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【1000の日々】875/1000

人手不足の時代。今や完全に就活市場は売り手優位、面接で選ばれているのは企業の側、という昨今の状況を報じる新聞記事の末尾に、とある証券会社のエコノミストの言葉があった。
「今は、働く意思があれば大方の人が別の企業に雇用される状況だ。社員に『奉仕』を求めるような昭和の発想で企業経営をやっていたら、若手だけでなく、30代、40代の社員も逃げてしまう。過去との決別が必要だ」。

美術館も他人事ではない。去年、部下の転職を機に思いがけず転職市場のダイナミックさを肌身で感じることができたので、このコメントにはごく普通に納得する。と同時に、ちょっと上のガチ昭和世代(と同じ価値観を共有する一部の平成世代も)には、同僚や部下の転職という同じ現象を目の当たりにしても、この「30代、40代でも逃げてしまう」という感覚が皆無の人が、けっこういるらしい、とも感じた。だからわざわざシニア向けメディアである新聞がこうやって注意喚起するわけだが、お役所の傘下にある美術館の場合、「過去との決別」はなかなか実現しないだろう。

でも現実は動いている。「決別」は下から起こっている。ここのところ、お役所の下にある国公立美術館でも人材の流動性が高まっていると感じる。流動性の高まり自体は悪いことではないし、自分の未来のために転職にチャレンジできる雰囲気が広がることは健全だ。私だって部下の転職は全力で応援した。

ただ、けっこう人が動いているよそ様の話を聞くと、そこのエラい方々は、そこが今や「逃げ」られてしまう職場なのだと認識せずに人を雇い、働かせているらしいケースが少なくないと感じる。雇う側と雇われる側の意識に結構なズレがある。それが人材流動化の背景にある。

今、業界内部でチラチラ見えているこういう現象は、5年後くらいから美術館の活動の質の変化として観客の目にも見えるようになるだろう。エラい立場の人たちはそれをどれくらい想像しているだろうか。

20240525

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