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限界を越えたBiSHのオタクが人生について考える話

BiSHiSOVER

1年以上前に解散発表あって、心の準備する期間あったはずなのに全然受け入れられてない。6人がBiSHじゃなくなるのがこわい。想像できない。

BiSHは6人組の女性アイドルグループ。2015年に始動し、2023年6月29日の東京ドーム公演を持って解散することが決まっている。私は2016年10月に不本意ながらBiSHを好きになってしまい、「清掃員」と呼ばれるBiSHのファンになった。

BiSHはライブに重きを置いており、かなりの公演数をこなしている。大変だからこそ、区切りをつけてゆっくり休んでほしい気持ちもある。人気絶頂の時期に解散する美学もわかる。そもそもBiSHの始まりは、前身であるアイドルグループ「BiS」をもう一度始めるというコンセプトだから、BiSと同じように最後には解散する。そういうやり方というのは頭ではわかっている。

頭でわかっているのに心が追いつかない。2016年から推してきたBiSHは私にとって人生の一部と言っても過言ではない。自分でもこんなに苦しいと思わなかった。私以外にも、BiSHに出会って人生が変わった人、BiSHを心の支えにして生きてきた人、たくさんいると思う。そんなBiSHが終わる。

BiSHとの出会い

存在は知っていた。スクール水着でライブに登場し観客の上にダイブしたというネットニュースを見て正直ドン引きしていた。曲はいいけど推せないなー、という会話を他のアイドル現場でしたのを覚えてる。2015年10月。たぶんその頃から気になってはいたけれど、あまりにも下品というか、地下アイドル現場のよくないところと煮詰めたようなイメージがついてしまってたから「曲はいいな・・推すか?いや推せない・・・」という葛藤があった。グループの精神的支柱だったハグ・ミィの脱退、メジャーデビュー、新メンバーアユニの加入もTwitterでなんとなく知っていたぐらいの距離感だった。2016年10月、メジャー2ndアルバム「KiLLER BiSH」がリリース。収録されている「オーケストラ」の楽曲の良さに負けて推すことになってしまった。区切りとなる日比谷野音でのライブ「帝王切開」時点では既にハマっていたが、「すげータイトルやな、遠征はしないかなー」ぐらいの熱量でしかなかった。その後のツアーで大阪公演で初めて生のライブを見た。NEVER MiND TOURのなんばhatch公演。メンバーのアイナが、地元である大阪のなんばhatchの舞台に立てて嬉しいと泣いていたのを見て本格的にのめり込んでいった。翌日のリリースイベントで初めて特典会に参加した。アイナとツーショットチェキを撮った。挙動不審で何も喋れなかったが、彼女が話しかけてくれたので更なる沼にハマり彼女を推すこととなった。全員との握手会にも参加した。アユニの消えてしまいそうな程の透明感が印象的だった。

BiSH沼

BiSHはアイドルだが、楽曲のジャンルはほとんどがパンクやロックである。中学生の頃からロックが好きだった私は、気付いたらアルバムを毎日繰り返し聴くほど好きになっていた。フェスやリリースイベントを含めると数えきれないほどライブに行った。印象的なのは2017年の道頓堀ゲリラライブ、2018年の女性限定ライブや幕張メッセ公演、2019年の大阪城ホール公演。ライブを重ねるにつれてテレビで話題になることが増え、客層の幅が広がり、会場が大きくなっていった。どんどん成長して嬉しかった。恋人や友達にも布教して一緒にライブに行った。自分の生活におけるBiSHの割合が増えていったし、たくさんの思い出ができた。「GiANT KiLLERS」という曲のサビでは走り回ったし、「スパーク」では振り付けの真似をして知らない人と花一匁をしたし、「MONSTERS」ではヘッドバンキングをしてぐちゃぐちゃになった。

2017/11/5道頓堀ゲリラライブ

コロナ禍

2020年はコロナ禍でライブ少なかったし、自分のことで忙しくてBiSHからは少し離れていた。私にとっては「推す」=ライブに行くことだから、どうしてもモチベーションが下がってしまった。2019年10月にアメトークでBiSH大好き芸人が放送されて清掃員が増えてきていたことは嬉しかったが、当初のキャッチフレーズである「クソアイドル」感が無くなってメジャーアイドルのBiSHになっていった気がしたし、曲も万人受けを狙ったような曲が多くなった気がして少し寂しく感じてしまった。2020年のホールツアーや、332日ぶりの有観客公演であるREBOOT BiSHは行く気になれなかった。

解散発表

個人的にモチベーションが下がっていた2021年12月24日、解散発表。先に報道が出ていたし、家族関係でもショックな出来事があり精神的にきつかった頃だったのでメンタルが不安定になった。眠ってこのまま目が覚めませんようにって願ったこともあった。同じ時期に祖母が余命宣告されたとの報告も受けた。つい数週間前に会った時はいつも通り元気に中トロのお寿司を食べていたのでショックだった。

