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よわよわ作家とつよつよ編集さん 17

17 進捗動かざること山の如し


 翌日。
 瞑想により、なんとか心を回復させた私は、米田さんにお返事メールをうちました。

みつき『米田さん、お世話になっております。おはようございます。昨日、瞑想してきましたので大丈夫です。レアなケースなら、いつかネタになりますね(笑)次回の連絡をお待ちしてます。』

 実はこのときに、ネタとして使えるのでは?と思いましたが、まだエッセイを書こうとまでは思ってなかったのでした。(日記はつけてました)

 ところで、この頃は別の作品原稿がちょうど佳境にさしかかっていました。序盤と中盤を終え、ラストまでの筋立てを見ながら、キャラを自由に動かせて遊べる、たいへん楽しい時期です。 
 なので、
「待っててもしょうがない。私は何もできないのだし、こっちの原稿に集中しよう」
 と考え、執筆を再開しはじめたのですが――。



 みつき「あれ……書けない?」


 おかしいのです。筆の進みがどうにも不自由。
 私生活のあれこれもあって、執筆は久しぶりだったのですが、ブランクというほど間は開けてないはずでした。作品の筋もしっかり覚えているのに、なぜか書いても進みません。
 それどころか、キャラにシンクロしない。ついでに言ってしまえば、楽しくない。これは、まさか……と手を止めました。


「メンタルやられてる……?」


 気づいてしまいました。
 いえ、「メンタルがダメだから書けない」ってことはないはずなんですが。

 むしろ現実で哀しいことがあると、逃避感情や孤独感からめちゃくちゃ書けてしまって、終わる頃には忘れているという良循環を生み出すこともわりとあったりするのですが。


 時間の制約がないのに「書けない」というときは、だいたい自分に問題があります。
 自己肯定感が低いとか、何か別のことに心を奪われているとか、未来への不信とか……そう、当人の思い込みでプラスアルファされた些細な問題の場合が多いのです。

 また、外部からの傷(誹謗中傷など)と、内部からの傷(自信喪失など)でも種類が違います。
 長い期間、書けなくなるのは、回復が困難になるのは、「内部からの傷」だと(経験上)知ってるのですが、今回はまちがいなく後者だとわかりました。


みつき「……本格的にまずい。自分が信じられないし、未来に希望が持てないし、書いてて楽しくない。この作品もこのまま書いたら駄作になっちゃうだろうし、それを読んでまた落ち込んじゃう――」


 今後の悪循環が見えてしまい、しばらく、書くのをやめることにしました。


  ……。


 毎日が静かです。
 書くのを止めると読むくらいしかないのですが、読書にも身が入らないので、ゲームをやったり、掃除をしたりして過ごしました。


 そして月をまたいだ翌月の上旬。待ちに待った米田さんからのメールがきました。



みつき「こ、今度こそ、完成と発売決定のメールだよね? 嬉しい話だよね……?(びくびく)」


 片目をつぶりつつメールを開けます。すると――。(以下、要約)


米田さん『ロゴの件についてなのですが、舎野さんの身内にご不幸があって突如、ご帰郷されましたので、新しいロゴの手配がまだできておらず、予定がずれ込んでしまいます。この件について、本当に申し訳なく思っております。
 まだ確定ではないのですが、舎野さんが近日内に戻れない場合は別の編集さんがロゴデザイナーさんに依頼して、準備をすすめさせていただくことになり、来月前半頃の発行予定になります。ただ前回の例があるため、『予定は確定ではない』と考えていただけますと、ありがたく思います』





みつき「かはっ……(血反吐イメージ)」




 


 ごめん。ごめんなさい、米田さん。
 米田さんのおっしゃること、字面では理解できてます。
 けれど、勝手に期待しすぎていて、それが叶わなくて、これまた勝手に情緒不安定になってるヤバい人がここにいます。
 ――ええと。舎野さん、たいへんですよね。それで次のバトンを受けとる担当さんがいなくて、別の編集さんに話がいってる状態なのですね?
 そして肝心の依頼はこれからってことで、認識は合ってますよね……?




 みつき「……だ、ダメかも」(白目)


 何がまずいかって、もちろんメンタルです。
 もう、「ぼちぼち行こうか~」なんて言える状態ではありません。

 例えばもし最初から「Oヶ月延期」と期間の決まった延期だったら、ここまで不調にはなってないと思うのですよ。
 でも「もうすぐ発売」→「やっぱり延期」が繰り返されると、喜びと期待からの落差→失望がっかり→がんばって回復、という流れを繰り返すため、心身ともに疲れてくるわけです。

 自力の回復には限りがある。心のパワーは無限ではないということが身にしみてわかりました。

 そして、この不運の波状攻撃が来ることによって、作品への愛着や情熱、書籍化の希望や喜び等も少しずつ、削られていきます。さらに、「自分の作品なんか誰も待ってないんだ」「望まれていなかったんだ」、という思い込みによる自己卑下が始まります。
 そろそろ創作へのエネルギーが枯渇しそうだな、と思いつつ自分から色々なものが抜けていく感覚がしました。

(あと(私的なことになってしまうのですが)この頃、身内や友人からの「まだ出ないの?」がそこそこキツイ言葉になってました。(※出版社名や本のタイトルは教えていないのですが、「春にデビューするよ~」とだけは伝えてあったのです))



 ぼんやりと思います。


「この一件、私にとって苦い思い出になるかも……」


 デビューがいい思い出であってほしいというのは過ぎた望みでしょうか。
 誰もがそう思うとは限りませんが、私はSNS等で幸せにデビューできた人を見ると、やっぱりうらやましいな、と思ってしまうのです。


 それはさておき。
 今回は米田さんへメール返事をうつことにしました。


 こんな精神状態で、メールなんかしたらどうなるか……? って思いますよね?
 泣きの入ったメールなんぞを送り付けて、良い方向へいくのか? って思いますよね?

 いえいえ、逆なのです。


「これは、今の状態を伝えておく必要がある……危険だから」


 つまり、平常心を保てる自信がない。
 という理由から、メールを出すことにしたのです。

 良い方向へ、というよりも、これ以上悪くならないために、という気持ちのほうが強かったのでした。


>18へ続きます

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