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絶滅じぃじがくれたもの


5歳の息子がばぁばの家に一人でお泊りした。
朝起きて泣いたという。
ママが恋しかったわけではない。

「じぃじが出てこなかった~~!」
前の晩、寝る前に夢でじぃじに会えたらいいね、という話をしていたのだ。
義父は息子が生まれる前に病気で亡くなった。

息子にはじぃじがいない。
わたしの実父も3年前に亡くなった。
最近、恐竜に詳しくなってきた息子は
「じぃじは絶滅した」
と言う。
義母も実母も爆笑していた。

泣くほどじぃじに会いたいんだな。
わたしも息子を義父に会わせたかった。
親戚の小さい子とニコニコして遊んであげているところを見たことがあるからだ。
自分の孫となれば、ものすごくかわいがってくれたに違いない。

だけどもう会えないのだから、いっぱいじぃじの話をしてあげよう。


義父は見た目はちょっとこわい顔で無口な感じだった。
 だけど、「へへへっ」とかわいく笑った。

バレンタインにチョコをあげると言葉少なく「ありがとう」と言われただけだった。チョコ嫌いだったのかな?と心配していたが、後に義母が、すごく喜んで照れていただけだと教えてくれた。

退職してからは新聞に入ってくるスーパーのチラシを隅々見るのが趣味のようになっていた。
ピンポーンがなって玄関に行くと、義父がケチャップとマヨネーズを「安かったから」と言ってわたしに渡す。へへへっと笑い、手を振ってエンジンをかけたまま停めていた車に乗って去って行ったのを今でも覚えている。
うちの分まで買ってくれて、持ってきてくれていたのだ。

義父母が大分県に出かけたときに、おみやげに名物の唐揚げをたくさん買ってきてくれたこともあった。
それを後日、大食いの夫が一人で食べてしまったのではないかと義父は心配していた。
大丈夫よ!お義父さんわたしも食べたよ!と伝えるとホッとしていた。
そんなことまで心配してくれた。


二月の最初の寒い日に、
病院で最期を迎えた。

もう息をするのもやっとだというのに、
窓の外を見て
「暗くなってきたから早く帰り」
と言ってくれた。
聞き取れるかどうかという声だった。
自分が力尽きようとしているときに誰かを想いやれる人だった。
わたしはこんなにすごい人を見たことがないと思った。

寒ければ寒いほど暖かさを感じるように、
つらい時ほど優しさは心に沁みる。

一番つらいのは義父だったのに、
最後の最後まで優しさをくれた。


もしも子どもが生まれたら、伝えようと思っていた。

「じぃじはとってもとっても優しい人だったんだよ。
 パパもママもじぃじが大好きだったよ。」


義父の優しさを受け継げるだろうか。
どんなに寒い時も暖めてあげられる人になれるだろうか。
同じようにはできないだろう。

だけど、わたしが感じた暖かさを息子にも渡したい。
義父の優しさだけは絶滅させたくないのだ。




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