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世代交代のこと、お金のこと、いろいろ呆然。【美術館再開日記13】

毎日毎日、大なり小なり未体験ゾーンの出来事で心身ともにざわざわしていると、とても奇妙な感覚が訪れることがある。コロナで猛暑で来年はものすごく貧乏になることももうわかって、もうなんだかわからない。アーティストに手紙を書いて、通勤のバスの停留所から職場までの道のりをものすごくゆっくり歩いて、自分を保った。コロナで猛暑の公園の緑は、あまりにも濃かった。

美術館再開41日目、7/18。練馬区美術館、時間の滲みがついた壁。世田谷美術館、去りゆく先輩の一瞬の沈黙。

都内のコロナ感染確定者ざっくり300人。
今日は休みで家で読書していたが
ふと思い立ち練馬区立美術館へ。

開館35周年企画「再構築」のプレ展示。
収蔵品×若手・中堅作家の新作創造、
という仕立てで、今月は公開制作期間だ。



今日は作家さんがみんなお休み。
館内も静まり返っていたため、
おのずと空間の佇まいに耳をすますことに。

展示壁面が使い込まれた味わいを醸している
ことは以前から知っていたが、
公開制作で使われている「創作室」に
今回初めて入って、
また別の時の積み重ねを見た。

ものがつくられてきた部屋の顔。
8月の展示では見せないのだろうが、
作家さんたちが空間(の質感)をどれくらい
意識しながら制作するかにも興味がある。

練馬区美の創作室、流し台の壁。
この汚れ感がいいよねと思う。

写真 2020-07-18 15 10 38



さて、私が勤める世田谷美術館は
来年が35周年だが、周年がらみの
企画の予定は特にない。
何かをやるとすれば6年後の2026年、
40周年のときだろうと思っていた。

「作品のない展示室」を準備中、
主担当者と「特集」のあり方について
話したときのこと。

準備期間が実質2週間と、あまりに短いので、
ほぼ2000年代以降のパフォーマンス・プログラムの
紹介に絞る慎重路線でいこうと思う、
という副担当の私の案に、えー、という主担当者。

もっといろいろやってきたじゃん?

いや、もちろんです、でも2週間ではさすがに
整理しきれないですよ…。
全貌をきっちり見せるなら、2026年の40周年かなと。

一瞬、放心する主担当者。

40周年…?
2026年かあ…。
俺、もう、ここにいないわ。

観にくるからね。

今まで一度も聞いたことない、
呆然とした声。

ははは来てくださいね〜と笑ったら
彼もすぐにハハと応じたが、
私はそのあとすぐに計画を変えて、
1986年から2019年までの
パフォーマンスをとにかくざざっと
見とおせるように爆走した。
忖度ではない。

歴代ポスターのスライドショーも
突貫工事でつくったことを含め、
周年でもなんでもないのに
区切りが入ってしまった2020年。
そういうこともあるんだろう。

写真 2020-07-08 16 17 05


美術館再開44日目、7/22。アーティストたちに手紙を書く。夢のような百日紅を見る。

都内のコロナ感染確定者ざっくり250人、
例によって端数は気分で切り上げ。

来週あたりから次年度の事業の
計画と予算編成作業が始まる。
午前中、上層部から話を聞く。
おおよその予算規模。

減額は当然だが、そのスケールは
こっちの想定を易々と超えてきた。
リーマンショックや東日本大震災の
あとの比では、全くない。

うんうん、考えよう考えよう。
もう世界中がこうなのだ。

午後、
「特集 建築と自然とパフォーマンス」に
協力してくださったアーティストたち
ひとりひとりに再びメールを送る。

この3週間考え続けたことを、お手紙にした。
ささやかな企みを手元から放った。
放たれたよ企みが。

2日前に
みーん。レベルだったセミの声が
今日はみんみんジーシャンシャンみーん。

と朝からすごいことになっている
砧公園を歩きながら、
なぜか一本だけぽつねんと立つ
百日紅に目が行って
ぽっかりとあいてた
夢の穴に落ち込んだように
立ち止まってしまったのだった。

なんなんだろうかこの毎日。
毎日何に必死になってるんだろうか。
生々しかったり幻みたいだったり。

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美術館再開46日目、7/24。どしゃぶりの予感。

都内のコロナ感染確定者ざっくり300人、
端数は気分で切り上げ。

「作品のない展示室」がらみの企み、
実施フォーマットに関係者クレジットに
テキストの英訳の細かい調整まで、
情報公開の準備がほぼ整う。

今日は休み。心穏やかにぶらぶら散歩に出たら
雨に振られた。
ありゃーと帰宅したら同僚から
冷静かつ緊迫したメールが届いていた。

次年度の予算規模、
今年度比の具体的数値がさっき出たと。
もう土砂降りな数字である。異次元。
週明けから金勘定の日々だ。

先日目を奪われた夢のような百日紅は
近くまで行くとぽろぽろ花が落ちていて
そこでああと現実に戻った。

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