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North Star Metricを探せ - グロース期に注力するKPIの見つけ方

以前、主にシード/アーリステージ向けにKPIに関する記事を書きましたが、グロースハックで有名なex AirbnbのLenny Rachitsky が参考になる記事を出していたので、記事を紹介しながら咀嚼してみようと思い、久しぶりにブログにしてみます。

North Star Metricとは何でしょうか?

北極星のように、どこから見ても常に行くべき方向を照らしてくれる「道しるべ」となる指標。
つまりは、グロースに邁進するなかで方向を間違えないよう、一点集中する最も重要な指標のことを指しています。

North Star Metricは「プロダクトのコアバリュー」に直結した指標であり、「グロースのキーレバー」であり、「事業戦略」そのものとも言えるかもしれません。
North Star Metricを1つに絞ることで、その因数分解から注力すべきKPIも浮き彫りになっていきます。

6種類のNorth Star Metrics

このLennyの記事では、PMFを見つけいよいよグロース・ステージを迎えた企業が、正しい方向に爆進するために、どのように"North Star Metric"を選ぶかについて、整理されていました。

まず、North Star Metricsの種類を、次の6つに分類しています。

1. 売上 (例: ARR, GMV)
生み出された金額。~50%ほどの企業がフォーカス
(但し、あえて売上をNorth Star Metricsに置かない企業も多い。売上は、事業と関係ない外的要因も影響したり、プライシングなどプロダクトの価値に直結しないレバーが増えたり、チームのミッションとして"uninspiring"になったりするから、という理由が挙げられる)

2. ユーザー数 (例: 課金ユーザー数、マーケットシェア)
課金しているユーザーの数。~35%ほどの企業がフォーカス

3. 利用量 (例: 送信メッセージ数、宿泊予約数)
プロダクトの利用度合い(単なるwebsite訪問ではない)。~30%ほどの企業がフォーカス

4. エンゲージメント (例: MAU、DAU)
プロダク上で"アクティブ"なユーザーの数。~30%ほどの企業がフォーカス

5. 成長効率 (例: LTV/CAC、マージン)
売上成長にかけているコストの効率性。~10%ほどの企業がフォーカス

6. ユーザーエクスピリエンス (例: NPS)
ユーザーにとって、どれだけ簡単に使い勝手よく、心地よく、プロダクトが使われているか。~10%ほどの企業がフォーカス

Lennyは記事の中で、成功しているグロース・ステージの企業40社にサーベイをとり、この6つのうちどの指標を"North Star Metric"としてきたかを聞いています。

このサーベイ結果を見ると、どんな指標を"North Star Metric"にするかは、各事業の収益モデルやプロダクトの使われ方によって異なってくることがわかります。

企業タイプ毎のNorth Star Metricの選び方

Lennyが上記サーベイを基に、企業タイプ毎の「North Star Metricの選び方」をフレームワークしてくれていました。1つずつ引用しながら、咀嚼したいと思います。

<企業タイプ> マーケットプレイス、プラットフォーム
<North Star Metricにされすい指標> 3.利用量

マーケットプレイスやプラットフォームは、利用されるほど儲かる。
つまり、プラットフォーム上でユーセージの量が増えれば増えるほど、成長が早くなる。

Airbnb, Uber, Lyft, Cameoなどのような、取引毎に手数料をとるマーケットプレイスは、「取引の量」(宿泊予約数、乗車数、オーダー数、など)にフォーカスする。
ただし例外もあり、例えばShopifyなどは、取引数よりも「アクティブセラーの数」にフォーカスしている。彼らはただ取引手数料を回収すれば良い事業でなく、セラーにサブスクフィーを課しているからである。

一方、クラウドコミュニケーションプラットフォームのTwilio, ジャイアント・フィンテックの Plaidなどのような、利用量に応じて固定額をチャージするプラットフォームは、「アクティビティの量」にスポットが当たる。Twilioでは送信されたメッセージ数、Plaidでは連結された銀行口座の数が相当する。

「利用されるほど儲かる」パターンの事業で重要な指標を特定する際に最も重要になるのは「利用」の定義を正しく(厳密には、グロースに繋がる「利用」の定義)することだと思います。

それはつまり、プロダクト上でユーザーにとって欲しい「最も理想的なアクション」を特定することになると思います。
予約することなのか、メッセージを送ることなのか、銀行口座を連携させることなのか。当たり前のようにも思えますが、バリュープロポジションが複雑で、シンプルな1つのアクションに絞り切れていなかったりするケースも意外と少なくないと思うので、改めてここを明確にするのは大事だなと思います。


