トヨタ章男社長の思いとバイデン大統領のエネルギー政策
先月(2020年12月)、トヨタの豊田章男社長がカーボンニュートラルの目標を達成するためには、車のEV化や自動車業界の省エネ努力だけではなく、国家のエネルギー政策の大変革が必要であると具体的なデータを使って訴えました。
乗用車・トラックのCO2排出量は、2018年の段階では全体の約15%程度に止まる一方、発電所・製油所(約40%)、工場(約20%)が、より多くのCO2を排出しています。とりわけ、日本の発電は、再エネ・原子力が23%で残りの76%が火力となっています。発電が現状のままですと、日本国内全ての車がEV化するだけではカーボンニュートラル目標達成は到底困難ですね。さらに、章男社長の試算では、日本国内の乗用車400万台全てがEVになった場合に、夏の電力使用ピーク時に電力不足に陥るため、発電能力を10−15%増やす必要があり、これは原発10機、火力発電であれば20機に相当します。発電の方法の再エネ化と発電量アップを同時に行っていく必要があるわけですから、これはもう脱CO2=電気自動車の枠を大きく超えています。
昨年ロスアンゼルスでは、章男社長の懸念を体現するような事例が発生しました。カリフォルニア州の発電源は、2018年時点で32%以上が再エネとなっています。2020年8月、記録的熱帯夜によって多くの家庭でエアコンをつけたため、電力が足りなくなりやむなく20年ぶりに電力不足による停電が発生しました。こちらのThe San Diego Union Tribuneの記事によると主な原因は、曇空によるソーラーパネルの発電量低下、風が弱く風力発電ができなかったため、電力グリッドへの供給量が低下、通常は、足りない電力をワシントン州やアリゾナ州から供給してもらっているが、それらの州も自州のニーズを賄うためにカリフォルニア州へ供給できず停電をせざるを得ない状況となってしったということでした。この事例は、EV化が原因で起きたものではありませんが、毎年最高気温を更新し続ける環境で、スムーズな電力供給を維持しつつ、再生エネを利用した発電インフラの転換をするのは難しい作業で、一企業、一業界の枠では達成は困難なことを示しています。
そんな中、新しく誕生したバイデン政権は総力戦で気候変動への対策を行おうとしています。
バイデン大統領は、就任後4年間で2兆ドルの投資をインフラ、自動車産業、公共交通機関、建物、農業・自然保護、イノベーションに対して行うと公約しています。(東洋経済オンライン「バイデン政権なら激変のエネルギー・環境政策」)そして、実行面でも、これまでも環境保護庁頼みから脱却し、内務省、エネルギー省、国防総省、財務省、農務省、教育省、司法省がそれぞれ気候変動対策に役割を持つ「総力戦の布陣」で臨もうとしています。(Reuters 「アングル:バイデン新政権、機構変動対策強化へ総力戦の布陣」)
就任直後から、パリ協定への復帰、製油所パイプライン「キーストーン」の認可取り消しと公約の実行をはじめています。
世界で2番目の量のCO2を排出している米国が気候変動対策に本腰を入れはじめたのは嬉しいですね。サンフラシスコに住んでいますと、大規模な山火事、水不足、海面上昇など環境変化が生活と経済に直接影響しはじめていることを痛感します。バイデン大統領が公約を達成できるよう、スタートアップと共に協力していきたいと思います。