The Extremely Inconvenient Adventures of Bronte Mettlestone

ブロンテは生まれたときからずっと、イザベルおばさんに育てられてきた。両親が冒険に出ているからだ。10歳になったとき、両親が死んだという知らせが入り、ブロンテは遺言にもとづいて10人のおばに宝物を渡しに行くことになる。遺言書は妖精の糸でふちどられているため、遺言に従わないとブロンテの住む町は崩壊してしまう。おばを訪ねてめぐるうちに、両親の過去とブロンテの使命が明らかになる。

作者:Jaclyn Moriarty(ジャクリーン・モリアーティ)
出版社:Allen & Unwin社(オーストラリア)
出版年:2017年(書影は2018年のScholastic版)
ページ数:380ページ(日本語版は400ページ程度の見込み)
シリーズ:全2巻
ジャンル・キーワード:冒険、ファンタジー、家族


おもな文学賞

・Aurealis賞児童文学部門ショートリスト(オーストラリア) (2017)
・CBCAオーストラリア児童図書賞ロングリスト (2018)
・WAYBRA賞(西オーストラリア児童文学賞)ショートリスト (2019)

作者について

1968年生まれのオーストラリアの作家。YAやファンタジーを10冊ほど発表している(邦訳はない)。本書は初めての児童書で、数々の児童文学賞候補に挙がっている。姉のリアーン・モリアーティも作家で、邦訳に『ささやかで大きな嘘』(東京創元社 和爾桃子訳 2016年)、『死後開封のこと』(東京創元社 和爾桃子訳 2018年)がある。

おもな登場人物

● ブロンテ・メッテルストーン:10歳の女の子。生まれてすぐに両親が冒険に出たため、イザベルおばさんに育てられた。両親のことは結婚式の写真でしか知らない。旅の途中で、自分が魔封士であることを知る。トランペットを吹ける。
● イザベルおばさん:ブロンテを預かり、執事と3人で暮らしている。ブロンテの父親のきょうだいで最年長。
● 大魔封士キャラベラ:5年前にウィスパリング王国を封印したあと、姿を消した大魔封士。実はブロンテのおばのひとり。
● ウィスパリング王:邪悪な種族ウィスパラーの王。王国が大魔封士キャラベラに封印されているたため、国外に出られない。孫であるブロンテの力を借りて王国の封印を解こうともくろむ。
● テイラー:大型客船〈なぞめきポップコーン〉号に乗っていた少女。運動神経がよく、サーカスに入るのが夢。乗馬が得意。
● ビル:同じく〈なぞめきポップコーン〉号で出会う少年。実はブロンテのいとこのウィリアム王子。
● アレハンドロ:海賊船で育った男の子だが、優しい性格で海賊には向かず、追い出される。ブロンテの冒険の途中になんどか遭遇する。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 舞台は、エルフやドラゴンが共存する国から大都市まで、さまざまな国からなる世界だ。海のなかにも水の精霊の国々がある。ダーク・メイジと呼ばれる邪悪な魔族がいて、なかでも人間と外見が似ているウィスパラーは人心をあやつる最もおそろしい種族だった。5年前、人間とウィスパラーのあいだで壮絶な戦いが繰り広げられ、大魔封士キャラベラがウィスパリング王国を封印した。ところが今年、ウィスパリング王の孫が封印を解くらしいといううわさがながれた。さらに、それを別の王家の血を引く10歳の子どもが阻むとのうわさもあった。頼りになるキャラベラは5年前の戦いのあと姿を消したままだ。魔封士たちはひそかに情報収集と訓練を重ねていた。

