Rebecca's World

すっかり退屈していたレベッカがお父さんの望遠鏡をのぞきこむと、ふしぎなことが起こった。突然、渦に巻きこまれたかと思ったら、奇妙な星に降り立ったのだ。この星には木がほとんどなく、ゴーストという不気味なかたまりが住民をおそっていた。ゴーストを退治するには、この星にたった1本残っている木の力が必要だ。レベッカは風変わりな仲間とともに、その1本をめざす。

作者:Terry Nation(テリー・ネイション)
出版社/出版年:数種類あり
   Whizzard/Andre Deutsch(1975年初版)
   Red Fox(1991年初版)
   (本資料はRed Fox版にて作成)
ページ数:128ページ
   (日本語版は~200ページ程度の見込み)


作者について

イギリスの作家・脚本家。1930年生まれ、1997年没。人気ドラマ「生存者たち」「ドクター・フー」をはじめ、SF・ファンタジーからコメディまで多くの作品を手がけた。書籍はテレビドラマ関連の作品以外は本書のみのようである(邦訳はない)。本書は娘のレベッカのために書いた。

おもな登場人物

●レベッカ:主人公の女の子(おそらく10歳ぐらい)。
●グリズビー:緑のもこもこの着ぐるみを着た男の人。いつも足が痛いと嘆いているが、いざとなると痛みを忘れて走る。
●キャプテンK:赤い衣装に身をつつんだヒーロー。木の棒でゴーストを退治する。本名はキティだが、ヒーローらしくないのでキャプテンKと名乗っている。
●コバック:失業中のスパイ。たくさんポケットがある服を着て、つけひげなどいろんな小道具を持っている。
●ミスター・グリスター:町の大金持ちで権力者。住民から金をしぼりとれるだけしぼりとっている。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 学校の長い休みも11日目。すっかり退屈していたレベッカは、家じゅうをうろついてはみんなの邪魔になり、とうとうお母さんに叱られた。自分の部屋にもどる途中、お父さんの部屋にこっそりしのびこみ、さわってはいけないと言われていた望遠鏡をのぞきこむ。星がひとつ見え、レベッカはその星の人たちはなにをしているんだろうと思いをはせた。すると、不思議なことがおこった。星がどんどん大きくなり、レベッカは嵐に巻きこまれたように体がぐるぐる回転したのだ。目をあけると、見たこともない場所にいた。

 そこは真っ白な、ボールのように丸い部屋だった。レベッカよりも背の低いおじさんがいて、ぷんぷん怒っていた。レベッカがおじさんの転送装置を壊したというのだ。この星から別の星に人を送る装置だったが、なぜかレベッカが送られてきたらしい。おじさんは子どもが大嫌いで、1週間後に修理のようすを見にこいと言うと、レベッカを追いだした。
 外はあたり一面ピンクの霧で、わたあめの中にいるみたいだった。うなり声と引きずるような足音が近づいてきたので逃げようとすると、なにかにどすんとぶつかった。緑色のもこもこの着ぐるみを着た男の人で、グリズビーという名前だった。うなり声と足音の正体はこの人だ。足が悪く、歩くたびに痛みでうめいていた。
 霧が晴れてくると、公園や、ガラスでできた曲線ばかりの建物が見えた。レベッカは、木が1本もないことに気づく。グリズビーに理由をきこうとしたとき、耳をつんざくようなサイレンが響きわたった。グリズビーはゴースト警報だと言って、足の痛みなどないように全速力で走る。うしろを見ると、亡霊のような不気味なかたまりが、形を変えながらせまっていた。必死に逃げ、木造の避難小屋に飛びこもうとしたところでドアが閉まる。パニックになったレベッカはせまい路地に逃げこんだが、奥は行き止まりだ。そのとき、全身真っ赤な衣装に身をつつんだ男の人があらわれ、気合いのかけ声とともに木の棒をふりかざした。棒に触れたゴーストは泡がはじけたように消え、残りのゴーストも逃げていった。
 この人はキャプテンKという名前で、ゴーストから人々を守るヒーローだった。避難小屋に安全を伝えにいくと、ぞろぞろと人が出てきた。出口では、金持ちで欲深いミスター・グリスターが避難小屋の使用料を集めていた。ミスター・グリスターはなぜかレベッカに優しく、レベッカを夕食に招待する。レベッカはグリズビーとキャプテンK、グリズビーの知り合いのコバックといっしょに町へ向かった。コバックは失業中のスパイで、つけひげや小道具をたくさん持っていた。
 町はどこもかしこもガラスでできていて、どの店にもミスター・グリスターの名前が書いてあった。木がない理由をたずねると、グリズビーたちは涙ながらに、この星の悲しい歴史を話した。

