【不定期更新パンクロック小説】リンダクレイジー(仮)
パンクとギターを愛する主人公「俺」が今日もいく。パンクでラブなストーリー。
前回のお話
4 リンダとの運命的な?出会いの瞬間
「ひでえオンナだったな」
俺たちのバンドのドラマー、ぽつりとつぶやいた。その目は、ミカエルが消えたあたりを、ぼんやりと見つめていた。
俺たちは親しみをこめて、エグチくんと呼ぶ。
会社員をしている。どうせ同じ職場の女の子といちゃいちゃするのが目的で就職したんだろうと俺は踏んでいる。
「そんなこと言うなよ!」
シンパシィの声がひっくり返った。シンパシィは俺たちのバンドのベーシストだ。
振り返ると、シンパシィはひどい顔をしていた。涙と鼻水で顔面がぐしゃぐしゃなのだ。
「ミカエルは……本当は……やさしい女なんだ……」
「シンパシィ……」
エグチくんがシンパシィの肩を抱いた。シンパシィはエグチくんの腕の中でガキみたいに泣きじゃくった。エグチくんの目が、なんか母親みたいにシンパシィを包んでいる。
「へー。ミカエルって、そんなにやさしい女だったんだ……。知ーらなかった~」
俺は正直者だもんだから、思ったことが口からすぐに出てしまった。ついでに耳の穴までホジホジしちゃった。なんか、かゆかったから。
その直後……。
「てめぇ!」
シンパシィが涙と鼻水を振り散らかして、俺の胸ぐらをつかんできた。通行人がビックリして避けていく。
「離せよ。伸びるだろ」実際、お気に入りのTシャツだった。
「うるせぇ!てめぇはミカエルの何を知ってるっつーんだよ!え!?」
俺の胸ぐらをつかむ手に、ますます力が入った。
え?何その問い。ミカエルのナニを知ってる?
そうだな、チ〇ポに見境がなかったとか、酒にだらしなかったことぐらいかしら。あと、時間と金にも、ずいぶんとだらしなかった。
そういうことを言えばいいの?……なんてことを考えていたら、シンパシィが勝手にヒートアップした。
「黙ってないで、なんか言えよ!あ!?スカシてんじゃねぇよ!」
涙と鼻水どころか、ツバまで飛ばしてくる始末。だから、俺もだんだん腹が立ってきて、とうとう怒鳴っちゃった。
「あぁそうだよ!ミカエルはやさしい女だったよ!やさしいから、お前のチ〇ポもくわえてくれたんだろ!?良かったねオメデトウ!」
「てめぇ!」
シンパシィが怒鳴ったと思ったら、俺の目の前に火花が散った。風景がスローモーションで流れていく。
ドサリ。
他人事みたいな音がして、俺は自分が倒れたってことに気が付いた。アスファルトが頬に当たってジャリジャリした。遅れて頬の痛み。もっと遅れて血の味。
なんだか、にじむ景色の向こうで、シンパシィがめちゃくちゃに叫びながらジタバタと暴れ、エグチくんがそれを取り押さえているのが見えた。
「いや、遅いよエグチくん……」
親父にだって殴られた事、なかったのにさ。
俺は、よろめきながら立ち上がった。
シンパシィが肩で息をしながら、俺のことを睨んできた。エグチくんに羽交い絞めにされて身動きができないでいる。
「とりあえず、シンパシィに謝れ。な」エグチくんが、諭すような目で俺に言った。
俺は殴られた上に、謝らなくちゃいけないのは納得できなかったけど、エグチくんが説得力のある顔で俺に頷いてきたから、
「悪ぃ。ごめんね」って、しぶしぶ謝った。ついでに、こめかみをポリポリ。なんか、かゆかったから。
「なんだその言い方っ……」
シンパシィがエグチくんを振りほどこうとした。
「まぁまぁ」
エグチくんが落ち着いた声でシンパシィを諭す。
「お前も分かってるだろ。こいつが根は悪いやつじゃないって。ただ、ちょっとバカなんだよ」
俺は、殴られた上にバカ呼ばわりされて納得できなかったけど、ニンゲンができているから黙っていた。
「な、ほら。トイレで顔でも洗って来いよ。次はリンダの出番なんだぞ。きっと盛り上がるぞ。リンダって、ほら。可愛いしエロいから」
「う、うん……」
急に大人しくなったシンパシィを引き連れて、俺たちはライブハウスの中に戻ったのだった。
はたしてライブハウスの狭い空間の中は、異様に盛り上がっていた。俺たちの出番の時より、人が増えている気がして、俺はちょっと面白くなかった。
シルエットになった、頭また頭の向こうにスポットライトが当たって、ボサボサ頭の金髪女がギターを抱えているのが見えた。フライヤーで見たよりも、もっとずっとイカシてた。めちゃくそお洒落なグレッチが、彼女のおっぱいの下で光っていた。
しかしステージにいるのはリンダだけだ。サポートも何もなし。俺はなんだかワクワクしてきた。ドキがムネムネしてきた。
「ねぇ、みんな……」
リンダの声は、ハスキーで、やや舌足らずで、甘い感じがした。
「あたしのこと、好き?」
「好きー!」の大合唱。
「愛してる?」と、リンダ。
「愛してるよー!」と、さらに大合唱。俺も、よく分かんないまま拳を振りかざして「愛してるー!」って叫んでみた。
ちょっと、リンダと目が合った気がした。こういう時に、イカしたカッコいい比喩ができたらいいのに。俺は作詞担当じゃないから語彙が少ない。とにかく、リンダはキラキラした素敵な瞳だった。
すると、リンダはマイクをガツンと握りしめて叫んだ。
「あたしも、愛してるよー!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」いくつもの拳がいっせいに振りかざされ、ライブハウスの中の温度がさらに上がった感じがした。
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