ショートショート13 人生の朝5時。(2021/03/28)

 早朝5時。さっきまでパソコン作業をしていたからなんだか変に目が醒めてしまって、なんとなくベランダに出る。ついでになんとなく見上げた空の、濁ったグラデーションの青が形容するにはあまりにも複雑で、とても美しかった。

 徐々に、そして確実に朝へと向かっているその空を見て、当然のように夜の終わりと朝の始まりを実感する。1番反対方向にいると思われるものはいつだって隣り合わせて、終わりと始まりもその例外ではない。

 そういえばわたしも、ここでの生活に区切りをつけて新しい場所に行くんだな。じゃあ今は、人生のなかで幾度となく訪れる午前5時にいるんだな、そんな風に胸の高まりを感じつつも、心は寡黙なまま。突然鳴いたカラスに身体を震わす程に怯えている。

 自分自身で時計を午前5時に進ませることを決めたけれど、やっとできた安心を手放すのはとても惜しくて、時間を忘れるかの如く、ただ雲の流れゆく様を見る。

 朝5時まで作業をしていたのだってきっと、終わりを無意識のうちに先延ばしにしているだけなんじゃないか。

 隣の家の人が起きてきた音が聞こえる。こんなに近くに住んでいるのに、交わることのない人間、遠くに住んでいても出会う人間がいるんだなと思う。
 
 ああ気が付けば、午前7時。朝が始まる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?