***

 ゲインズレイの町でイザベルおばさんと暮らすブロンテのもとに、一通の電報が届いた。両親が海賊におそわれて死んだという知らせだった。翌日開封された遺書には、ブロンテがひとりで父方の10人のおばをたずね、両親からの宝物を渡すようにと書かれていた。たずねる順番や交通手段、滞在日数、宝物を渡すタイミングまで、ことこまかに指定されている。遺書は妖精の糸でふちどられているため、指示に従わないとゲインズレイの町が崩壊してしまう。10人目のフラニーおばさんが住むニナ・ベイで追悼式典が開かれる予定で、そこでブロンテは解放される。
 ブロンテの母方の祖父からも電報がきた。祖父からは毎年誕生日プレゼントがとどき、あそびに来るようにと再三招待を受けていたが、イザベルおばさんは赤の他人だからと毎回断っていた。ブロンテの母親は15歳のときに家出したまま、実家と連絡をとっていなかったからだ。今回は母親のものを譲るという名目もあり、家もニナ・ベイに近いらしいことから、式典のあとたずねることにした。
 あわただしい準備のあと、ブロンテは出発した。冒険好きだった両親からの、冒険の贈り物だった。

 10人のおばは、暮らしも性格もさまざまだ。会ったことがあるおばもいれば、はじめて会うおばもいる。いなか暮らしのスーおばさんはエルフとの交流を祝う村祭りに連れて行ってくれ、ランタン島に住む画家のエバおばさんは恋人が水の精霊で、水の精霊の呼び出し方を教えてくれた。メトロポリスに住むクレアおばさんのもとでは魔封士向けのセミナーを聴講し、ドラゴン専門の獣医であるソフィーおばさんにはドラゴン語やドラゴンの乗り方を学んだ。アリスおばさんは音楽が魔力を持つ国の女王で、ブロンテもトランペットで協力した。
 おばたちへの宝物は、乾燥させたハーブやスパイス、ハチミツなど、料理に使えるものばかりだった。それぞれに両親とおばとの思い出が詰まっていて、受け取ったおばはみな、宝物にちなんだ思い出話をしてくれた。数々の思い出話から、ブロンテはいままで知らなかった両親の素顔を知っていった。

 滞在日数は基本的に3日間ずつだったが、2か所だけ例外があって、数週間ずつ設定されていた。マヤおばさんとリズベスおばさんが共同運営する大型客船〈なぞめきポップコーン〉号と、キャリーおばさんのところだ。〈なぞめきポップコーン〉号では、おなじくひとりで船に乗っていたテイラーとビルと友達になる。テイラーはサーカスに入るために旅をしていて、ビルは母親が迎えにくる港までのひとり旅だ。
 海賊船〈大蛇の毒牙〉号の猛追を逃げ切ったあとの寄港地で、3人は瀕死の少年を見つける。ブロンテはその子に見覚えがあった。スーおばさんの村にいたとき、川でおぼれかけた赤ちゃんを助けたのだが、そのとき手を貸してくれた子にそっくりだったのだ。テイラーとビリーは、同一人物のわけがないと言い、疲れもあって3人は険悪な雰囲気になる。仲直りできないまま、テイラーとビリーは下船してしまった。やがて目をさました少年は、やはりスーおばさんの村で会った子だった。アレハンドロという名前で、海賊船育ちだったが、大きくなって海賊が何をするのか知ると、相手の船に同情するようになった。根性なしだと海賊船から放り出されたのが、スーおばさんの村だった。
 キャリーおばさんは、前に会ったときの快活な面影がなく、やせ細って心ここにあらずといった感じだった。実は大魔封士キャラベラなのだが、その任務のために愛する人と別れたことをいまだに後悔していたのだ。ブロンテが家を明るくかたづけると、キャリーおばさん自身も明るさも取り戻していった。そしてブロンテが魔封士の資質をもっている証拠を見せてくれた。キャリーおばさんが見つめると、ブロンテの足の爪が一瞬青くなったのだ。そして、魔封士の正規の訓練は21歳から始まるから、魔封士として生きるかどうかをそれまでにじっくり考えなさい、と言った。

