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津軽のりんごに魅せられた話

2月に仕事で弘前を旅したときのこと。ドーミーインに宿泊したのだが、入り口のフリードリンクがりんごジュースになっていた。地元JAの100%りんごジュースらしい。

ひと口のんで、身体に染み渡る美味しさだった。きちんと酸っぱく、おどろくほど甘い。フロントの横を通るたびにひと口、ひと口と小さな紙コップに注いでいただいてしまうほどだった。

青森というエリアに、りんごのイメージは元々ぼんやりと持っていたが、宿の入口でこうした形で歓待されたことで、このエリアの誇りなのだということがひしと伝わってきた。

その後の、地元の方と弘前の居酒屋で話している時に聞いた、りんごは収穫の時に食べるのが一番うまい、という言葉が忘れられない。もぎたてのりんごはそれはそれは美味しいらしく、かじると腕に果汁がしたたるそうだ。

今回の旅で衝撃を受けたことの1つは「りんごの旬は短い」ということ。

フルーツというものは流通にのってスーパーに置かれている状態を目にすることが多い。それもあり、僕には、はなから"鮮度"という感覚が頭になかった。

家の野菜室を想像しても、あらゆる野菜をはじめ、たとえばバナナなんかもそうだし、足がはやいものが他に目につくため、りんごの足についてはあまり気に留めない。


ところで、新鮮なりんごの美味しさについては、この旅行に先立って感じられる体験があった。

去年、フードギフトのカタログで、りんごのセットが気になって取り寄せた。もともと好きなフルーツだったので、リンゴジュースもセットになってるし、よさそうだなと気軽に選んだ。

春先に注文し、秋の終わりごろに届いた。

で、いただいたのだが、おなじみのあの赤いサンふじも、王林も、これまでの価値観がぶっ壊れるレベルに美味しすぎてすごかった。2週間まいにちりんご生活だったけど、ひとつも飽きなかった。

ぎゅっとかたくてすっぱいサンふじが好みで、それ以外の青りんごなんかは種類もさほど気に留めず、ちょっとやわらかめの果肉、くらいの印象だったが、このギフトでいただいたりんごには、みんな個性があった。

海産物の美味しいエリアに旅をして刺身盛りをいただくときに、店員さんに説明され、ひとつひとつの魚をありがたがりながら噛み締めて味わう、幸せな時間があるが、そんな感じだ。

わかることは「分かる」ことだというが、僕のぼんやりとしたりんごのイメージは、品種ごとに、甘さや酸味やかたさで、くっきりと違いがそれぞれにあるものだと理解することができた。

リンゴジュースやドライりんごも入ったギフト。次の秋にも忘れず取り寄せたい


2月の弘前ツアーの工程で、1日だけ自由時間があった。

旅行に先立って、先程のフードカタログのサービスを運営するaiyueyoのあべなるみさんと雑談していたときのこと。

僕がりんごが美味しい美味しいと言っていたところ、「Apple Giftersさん、お繋ぎしてみましょうか」と言っていただき、DMでやり取りをしたところ、都合をつけていただき、なんとこの旅の最中に、お会いできることになった。

りんごの木を眺める、青森の広船エリアでりんご農家を営む工藤さん

そして当日。なんと、泊まっていた宿に車で迎えにきていただき、冬のりんご畑ツアーをしてもらえることになった。ドーミーインの入口で車に乗せてもらい、工藤さんのりんご園を見学させていただいた。

道中ではおすすめのアップルパイを食べさせてもらったり、名物の煮干しラーメンを食べたり、JAの直売所を案内していただいたりした。

産地を訪ねただけのいちユーザーには、ありあまるもてなしだった。僕はといえば、あふれる歓迎に恐縮しながらも、車中ではラジオ番組でもやっているかのように、運転する工藤さんをずっと質問攻めにしていた。

たくさんのお話をしていただいたが、特に印象に残っている話題がある。

冬のあいだも、りんご農家の仕事は途切れずにある。たとえば樹の枝を剪定するのもそのひとつだ。りんごの木は収穫を考えると、下に下に伸びていくことが望ましいので、天に向かう枝なんかは、収穫期を経て、オフシーズンの間にカットするのだ。

そのように、枝を間引くうえで、考えるべきことは山ほどあるが、たとえば、成長した時の光の差し方を考えて、カットをしていくのだそうだ。言葉ではわかるが理解が追いつかない感覚。のちにむくむくと育っていく仏像の成長を計算し先回りして彫り出すような神業に思えた。

そこにはもちろん熟練の技術が伴う。工藤さんも、この日、同行されていたスタッフの方も、つねに勉強が必要だ、とおっしゃっていた。

五所川原市の、たちねぷた

この前日に、五所川原市の立佞武多(たちねぷた)が展示されている博物館を訪ねたときに、建造中のねぷたを見せていただく機会があった。

縦横にはりめぐらされた木材に、ふといはりがねで造形をつくっていく。そこに、和紙を貼り付けていくのだが、仕上げの曲線部分なんかは、職人さんの繊細な感覚で行うものなのだそうだ。

工藤さんの話を聞いて、りんごの木からも、ねぷたからも、同じ種類のクリエイティビティを感じたのだった。津軽のすごさをひしひしと感じられるすばらしい旅だった。

🍎 🍎

きたる5/25に、下北沢のボーナストラックで行われるイベントに、工藤さんがいらっしゃるそうで、御礼を伝えるために、挨拶にうかがうつもりだ。

そしていつか、もぎたてで果汁のしたたる11月のりんごを、ツアー組んで食べに行きたいと思っている。

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