<企業タイプ> 広告宣伝費ドリブンな成長をする事業
<North Star Metricにされすい指標> 5.成長効率


マーケティングの良し悪しで事業成長が左右される場合、マージン(利益率)やLTV/CACをNorth Star Metricにする場合が多い。

ミールキットサービスのBlue Apron、マットレスD2CのCasper、遠隔処方のHimsなどの事業は、物理的にモノを届けるので、何層ものコストが発生するため、マージンの最適化にとことんこだわっている。ユニットエコノミクスがよくなるほど、成長が加速する。

一方で、瞑想アプリのCalmなど、完全にデジタルで、一番マーケティングにお金をかけられるような企業は、デジタル広告が費用のほとんどを占めるため、LTV/CACに的を絞ることが多い。このカテゴリの企業は、成長への再投資サイクルを早めるため「ペイバック期間」をNorth Star Metricとして検討することもある。

上記に出ている遠隔処方のHimsは、DCMの投資先でもあります。
Himsはメンズウェルネス(AGA治療薬など)を取り扱うD2C事業になりますが、一般的にD2Cはdefensibilityを築くのが難しく、上記記事にもあるように物理的なモノを扱うのでコストがかかり、スタートアップのグロースを作るには難易度が高い事業モデルだと思います。
その中でHimsが大きくなれた主な要因の1つが、まさに上記のLTV/CACだと思います。

まずLTV(Life Time Value)を最大化できた要因として、Himsの目玉商品だった男性機能品(AGA治療薬など)はリテンション率が非常に高いということが挙げられます。こういった商品を、最初にブランドが突き抜ける目玉商品として持てたのは、Himsの強みだったと思います(もうミックスは変わってきていると思いますが、売上の7-8割を占めていました)。

次にCAC(顧客獲得コスト)ですが、上記のようなポジショニングでブランドの先行優位性をうまく築いた上で、他の医薬品や女性向け商品を増加させ、クロスセルを増やしてCACを下げつつ売上拡大を図っていったことなどが、Himsの成長効率のうまさだったのかなと思います。


<企業タイプ> チーム利用するフリーミアムのB2Bプロダクト
<North Star Metricにされやすい指標> 4.エンゲージメント and/or 2.ユーザー数


Slackや、オンラインドキュメント作成ツールのCodaなどのプロダクトは、ボトムアップな獲得モデルで成長する。まずは無料ユーザーをフックとして、どんどん同僚を招待してもらうことが狙いだ。そしてあるレベルにユーセージが到達したところで、有料プランにアップグレードする。

事業成熟度のステージと、成長がどれだけボトムアップドリブンかによって、フォーカスする指標は変わってくる。エンゲージメントにするか(例: Codaは"DAU14"、Hubspotは"WAU")、有料ユーザー数にするか(例: Airtableは"週間の有料シート数"、Asanaは"週間の有料アクティブユーザー数")、はたまた有料チーム数にするか(例: Slackは"有料チームの数"、Dropboxは"Dropbox Businessを使っているチームの数" )。
事業が成熟していてプロダクトがセールスドリブンであるほど、エンゲージメントよりもユーザー数にフォーカスする会社が多くなってくるだろう。

上記で、このカテゴリは事業成熟度のステージに合わせて、エンゲージメント重視から、(有料)ユーザー数重視にシフトしていくとあります。
まずエンゲージメントを見るのは、無料でユーザーにプロダクトをばらまいてみて、本当にコアの機能/価値が届いているのか「プロダクトの使われ方」を見極めるという意味もあるのかなと思います(どちらかというと、この文脈はPMFステージかもしれませんが)。

特にボトムアップな成長をするSlackやCodaのようなモデルは、B2Bといってもセールスドリブンではなく、プロダクトドリブンな成長(ほぼコンシューマープロダクトに近い)になると思うので、よりエンゲージメントが重要になってくるでしょう。

そこから「今の使われ方/エンゲージのされ方であれば、このままスケールしていける」と確信できる状態になっていけば、あとは課金コンバージョンしたユーザー/チームの数を追っていくということなのかなと思います。


<企業タイプ> UGC型のサブスクプロダクト
<North Star Metricにされやすい指標> 3.利用量


Twitchや、ビデオメッセージプラットフォームのLoomなどのようなコンテンツドリブンなプロダクトは、エンゲージメントよりも「3.利用量(消費量)」を追いかけるのに適している(5分間以上の再生、視聴されたビデオアップロード数、など)。コンテンツの消費と共有こそが、彼らの成長フライホイールのコアである。

「3.利用量」と「4.エンゲージメント」は似ている指標だが、利用量はもっとアクションベースである。
例えば、ただwebsiteを訪問するというのではなく、ビデオを「創る」といったアクションを指すのが「利用量」である。ここでいう「利用」はユーザーのコンテンツ共有をより促すので、結果として成長をドライブする。