様々な事に苦しみながらも、最後までBiSHを推し切ろうと心に決めた。ホールツアー、ライブハウスツアー、富士急ハイランド、大阪城ホール。行きたい人がライブに行けるよう、当たり前だがチケットは全て自力で当てて参戦。こんなにもたくさんの人がBiSHのことを好きになるなんて想像できなかった。大きくなったねぇ、と親戚のおばちゃんのような感情になった。

2022年12月22日「世界で一番綺麗なBiSH」はド平日の東京で、ライブ直前の発表だったので行けなかった。本当は無理に日程調整してでも行きたかった。Youtube配信があると聞いて何か発表あると覚悟はしていた。正直解散日程がわからないことも辛くなってきていたが、実際に発表を聞くと本当に解散するんだな、と悲しくなった。解散まで、できる限り6人に会いに行こうと決意した。

2023年1月7日、日比谷野音でのライブ。ライブ前に祖母に会って一緒に焼肉を食べた。ライブは2022年にリリースされた曲ばかりで本音を言うとあまりついていけなかったが、同じ時間と空間を共有できたことが嬉しかった。

2023/1/7日比谷野音

生きづらい

その1週間後、職場で異動が発令された。今まで全く経験のない業務で、知り合いもいない部署。異動になったのは、精神的に限界だと人事面談で泣きながら話してしまったからだと思う。大人なのに感情のコントロールができないヤバいやつである。

子どもの頃からずっと、自分は周りとちょっと違う感じがしていた。小さい頃から失敗しないように生きてきたのに、思春期はいじめられた。自己肯定感が低かったからか、恋愛もうまく行かないことが多かった。社会人になってからは毎日ミスしないように必死に生きていた。それでもやらかすことはあったけれど、常に「いい人」であろうと努力したし、普通の人のふり、擬態をするのが上手くなっていった。しかしどう頑張っても今の仕事が合わないという感覚があった。ずっと辞めたかったが、勿体無いと周囲に言われて我慢し続けた。無意識に無理を積み重ねて、何度も死にたくなった。感情もなくなった。死ぬのもめんどくさかった。そんな状態になることが何度もあり、限界を感じて、精神科に通い始めていた。検査と診察の結果、発達障害であると正式に診断が降りた。

日々の擬態に加えて異動による環境の変化、新しい業務の習得、発達障害の診断が降りたこと、色んなことが一気に押し寄せてきてメンタルは限界だった。ギリギリまで水の入ったコップみたいだった。

休職

2月。祖母が後1週間持つかどうかと連絡が来た。その週の土曜日に急遽東京に行って祖母にあった。寝たきりで、食事はお粥。先月一緒に焼肉を食べに行った祖母と同一人物とは思えなかった。最期にたくさん話せた。当日中に大阪の自宅に戻り、日曜日は朝6時に家を出て京都で友達と会った。その足で奈良の実家に行って喪服の準備をした。親に会うと緊張の糸が切れて泣いてしまって心配された。

3月初旬、祖母が亡くなったと連絡が来た。葬儀は約1週間後。連絡を受けた翌日も、葬儀の小物など準備をしに実家へ行ったりした。休暇前日まで出社したら、ミスをしてめちゃくちゃ迷惑をかけた。泣きながら仕事をした。もう無理だと思った。コップの水が溢れたみたいになった。葬儀の前日から東京へ行き、諸々を済ませた。大阪に帰ってきて、かかりつけの精神科で鬱状態で休職との診断書をもらった。会社に連絡して診断書を郵送した。それからしばらくの間、ご飯があまり食べられなかったし、熱が無いのにインフルエンザみたいに身体が重かった。眠いのに眠れなかった。寝るのを諦めて何かしようとしても、動画を見ることも漫画を読むこともできなかった。日常の光や音もしんどくて、大好きな音楽も聴けなかった。活字は文字の羅列にしか見えなくて、本が読めなかった。生きるのが辛いけど死ぬのも面倒だから、仕方なく生きていた。無理をしてBiSHのライブに行ったら、beautifulさの「息してれば明日は来るんだし」というフレーズが辛かった。明日が来なければいいのにって思った。

