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【ショートショート】ツノがある東館

「ツノといえばサイですよね」

二言目が意外すぎた。

「あ、コレ落ちましたよ」

こちらがひと言目。そう、私は落し物をした。

落としたのは表紙にトリケラトプスが描かれたメモ帳だ。
トリケラトプスであってサイではない。

「これはトリケラトプスです」と言えばよかったが、
まずはお礼を言わねばという思いと
唐突の「ツノといえばサイですよね」に混乱して

「ツノ…?といえば…アレ、ですかね」

山の上の“ツノヒガシ“を指さしていた。

ここに通う学生は、
この山の上キャンパスの東館を“ツノヒガシ“と呼ぶ。
もしも屋上にダンゴが降ってきたら
どれだけでもキャッチできそうだと空想がよぎる立派な避雷針が立っている。
常にイライラしがちな東教授と掛けられていることは、誰もが周知の事実だ。

「“ツノヒガシ“のツノか。たしかにアレは必要以上な存在感ですね」

妙に感心され恥ずかしくなったので、
でも、ツノではないですね、避雷針ですし、と退こうとしたが

「必要以上な存在感、というのがツノを語るには欠かせないと思ってます」

と、深められた。
まずい、この人なんなんだろう。

愛想笑いで立ち去ろうと決めると

「でも、あれ、ダンゴの串だったら…て思ったりしません?」

ひとりくすっと笑いながら語りだす表情に
うっかり、時が止まった。

必要以上な存在感…に、なってしまいそうだ。

2週連続手探り挑戦。
脳内道草常習犯としては、
なかなかにむずかしい試みですが、
何だかちょっとたのしい気もする。

積み重ねて磨いていきたいなと、思う次第です。

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