 かつて、この星は森に覆われていた。色とりどりの葉がきらめき、あまいかおりがただよっていた。ところが、グリスター家がガラスの製造方法を発見し、燃料として木をどんどん切り倒すと、ゴーストが襲ってくるようになった。ゴーストは以前から存在していたものだが、木の香りがゴーストを遠ざけていたのだ。森の木は〈ゴーストの木〉と呼ばれ、グリスター家はゴーストの木で避難小屋を建て、料金を取るようになった。小屋以外で残っている木は、キャプテンKの棒だけだ。もうひとつ、どこかの湖の島に最後のゴーストの木があるという言い伝えがあった。ミスター・グリスターの家に島の場所をしめす地図があったが、地図といっても謎めいた詩で書かれていて、だれも解読できなかった。レベッカはコバックに小型カメラを借り、ミスター・グリスターの家で地図を見つけたら写真を撮ってくると約束した。
 レベッカはひとりでミスター・グリスターの家にいった。背が高くて太っている執事と背の低い執事に案内されて中に入ると、どこもかしこもガラス製でまぶしく、まるでダイヤモンドのなかにいるみたいだった。レベッカは、ガラスケースに入った地図にひきつけられる。かろうじてミスター・グリスターの目を盗み、地図の写真を撮ったが、帰ろうとするとミスター・グリスターのようすが変だった。レベッカを人質にして、キャプテンKの棒と引き換えようとしていたのだ! そこへ、キャプテンKたちが飛びこんできた。帰りが遅いのを心配して助けにきたのだ。
 どうにか逃げきりると、みんなで地図を調べた。実はカメラにはフィルムが入っていなくて写真は撮れていなかったが、どさくさにまぎれてグリズビーが地図を持ちだしていた。うわさどおり、地図といっても詩が書いてあるだけだ。4行詩が3つ。どれも意味はよくわからなかったが、出てくることばをヒントにひとつずつたどっていくことにした。

 まず第1の詩にしたがい、〈禁じられた場所〉にある、針の形の岩山をめざした。キャプテンKとグリズビーとコダックは〈禁じられた場所〉と聞いてしりごみするが、レベッカは構わずに出発する。結局、キャプテンKたちもあとからついてきた。針の山は高くそびえる細長い岩山で、レベッカたちは針の目の部分にあるトゲトゲ鳥の巣までよじのぼる。トゲトゲ鳥は、指にささったトゲを抜いてくれる便利な鳥だったが、森の消滅とともに絶滅した。たまごがあったので、レベッカはポケットに入れた。巣は羽でふかふかで、レベッカたちは羽で隠れていた穴に墜落する。そこは天井が高い洞窟になっていた。
 その頃、ミスター・グリスターもレベッカたちを追っていた。針の山まで追いつくと、レベッカたちがおりてくるのを待ったが、出てくることはなかった。穴のことは知らなかったのだ。