ここでも、前段で出てきたマーケットプレイスやプラットフォームと同じように「利用量」が重要指標となるので、ここで言う「利用」の定義を正しくすることが大切になってくると思います。
特にUGC(Uger Generated Contents)型のプロダクトは、ユーザーがプロダクトの価値そのもの=コンテンツを生み出す側になるので、ユーザーのアクションが非常に重要になります。

具体的にどういうアクションをしてもらうのが望ましいのか(できれば定量的に...毎日5分以上の再生、1週間に10枚以上のアップロード、月に10本以上の投稿、など)、グロース・ステージに入る段階でしっかり定義できていることが、"North Star Metrics"のもと正しい方向に爆進する前提になってくるのかなと思います。


<企業タイプ> 広告収益ドリブンな事業
<North Star Metricにされやすい指標> 4.エンゲージメント

Facebook, Pinterest, Snapなど、Webトラフィックを通じてマネタイズしている全ての企業のNorth Star Metricは、エンゲージメントである。

分かれてくるのは、DAU(Daily Active Users), WAU(Weekly Active Users), MAU(Monthly Active Users)のどれにフォーカスするかである。
FacebookSnapは、ソーシャルメディアの特性として「毎日見るもの」であるべきなので、DAUにフォーカスしている。
一方で、Pinterestのプロダクトは、ユーザーが毎日使うことは期待していないので、WAUにフォーカスしている。
さらにSpotifyのポッドキャスト事業は、ユーザーがもっと散発的に使うことを前提に置いているので、MAUを追っている。

上記にあるように、エンゲージメントを指標とする場合、プロダクトが想定する「理想的な使われ方」によってDaily/Weekly/Monthlyで見るべきかも変わってきますし、さらに解像度をあげるには、以前書いた記事の中でも詳しく触れていますが、DAUやMAUのアクティブ回数や日数毎の分布を見るPower User Curveなどの推移をトラックするのも有効だと思います。


<企業タイプ> C向けサブスクプロダクト
<North Star Metricにされやすい指標> 4.エンゲージメント or 2.ユーザー数


言語学習アプリのDuolingoや、デートアプリのTinder、運動トラッキングアプリのStravaなどのような、C向けのサブスクプロダクトはエンゲージメントまたはユーザー数のどちらかをNorth Star Metricとして選ぶことが多い。

DuolingoStravaは、どちらも無料ユーザーベースの基盤が大きく、彼らのエンゲージを高められるかが、将来的に課金ユーザーにコンバージョンするかに直結するため、エンゲージメントにフォーカスしている(例:DAU、MAU)。

一方で、TinderSpotifyWebflowなどは、エンゲージメントよりもユーザー数に的を絞っている。ただし、Tinderはユーザーの絶対数よりも、有料ユーザー"率"に集中している。何故ならば、チャーンの発生は性質上避けられない(相手を見つければ去るはず)ので、ユーザーにはなるべく早い段階でアップデートしてほしいからである。

これは、前段で出てきたB2Bのフリーミアムプロダクトと似ている部分があると思います。特に無料ユーザー基盤が大きく、そこからいかに有料ユーザーに転換させていくかが肝になるプロダクトは、まずはユーザーにエンゲージしてもらうことが最重要課題になるでしょう。

また、ここでの内容は「グロース」のNorth Star Metricになり、いわゆるシードステージのC向けプロダクトと異なるのは、しっかりマネタイズのモデルが確立しており、あくまでも「有料化するエンゲージメント」が特定できていて、それをトラックできるという点だと思います。


<企業タイプ> エクスピリエンスで差別化しているプロダクト
<North Star Metricにされやすい指標> 6.ユーザーエクスピリエンス


ユーザーエクスピリエンスによってのみ勝ち負けが決まるプロダクトもある。どれだけ使い心地が良く、簡単で、便利かどうか。これらのタイプの企業は、"質"を重視したNorth Star Metricを掲げることになる。

RobinhoodSuperhumanは、ユーザーがどれだけ周囲にそのプロダクトを薦めるかを測るNPS(Net Promotor Scores)を頼りにしている一方で、Duolingoは"learning competency"という指標を使っている。これは国際的なスタンダードとなっている、言語能力を測る基準である。彼らのプロダクトエクスピリエンスを考えると、ユーザーのゴールにマッチした言語習熟度を測るというのは理にかなっている。

このカテゴリの企業は、プロダクトの「質」を測ることが重要になります。

言語学習アプリのDuolingoが、ユーザーエクスピリエンスの質を表す結果として「言語習熟度」を図っているように、例えばSaaSプロダクトなどでも、実際に顧客企業にもたらしたアウトカム(例:営業改善ツールであれば、1人当たり契約金額の増加など)が、類似する指標になってくるかもしれません(ただし、SaaSの場合は他に重要な先行指標が多くあり、こういった指標が"North Star Metric"になる可能性は低いと思いますが)。