クソアイドル等身大の輝き

BiSHの魅力は数え切れないほどあるが、私がBiSHを好きになったのは、キラキラの王道アイドルとは違った輝きがあるからだと思う。良い意味で邪道、変なのである。

冒頭でも軽く触れたが、BiSHは元々、プロデューサーの渡辺淳之介氏がかつて手がけた「BiSをもう一度はじめる」というコンセプトから始まったグループだ。清掃員というファンの総称や楽曲、過激なプロモーション手法、グループの物語性など様々な面でBiSの影響を受けている。「おっぱい舐めてろチンコシコってろ」(「NON TiE-UP」より)という歌詞の曲があるし、代表曲「BiSH-星が瞬く夜に-」のMVではメンバーが馬糞に塗れている。BiSHというグループ名の由来もBiS(「Brand-new idol Society(新生アイドル研究会))に倣って、「Brand-new idol SHit(新生クソアイドル)」である。メジャーデビュー以降は「楽器を持たないパンクバンド」というキャッチフレーズに変わったが、根っこは過激なパフォーマンスで売るしかない「クソアイドル」なのである。歌詞はメンバーが書いたものが多い。振り付けはほぼ全曲アイナによるもので、その点もBiSHの個性である。「消えたい、死にたい」といった強い言葉の入った歌詞に合わせて中指を立てる振り付けもあって、そんなところもクソだなあと感じたが、同時にメンバーのリアルな感情や等身大の感性が表現されている。

みんなが 僕をバカにすんだ ナメんな

「本当本気」 アユニ・D作詞

消えたい 死にたい朝に お前近寄んなと
頭の中でそう幾度となく殺してたんだ

「beautifulさ」リンリン作詞

Is this call?? 心を食べる虫 
誰にでもいるよ
もう食べられすぎちゃダメ
痛いのに

「Is this call?」アイナ・ジ・エンド作詞

戻りそうで戻らないゲロが 新学期のにおいの悪天候

「VOMiT SONG」リンリン作詞

6人の共通点は、いじめられた経験やクラスに馴染めなかった経験があることだ。アユニは教室でずっと1人でケータイをいじっていたから「ケータイちゃん」と呼ばれていたそうだ。私もそんな教室の隅にいた1人だから、BiSHの歌詞に共感した。自己肯定感の低いクソな自分に、楽曲を通してBiSHが寄り添ってくれている気がした。自分の中の言語化できないしんどさを代弁してくれた。ライブ中は叫んだり踊り狂ったり走り回ったりして、感情を曝け出すことができた。それぞれ生きづらさや傷つきを抱えている6人の存在や言葉に救われた。BiSHが成長する物語に勇気づけられた。そんな清掃員がたくさんいるだろう。

大好きな曲

解散

2016年以降、私のそばにはBiSHがいた。BiSHと私の人生は絡み合ってるというか、もはや人生の一部である。解散したら抜け殻になって、心に穴が開いて、燃え尽きてしまうと思う。自分の特性上、物事を真正面から受け止めてしまうから解散を受け止め切れないだろう。メンバーは「BiSHは解散するけれどBiSHの曲は永遠」と伝えてくれているが、いくら音源やライブ映像があっても、それはそれ。ライブには代えられない。解散ライブが終わったら6人の音楽を生で感じることはできなくなるのだから。

私にとって「推す」ということは、「アイドルへの愛を表現する」ことである。オタクからの愛を受け止めて、アイドルは愛を返してくれる。「推す」ことにおいてライブは最も重要な場である。アイドルとオタクが面と向かって、全力で愛を伝え合うことができるからだ。アイドルとオタクは「ライブを通して愛し合っている」とも言える。「ライブはSEXだ」という言葉にも通じる。

愛のカタチ

気持ち悪いことは承知の上で言う。「ライブはSEXだ」とするならば、ライブなしで「推す」ということは行為のない愛、つまりプラトニックな愛。解散を目の前にした私たちオタクは、今までとは違ったプラトニックな愛の形を模索していく必要がある。BiSHという概念を推し、思い出を糧にする。そうやって生きていく。過去に解散や引退したアイドルへの愛を今も表現し続けているオタクの先輩方もいる。色んな愛のカタチがある。一歩間違えれば元恋人に執着するヤバいやつみたいだが、仕方のないことである。オタクとはそうやって生きていくしかない生き物だから。

私にとって、現在進行形で推しているアイドルの解散は初めての経験である。心から解散を受け止められるのは少し先のことになるだろう。今の形のBiSHはなくなるが、彼女たちの人生は続く。それぞれの活動や、BiSHではない人生を楽しむ姿を見たら気持ちの整理ができてくるかもしれない。彼女たちと同じように、私も人生を続けるつもりだ。これからの私にできることは、彼女たちの個人の活動を応援しながら自分の人生を続けていくことくらいしか思い浮かばない。

自分のことを諦める

クソみたいな自分と付き合っていくのは難しい。いつかのインタビューでアイナが「いい意味で自分のことを諦められるようになってから楽になった」と言っていたことがある。私にとって「自分のことをいい意味で諦める」ことが今後の課題だと感じている。BiSHの解散も、仕事ができないことも、周囲に馴染めない感覚も、家族のことも、真正面から受け止めてしまう。そんな自分をいい意味で諦めてみるところから始めてみようと思う。前途多難な人生になるが、7年間の思い出とBiSHへのプラトニックな愛を胸に生きていく。



#創作大賞2023 #エッセイ部門

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