Time Travelling with a Hamster

12歳の誕生日に、アルはパパから手紙をもらった。パパはアルが8歳のときに死んだが、12歳になったら渡すようにママが預かっていたのだ。手紙には、パパが発明したタイムマシンのことが書いてあった。そのタイムマシンを使って、パパが12歳のときに起きた事故を防いでほしいという。その事故が原因で、おとなになったときに死ぬからだ。アルはハムスターのアラン・シエラーとともに過去へと向かう。

作者:Ross Welford(ロス・ウェルフォード)
出版社:HarperCollins(イギリス)
出版年:2016年
ページ数:400ページ(日本語版は~450ページ程度の見込み)


おもな文学賞

・Awesome Book Award(新人児童文学賞)受賞 (2017)
・ウォーターストーンズ児童文学賞ショートリスト (2017)
・カーネギー賞ロングリスト (2017)
・コスタ賞児童書部門ショートリスト (2016)
・ブランフォード・ボウズ賞ショートリスト (2016)
・ブルー・ピーター文学賞ショートリスト (2017)

作者について

イギリスの児童文学作家。本書はデビュー作で、数々の賞に輝いた。

おもな登場人物

●アルバート・アインシュタイン・ホーキング・チャウダリー(アル):主人公の少年。12歳。
●アラン・シエラー:12歳の誕生日にママにもらったハムスター。
●ピタゴラス・チャウダリー(パイ/π):アルのパパ。パソコン好きのプログラマー。アルが8歳のときに脳出血で死んだ。
●バイロンおじいちゃん:パパのパパ。インド出身で、よく瞑想している。アルの家とは少し離れたところに住んでいるが、毎朝スクーターでアルを学校まで送ってくれる。
●スティーブ:ママの再婚相手。最初の奥さんをがんで亡くした。アルと仲良くしようとするが、なかなか趣味が合わない。
●カーリー:スティーブの娘。アルの義理の姉。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 すべてはアルの12歳の誕生日に始まった。ママからの誕生日プレゼントはハムスター。ママの再婚相手スティーブの提案で、アラン・シエラーと名づける。それから、ママはまじめな顔で一通の手紙をくれた。死んだパパからの手紙だ。パパの字で、「12歳の誕生日に渡すこと。受け取ってから16時間は絶対に開けてはならない」と書いてあった。
 翌日、学校から帰ってきて手紙を開いた。アルが8歳のときに書かれた手紙で、アルが大きくなる頃には自分はいないだろうということと、タイムトラベルの方法を見つけたということが書いてあった。2通目の手紙が、地下のガレージに隠してあるという。1週間以内に行動をおこすようにと指示されているが、パパと住んでいた家からは引っ越していたので、ほかの人が住んでいる家にしのびこまなくてはならなかった。
 1週間後、アルは半信半疑ながらも夜中に家を抜け出し、バイロンおじいちゃんのスクーターで前の家に向かった。ガレージにしのびこむと、すぐにパパのタイムマシンが見つかった。金属のバスタブとMacBookをつなげたもので、ぜんぜんタイムマシンには見えない。第2の手紙も見つけたので、持ち帰って読んだ。手紙には、タイムトラベルの仕組みや、タイムマシンを発明したことが書いてあった。そして、MacBookの電源を入れて欲しいと書いてある。「1984年に会おう!」とのことだった。
 夜中に家を抜け出したことはママにもスティーブにもバレなかったが、義理の姉カーリーにはバレていた。どこに行ったのかと聞かれ、パパの霊と交信しようとしていたと答えると、カーリーは興味を抱く。でも、スクーターを誰かが使ったことをおじいちゃんが気づき、鍵をかけたので今度は深夜タクシーを使った。ハムスターのアラン・シエラーも連れていく。カーリーには家でママのふりをして待機してもらい、運転手に怪しまれないようタクシーの中からカーリーに電話して帰宅予定時刻を連絡した。

 ガレージでMacBookを立ち上げると、デスクトップにアル宛のテキストファイルと動画ファイルがあった。動画のなかのパパが、タイムマシンの使い方を説明した。そして、パパの子ども時代にタイムトラベルし、ある事故を防いでほしい、と依頼する。この事故のときに頭がい骨内に残った金属片が原因で、おとなになったときに脳出血で死んでしまうのだ。事故は1984年8月1日、パパが12歳のときに起きた。12歳になったアルならできる、と望みを託したのだ。アルはまずアラン・シエラーでごく短時間のタイムトラベルを実験する。うまくいったので、今度は自分がバスタブに入って1984年7月30日に移動した。タイムマシンがうまく働くことを確認して現在にもどったが、アラン・シエラーが見当たらない。もしかしたら勝手にタイムマシンにはいってしまったかもしれなかったが、タクシーを待たせていたので、いったん家に帰った。
 パパの依頼を引き受けるべきか悩んでいるうちに、数週間が過ぎた。ある日曜日、おじいちゃんに頼んで、前に住んでいた家に連れていってもらう。おじいちゃんは今の住人ベラとグラハムに話しかけ、家を見せてもらった。ガレージのことをさりげなく聞くと、事務所にリフォームするために明日にでも取り壊すという。いてもたってもいられなくなったアルは、こっそりガレージにはいり、タイムマシンで1984年7月30日に移動した。