 最後の目的地ニナ・ベイに向かうバスで、ブロンテは父親の親友ウォルターさんと一緒になる。ウォルターさんは結婚式の写真のなかでトランペットを吹いている人で、その写真を見たのがきっかけでブロンテはトランペットを始めた。ウォルターさんは衝撃的な事実を教えてくれた。ブロンテの両親は冒険に出たのではなく、ウィスパリング王国にいき、そのまま捕まってしまったというのだ。しかも、ブロンテの母親はウィスパリング王の娘だった。つまり、なんどもブロンテを招いていた祖父は、ウィスパリング王だったのだ。
 ニナ・ベイにつくと、迎えにきたのはテイラーだった。テイラーが入ったサーカスが、ちょうどニナ・ベイで巡業中だったのだ。フラニーおばさんの家につくと、集まった親戚のあいだに緊張感がただよっていた。アリスおばさんの息子ウィリアム王子が海賊にさらわれ、ウィスパリング王に引き渡されたというのだ。ウィリアム王子はどんな子か、と訊くブロンテに、「もう知ってるはずよ」とテイラーは答えた。〈なぞめきポップコーン〉号に乗っていたビリーが、ウィリアム王子だったのだ。
 ブロンテは魔封士セミナーで教えてもらった秘薬をつくり(おばたちへの10の宝物が材料だった)、ひとりでウィスパリング王国へ向かった。王国に入るには3つの門があり、難題が課せられるが、同じくウィリアム王子を助けにきたアレハンドロや、ブロンテを追ってきたいとこたち、水の精霊やドラゴンの協力でクリアしていった。最後には、駆けつけた魔封士やキャリーおばさん、目覚め始めたブロンテ自身の魔封士としての力も合わせて、ウィスパリング王を封印した。
 ウィリアム王子をはじめ、とらわれの身になっていた人々が次々と解放された。ブロンテの両親もいる。ウィスパラーはもともと善良な種族だったが、腕にはめられていた〈邪悪のブレスレット〉のせいで悪い考えに支配されていた。
 フラニーおばさんの家に帰ると、ブロンテたちは両親からつもる話を聞いた。10人のおばへ宝物を届けながら、ブロンテにいろいろなことを学ばせるという計画は、両親のものだった。ウィスパリング王国にいるあいだもウォルターさんと連絡を取り合っていて、うまくいくかは両親にとっても賭けだった。そして、まさかの事実が発覚する。あんなに恐れていた妖精の糸は、ただのきれいな糸だったのだ!
 その晩の追悼パーティは、両親とウィリアム王子の帰還を祝う、盛大なパーティとなった。

 あれから2年。両親がいるという感覚に慣れるのは時間がかかったが、やっと家族らしくなってきた。おばやいとこたちとも交流が続いている。

 ボリュームたっぷりの作品だが、ひとつひとつの章は短く、軽快なテンポで物語は進む。タスクをこなしながら町から町へと進む冒険はRPGのようで、是非ブロンテと一緒に冒険を楽しんでもらいたい。ニナ・ベイでの式典は8月1日に設定されており、夏休みの読書にもオススメだ。
 12歳の少女ブロンテが10歳のときの冒険を回想し、1人称で語る。目的地が9か所もあれば途中で冗長になるかと思いきや、個性豊かなキャラクターと、各地でおきるハプニング、何より緩急ある語りが飽きさせない。そもそも、10人もおばがいて、8人もいとこが出てくる設定がユニークだ。登場人物も地名も多数出てくるが、基本的に各地でのエピソードはその場で完結し、全体の流れも予定調和的に収束に向かうので筋は追いやすい。次第に明らかになる両親の過去や、ブロンテの秘密が読者を惹きつけ、おばといとこが大集結してからのクライマックスは一気読み必至だ。
 オリジナリティ豊かなファンタジーの世界も素晴らしい。ウィスパラーは髪を切らないため、人間と見分けるのは髪が腰まであるかどうかであるとか、魔封士の資質があると足の指が青くなる、水の精は水がないと弱ってしまうので、地上で人間と交流するときは水が入った桶に浸からせてもらう、といったディテールも想像力豊かに描かれている。アリスおばさんの国では音楽が魔力をもち、木根尚登の『キャロル』を思い出した。
 第2作『The Slightly Alarming Tale of the Whispering Wars』(2018年)は内容的には本書の続編ではなく、時代をさかのぼり、ウィスパラーと子どもたちの戦いを描いている。それぞれ独立して読んでも楽しめる作品である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?