NPSも有効な指標ですが、特に日本だとあまりにも低く出る傾向があり(国民性として"薦めるか?"と聞かれてものすごく積極的に薦めると答えない)、Duolingoの言語習熟度のように、届けたいユーザーエクスピリエンスが定量的に測れる独自の指標を特定できるとより良いかもしれません。

Growthの鍵 - "Jobs to be done(ジョブ理論)"

もちろん上記の6つの分類にピッタリ当てはまらないNorth Star Metricもあると思いますが、どの事業でも重要なのは「Growthの鍵」を見つけるということだと思います。

クリエイター支援サービスのPatreonであれば、それは「"一定額以上を稼ぐ"クリエイターの数」であり、ユーザー分析ツールのAmplitudeであれば、それは「"週に3回以上チャートをシェアした"ユーザーの数」であり、Netflixであれば、それは「"月間視聴"時間の"中央値"」であると特定されてきました。

Lennyはこの「Growthの鍵」の見つけ方について、「Jobs to be done(ジョブ理論)」というClayton Christensenの有名なフレームワークを活用することを勧めています。

「ユーザーは、このプロダクトで、どんな"ジョブ"がなされることを期待しているのか?」という問いを考え、その"ジョブ"に最も直結する指標をNorth Star Metricとするのです。

下記は、記事の中の例です。すごくシンプルですよね。

Plaidの"job to be done":私の銀行口座を、使ってるアプリに連携する
⇒ North Star Metricは「連携した銀行口座数」

Miroの"job to be done":同僚とリモートでコラボレートする
⇒ North Star Metricは「コラボレーティブボードの数」

Twitchの"job to be done":ゲーマーのプレイを生で見る
⇒ North Star Metricは「5分間以上連続視聴したユーザー数」

Lyftの"job to be done":どこでも早くタクシーを捕まえる
⇒ North Star Metricは「乗車数」

グロースに向けてたくさんの課題やレバーが出てくる中で、迷いなく正しい方向に進むためには、暗闇の中いつも同じ位置で輝く北極星🌟のように、プロダクトの"ジョブ "に直結する指標に狙いを定めてフォーカスすることが重要、ということだと思います。

North Star Metric(アウトカム)を、因数分解したKPI(インプット)

Lennyは記事の中「多くの場合、North Star Metricは"1つ"に絞られる」とコメントしています。
事業の1側面にフォーカスすることにはリスクもありますが、「1つにフォーカスすることで、社内全体で、より強固なプランニング、意思決定、戦略を導くことができる」と言います。

ただし、1つのNorth Star Metric(アウトカム)は、より具体的な複数の指標(アウトカムにつながるインプット)に因数分解できます。

例えばLennyがAirbnbにいた時、AirbnbのNorth Star Metricは「宿泊予約数」でしたが、これはいくつかのインプット指標に分解されていました。「ゲストのコンバージョン率」「部屋の登録数」「サイト訪問数」などのインプット指標が、「宿泊予約数」の増加に繋がっていきます。

North Star Metricを掲げた上で、さらにより細かい粒度で"アクショナブル"なインプット指標をチームとして追いかけていくことが大切になります。

記事の中で、代表的なインプット指標が、North Star Metricごとに整理されているので参考にしてみてください。


最後に & Office Hourの申込受付

ちなみに、Lennyが調査した40社の成長企業は設立からもう何年も経っている会社ばかりですが、North Star Metricを最近変えた/変えようとしていると答えたのは1/4程度だったそうです。
変更組も、事業モデル自体をtoCからtoBに変えたり、異なる収益モデルの新規事業を取り入れるなどが背景にあり、同じ事業フォーカス/戦略の中でNorth Star Metricを変更したところは無いようです。

逆に、事業のフォーカスや戦略を変更するときは、それにしたがってNorth Star Metricも変更されるべきということだと思います。

ただしこれらの話は全て「グロースステージ」で目指すべき指標のことであって、PMFが見つかった後のことです。

PMFが見つかるまでは、売上やユーザー数よりも「コホートリテンション」に集中することをLennyは勧めています。まずは自分のプロダクトに対して、対象とするユーザーたちが"スティッキー"になってくれない限りは、グロースに向けてアクセルを踏めないからです。
以前書いたKPIの記事も、主にエンゲージメント/利用量のことについて書きましたが、これはシード~アーリーステージにおいて、ユーザーが"スティッキーかどうか"を測ることを主目的においた前提の記事でした。


。。。と、今回の記事はほとんどただの翻訳になってしまいましたが汗、何かの参考になれば幸いです。

今月もDCM Monthly Office Hourやってますので、起業前〜シリーズA未調達の起業家の方は、ぜひ下記画像のリンクよりお申し込みください!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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