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よわよわ作家とつよつよ編集さん 9

9 モヤモヤはじめ

 
みつき「どうしよう……」

 ぐるぐると本気で悩みます。誰かに相談しようにも、相談できる相手はいません。

 ①自分のモヤモヤをどうにかするために、あえて質問するか。
 ②笑顔ですべてのみ込んで、円滑なやりとりを続けるか。

 ここで、自分との真剣会議が始まります。

2Pみつき「まず、社会人としては正しい態度は②だと思うんだけど……それができないほど、みつきは社会性のない人間なの?」

1Pみつき「ん、やりすごすことはできるよ。でも、『延びることが平気です』とは思ってないし、むしろかなりのダメージだし、ここで『延びるのは避けたい』という意思表示すらしないのは、後々よくないんじゃないかなぁって思うのよね」

2Pみつき「不平不満があれば正直に言っていくほうが、あとで大きな不信に化けることもなくていいんじゃない?」

 もうひとりの自分の意見に、うなずきます。
 なんでもYESと応えて、ウソを隠して、それで最後までいけるのなら問題ないのですが、そこまで自分を信用できるかというと微妙です。

 それに、まだ改稿もすべて終わっていない状態です。
 メンタルコントロールができなくなって、作品に影響が出てしまっては元も子もありません。
 
1Pみつき「それなら、聞いたほうがいいよね? 米田さんなら、遅れたことにそれ相応の事情があると思うのよ。……っていうか、理由を言ってほしいよ。「忘れてた」ってことはないだろうけど、「忙しくてみつきの作品のほうまで手が回らなかった」というレベルのことでも、正直に言ってくれるなら、これまでの信頼は揺らがないと思う」

2Pみつき「あ、質問する気なのね? だったら、最悪の想定もしておきなよ? もし、まるっと無視されて事務連絡がきたり、『出版社ではよくあることなんですよ。わかってくださいね』みたいな答えがきたりしたらどうするの?」

1Pみつき「怖……。でもその場合、私の辛さはなくなるよね。期待があるほうが苦しいから」

 ――なんだかんだで、(後ろ向きなのは自覚しつつ)『質問したほうが、のちのち作品のためになるのでは』という方向に話がいきました。

 葛藤を続けた数時間後、返信をします。
 あえて一部分だけ、感情が出ている文面にしました。
 私が今回の件で、落胆してることをわかってもらいたかったのです。

みつき『前略)……なぜ、このようなことになっているのか、理由をお聞かせ願えますか?』

 尖った言い方になっていることを自覚しつつ(ごめんなさい)、暗い気持ちで返信を待ちます。
 もしこれで、『形だけの謝罪』が返ってきたら、心にウソをつきながら作品を創ることになるんだろうなと思いました。

 そして二時間後。
 米田さんから早い返信が来ました。

米田さんのメール(※内容は伏せます)
『(長文。五つほど事情と理由が並べられ、そのたびに米田さんが頭を下げている図が浮かぶ深刻な謝罪文)』

みつき「あ……(青ざめる)……」


2Pみつき「いーじめた――! みつきが担当さんをいじめた――悪い奴ううう――! いっけないんだ――っ!!!!」

1Pみつき「ち……ちがっ……」

 事情を聞いてみたところ、米田さんにさしたる非はなかったのです。
 
 そして、もうひとつ驚いたのはその内容でした。
 
みつき「米田さん……私が何でダメージを受けているのか、(伝えた覚えはないのに)わかってる……??」


+++


 遅れた理由として一番大きいのは、出版社さんの人事異動でした。

 もともと私の作品の表紙は、米田さんではなく別の編集さんがやることになっていたそうです。しかし、途中で担当編集の米田さんに変更になったとのことでした。
(推測ですが、米田さんに変わった時点で、絵師さんの希望を聞かれたのではないかと。←だからタイミングが変だった)

 ええと……。(思考に十五分)

みつき「人事異動なら、しょうがないよねぇ……」

 うなだれます。

みつき「引き継ぎが上手くいってなかったんでしょうねー。そこだけはちょっぴり悪かったといえなくもないけど、そんなのいちいち責められないよ。だって会社なら、ホントによくあることだもの――」

 自分にだって心あたりはある。怒っていいのは、一度も「報・連・相」を忘れず、人に迷惑をかけずに仕事をしてきた人だけです。
 きっと複数の方の、些細な連絡ミスが重なったんだろうなぁ、と推測しました。

1Pみつき「米田さんひとりが謝ることじゃないよね。たぶん他の作家さんも少なからず影響を受けてるんだと思うし……大変だなぁ」

2Pみつき「君のほうが恥ずかしい人間だよ。いらんことまで考えて、疑って」

 うう(泣) 器が小さくてすみませんでした。最悪の場合まで想定してしまうのは、私の悪い癖です。(あとから「この程度で済んでよかった」って安心したいのです。もしくは、最悪の場合だったときのダメージを最小にするための事前バリアです)
 
2Pみつき「でも聞いておいてよかったんじゃないの? 発行日も、春の予定が初夏に変更されただけで済んだし、結局、希望で出した方に決まったんでしょ」

1Pみつき「うん。米田さんにもメールで気持ちは伝えたし、絵師さんの件は丸く収まりそうな気がする。ただ、この件の最後にもらったメールの内容が気になって……」(2P:うん?)

米田さんのメール『ずっと不安や疑問を抱えたままでモヤモヤされてしまうと、執筆にも生活にも影響が出てしまいますし、このもどかしさは非常に厄介なストレスになってしまいます。苦しい思いをされてしまう前に言っていただけたほうが、こちらもすぐに動くことができますし、何より作家さんを苦しい状況に追い込んでしまうのは非常に不本意なことなので……』

1Pみつき「優しい。あと、すごくない……? 前にもらった謝罪メールもだけど」

2Pみつき「何が? どこが?」

1Pみつき「だって、『わかってくれてる』じゃない? 先のメールでも私、延期の苦しさまでは伝えてないのに、最初から知ってるみたいだった。作家側の気持ちまでわかるのって、すごいよ? 編集さんってみんなこうなのかな?」

2Pみつき「さぁ。編集さんの他の知り合いがいないからなんとも。でもさ、理解してくれる人で良かったね。きちんと状況説明もしてくださったし、順次、誠実に対応してくださったし」

1Pみつき「うん。全力でサポートしてくれてるのを感じる……もちろん仕事だからなんだろうけど、これまで書いてきてこんな恩恵に預かったことはないよ。まだ申し訳なく思うし、慣れない。これ以上続いたら、もう『新人作家だから』、『未熟者だから』って言葉で逃げてはいけない気がしてくる」

2Pみつき「あれ? 逃げてる自覚はあったのね?」
1Pみつき「八割くらいは本心だけど、便利だから。でも、米田さんの前ではもう言えないかも」

 ――などと思う私でした。

 そしてこの半月後。
 私の原稿に、さらに編集さんの手が加わった原稿が返却されたのでした。

 次は三回目の改稿です。


>10へ続きます

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