 海辺に向かって歩いていくと、小学生の集団が猫をいじめていた。アルは携帯電話と引き換えにいじめをやめさせる。1984年にはまだ携帯電話は普及しておらず、みんな興味津々だったのだ。携帯電話で写真もとった。パパにそっくりな子がいたので、思わずパパの愛称「パイ?」と声をかける。一緒に猫を獣医に連れていくと、先生に双子みたいだと言われた。
 アルはいったんタイムマシンで現代に帰ったが、ガレージが壊されるのならば、今夜またしのびこまなくてはならない。今度はカーリーといっしょに夜中のタクシーに乗り、タイムマシンの道具を運び出した。カーリーには降霊術を見せるという口実で協力してもらっていたが、さすがに事情を隠せず、タイムマシンのことを話した。
 ところが無事にタイムマシンを自分の部屋に運び込んだものの、前の家を出るときに後ろ姿をベラに見られていた。ママに連絡が来て、持ち出したものを返すよう言われるが、タイムマシンのことを話しても信じてくれるわけがない。アルは部屋に駆け込み、いそいでタイムマシンを起動した。

 アルは1984年7月31日に行き、パイと再会する。携帯電話を返してもらうために、いじめっ子マッカの家に行くと、そこはアルが前に住んでいた家だった。マッカの弟がMacBookの上にオレンジジュースをこぼし、洗い流そうとしてマッカが豪快に水をかける。愕然とするアルを、パイは学校のパソコンルームに連れていった。子どもの頃からパソコン好きだったパイは、学校で自作のパソコンを組み立て、ゲームも作っていた。アルはMacBookのバッテリーを外して乾かした。
 その晩、アルは学校に泊まることにするが、アラン・シエラーのことが気になり夜中に探しにいく。アラン・シエラーは見つからず、疲れはてたアルはそのままガレージで眠った。早朝、学校にもどりMacBookの電源を入れると、完全復活とまではいかないが起動した。アルはMacBookでタイムマシンのプログラムコードを表示させながら、学校のパソコンに同じコードを入力していった。
 そしてこの日は8月1日、パパが事故にあう日だ。パイの家に行くと、パイのパパ、つまりバイロンおじいちゃんがいた。のちに花火の事故でマヒするはずの腕がまだ無傷だ。思わず、花火を打ち上げるときは気をつけてねと声をかける。アルとパイは自作のゴーカートを持って浜辺に行った。ここで事故が起きるのだ。パパからどかすように言われていたレンガとショッピングカートを見つけた。指示されていた場所からは少し離れたところにあったが、レンガを遠くに投げ、ショッピングカートを移動させた。これで一件落着だ。マッカが来て、ロケット花火になにかを取り付けて飛ばそうとしていた。アラン・シエラーだ!アルはロケット花火をはたき落とし、アラン・シエラーを助ける。そのとき、パイの乗ったゴーカートがコースを外れてマッカに激突し、そのまま海に落ちた。ライフガードや警察が駆けつけるが、ふたりは見つからない。アルは泣きながら学校にもどった。
 学校のテレビでニュースを見ると、マッカは見つかったがパイは見つかっていないとのことだった。とても心配だが、タイムマシンの動く目処がつき、アルは現代に帰ることにする。学校のパソコンにプログラムを残していくわけにはいかないので、消防署に火事が起きたと通報し、教室に火を放った。そして、タイムマシンを起動した。

 無事に自分の部屋にもどったが、なにかがおかしかった。しかもカーリーに、おまえは誰だと言われる。過去のパパやおじいちゃんと交流したことで、未来が変わっていたのだ。レンガやショッピングカートの位置が予定の位置になかったのも、そのせいだった。家を追いだされ、おじいちゃんの家に行くと、子どもの頃のパパと勘違いされた。パパはやはり、あのときおぼれて死んでいた。おじいちゃんは、その日に会ったアルのことを覚えていた。
 もう一度、タイムマシンを使うしかない。アルはおじいちゃんの家の物置小屋でバスタブやパソコンを見つけた。でも、今度は自分は行かず、手紙とアラン・シエラーを届けることにする。手紙には、ゴーカートに乗らないようにと書いた。あとは、パイが手紙を信じてくれるよう、祈るばかりだ。

 覚悟を決めて前の家に行くと、ママがいた。パパもいる。パパは、子どもの頃飼っていたハムスターの子孫だと言って、代々アラン・シエラーと名づけているというハムスターを見せてくれた。そのとき、パパはハムスターの贈り主に気づく。パパとアルは、ひしと抱きあった。

「ぼくのパパは2回死んだ。1回目は39才のとき。2回目は4年後、12才のときだ。」という衝撃的な文章で始まる。過去と現在を行き来し、もとの現在とは違う現在でハッピーエンドを迎えるストーリーは、『バック・トゥー・ザ・フューチャー』そのままだ。
 全編、アルの一人称で語られる。2~3ページ程度の短い85章からなり、テンポよく軽いタッチで読める。アルが体験することだけではなく、パパとの思い出やママの性格についての考察、タイムトラベルの理論なども交えながら物語は進む。子どもの頃のパパたちと交流する場面は、話す内容に気をつけないといけない。うっかりすると、1984年には存在しないテレビ番組について口を滑らせてしまうからだ。そんなタイムトラベルならではのスリルやハプニングも読みどころだが、多感な年頃のアルが、パパの死やママの再婚で葛藤を抱える姿に共感を覚える読者も多いだろう。そして、タイムトラベルに巻き込まれてしまうハムスターのアラン・シエラーも、キュートな脇役として、過去と現在、パパとアルをつなぐ重要な役割を果たしている。
 SFの入門としても、ヤングアダルト小説としても、オススメの1冊だ。作者のロス・ウェルフォードは、透明人間になった少年や1000歳の少年などを主人公にした作品も発表している。ぜひユニークな世界を楽しんでいただきたい。

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