 第2の詩にしたがい、シルキーという蛾のような生き物が吐きだすネバネバの糸と格闘しながら洞窟を出すと、今度は口だけが巨大なモンスターと早口言葉で対決した。レベッカの機転で勝ったが、モンスターは怒りくるい、レベッカたちを閉じこめる。レベッカたちは部屋じゅうの本をかきあつめて山をつくり、よじのぼって天窓から逃げた。
 いよいよ、最後の詩だ。野宿した場所の近くにテントがあり、上品そうなおじさんとおばさんがやさしく声をかけてきた。ところが、「ありがとうは言わなくていい」「爪をかみなさい」など、お母さんにダメだと言われていることばかり言う。この人たちは全国悪癖普及委員会の人たちで、この人たちに従わないようにするのが、試練のひとつだった。誘いの言葉をふりきって先をいそぐと、笑いガスを振りまくモンスターがあらわれた。大笑いに身もだえしながらも、どうにか足を動かし、目的地をめざす。そしてやぶを抜けると、目の前にすばらしい光景が広がった。なだらかな丘の下に湖があり、中央の島に一本のうつくしい木が立っていたのだ。ずっと探しもとめてきた、ゴーストの木だ。
 ところが、よく見るとゴーストが島を守っていた。湖のこちら側もパトロールしている。レベッカがひとりでゴーストの本拠地を偵察しにいくと、なんとミスター・グリスターと2人の執事が捕まっていた。ミスター・グリスターはゴーストのリーダーと交渉していて、木にさわれないゴーストの代わりに木を燃やしてやろうと言っている! 木がなくなればゴーストは無敵だし、避難小屋ビジネスも安泰だからだ。レベッカは急いで仲間のところにもどろうとしたが、途中でゴーストのパトロール隊に連行されている仲間を目撃する。レベッカは岩場で泣き崩れるが、泣いてばかりもいられなかった。
 レベッカは、ポケットのぬくもりで孵ったトゲトゲ鳥に、ゴーストの木の実を取りにいかせた。そしてゴーストの本拠地に乗りこみ、実をまき散らす。すると、すぐに芽が出て、芽にふれたゴーストはどんどん消えていき、レベッカと仲間の4人だけが残った。島にわたったミスター・グリスターたちは木を切って燃やしていたが、芽吹いたゴーストの木々がどんどん育っていたので、放置して町へ帰ることにした。

 レベッカたちは町で大歓迎を受けた。キャプテンKもグリズビーもコバックも誇らしげだった。4人で丸い研究所にいくと、転送装置は直っていた。別れのあいさつをする間もなく、レベッカは装置に入れられ、発進ボタンが押される。また嵐のなかでぐるぐる回っているような感じがして、目を開けるとお父さんの望遠鏡の前にいた。でも、もう退屈ではない。遠くの星にいる愉快な友だちを思って、レベッカはほほえむのだった。

 退屈しのぎにお父さんの望遠鏡をのぞいたレベッカは、奇妙な世界に迷いこみ、ちょっと変わった友だちと冒険して元の世界にもどってくる。『不思議の国のアリス』や『オズの魔法使い』を彷彿させる、想像力豊かで楽しいSFファンタジーだ。
 1970年代に書かれた作品だが、2010年にはオーディオCDも出ており、今なお愛されている作品、親が子どもに読ませたい作品とみなされていると言えよう。新進気鋭の児童文学作家ヴァシュティ・ハーディ(『BRIGHTSTORM』、『WILDSPARK』)も、子どもの頃に影響を受けた作品、おすすめのファンタジーとして紹介している。作者テリー・ネイションは数々の人気テレビドラマの脚本を手がけたこともあり、映像が目に浮かぶような、生き生きとした描写、テンポのよい展開が心地よい。本書はネイションが自分の娘レベッカのために書いた本だが、世界じゅうの誰もが楽しめる作品となっている。
 機械でテレポートする設定、謎の詩をたどりながらの上へ下への大冒険、シュールなタッチで描かれるモンスター、環境問題(森林伐採)も意識した世界観はもちろん、どことなく哀愁のただよう異星のキャラクターたちも魅力的だ。優しいけれどちょっぴり後ろ向きの仲間たちは憎めず、共感する読者も多いだろう。前向きで勇敢なレベッカに引っぱられながら、ゴーストの木、ひいては自分たちの星を救うことで、最後には自信に満ちた姿を見せてくれる。そして、つまらない休暇を過ごしていたレベッカは、かけがえのない友だちを得て、いつか再会できる日を夢見る。
 また、ゴーストの木のありかを示す詩は、どれも最初は意味するところが分からないが、わずかなヒントをたどりながら行動していくうちに「こういうことか!」と分かっていく。「とりあえずやってみよう」「行けばなにか分かるかもしれない」と、まず行動することの大切さを教えてくれる。徐々に自信がついてきて、「いままで頑張ってこれたんだから、こんどの困難も切り抜けられるはず」と発想が切り替わってくるのも頼もしい。
 今読んでも色あせない作品を、ぜひ日本の子どもたちにも紹介したい。自分で読むのなら小学校中・高学年程度、読み聞かせであれば低学年から楽しめる作品だ。家から見える景色に想像をふくらませるヒントにもなるだろう。

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