何かを書いている私たちは、もしかしたら、素敵な武器を手にしてるんじゃないかな――って思います。
(武器だと何かと戦うためになるので、アイテムや魔法でもいいんですけど)
「書くこと」はそれだけすごい。
書くことで自らを癒したり、力を蓄えたり。あるいは誰かを喜ばせたり、励ましたりもできる。負けても失敗しても、文字の力は、必ず自分を超えていく。
ここで味わえるカタルシスや幸せは、本当に、「書く人」の特権だと思う。
2Pみつき「……そんな生業の末席に居られることを、嬉しく思うのでした。完」
1Pみつき「そこ、勝手に終わらせないでくれます……?」
2Pみつき「俺たちの戦いはこれからだ! のほうがよかった?」
1Pみつき「そだね。思うだけで終わるわけにはいかないよね」
もう一人の自分ともがっちり握手をしました。
今後もよろしく、な気持ちで語りかけると「がんばったじゃん」と返事が来た気がします。
他人様に褒められるのはもちろんなのですが、自分に褒められるのも、なかなか気持ちのいいものでした。
>終わります。
読んでくださって、本当にありがとうございました。
皆さまも、どうぞ素敵な創作ライフをお過ごしください。(*^_^*)
常葉みつき
>第1話はこちらから
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