【短編パンクロック小説】リンダ・クレイジー(仮)
主人公でギタリストの「俺(時おり僕ちゃん)」が繰り広げる、一途でおバカで、ちょっぴりエッチなパンクロック小説。
2021年1月6日にふと誕生したリンダ(ボーカル)と俺(ギタリスト)のストーリー。
1 リンダという愛すべきオンナ
リンダが言う。「ねえ、あんたさ。あたしのこと好き?」
俺は思う。はい好きです。大好きです。普通に付き合いたいしキスしたいしエッチしたいです。
でも俺の口はこう答える。
「お前みたいなクソ面倒くせえ女、誰が好きになるっつーんだよ」
この言葉のひとつひとつが口から出るたびに、俺のピュアなハートがチュクチュク痛む。俺は知らないふりをする。うまくやれたはずだ。だって僕ちゃんカッコいいんだもん♪
そして、さっきの言葉をクールにキメている間、俺のハートの中のピュアなボーイが挙手しながら叫んでいる。
俺「お前みたいなクソ面倒くせえ女」
ピュアボーイ「ううん、面倒くさくなんかないよ?むしろ、そこが良いんだよ?わがままなところがまた可愛くて抱きしめたくなるんじゃないか!」
俺「誰が好きになるっつーんだよ」
ピュアボーイ「はいはいはーい!僕です、僕、でーす!もう、大好きでーす!」
リンダがシラケた目で俺を見る。俺のハートが、また、チュクチュク痛む。
「あっそう」とだけ言って、煙草に火をつける彼女。
赤い口紅がはみ出したリンダの唇が煙草を迎えに行くとき、俺の目はどうしたって釘付けになる。
うわー……エロいなーちくしょう。なんてエロさだ!エロリンピック代表に内定いや決定だ!エロリンピック金メダル候補の最有力者がお前だ!なんたって俺のハートをつかんで離さないんだからな!ああ、もう!好き!好き!好きー!大好きー!わたしを好きーに連れてってー!ユーミーン!
ぷっはぁ~もわもわ~と、リンダの唇から煙が広がる。どこを見ているのか分からないリンダの目。薄い茶色。
俺は黙ってギターを背負った。今日も弦が切れちった。僕ちゃんたら、やりすぎちゃうんだよなぁ。てへぺろ。
他の薄情な連中は、それぞれ電車で一時間半かけてお家に帰るっていうんで先に出てってしまった。
ひとりは会社員だし、ひとりは塾講師なんだってさ。なんかもう普通に就職しちゃってんの。だから黒髪なんだよ。そこそこ清潔感の漂う髪型しやがって。
ちっともパンクじゃない。鼻くそホジー。
リンダは楽器をやらない。身ひとつで来て、身ひとつで帰る。酒と煙草があれば良い的なろくでなし。アイシャドウがいつも濃い。口紅はいつも唇のエリアからはみ出ているし。でも好き。僕ちゃん、ほんと一途。
リンダが煙草をもみ消しながら「行くんでしょ?」と言った。
「しょうがねぇなぁ……」と、俺はわしわしと頭をかきながら、さも面倒くさそうに答える。
だってほら、何したらこうなったってぐらい亀裂の入ったほっそいジーンズ履いてるし。無駄にチェーンぶら下げてるし。ごついエンジニアブーツはいてるし。なんたって腕にタトゥー入れてるし。
「うん♪行こ行こ♪」なんて、ルンルンしちゃうキャラじゃねーもん。
俺がギターしょって機材持ってるのなんかお構いなしに、リンダはすたすたと出ていく。どうしてそんなハイヒールでさくさく歩けるんだよ。ハイヒールはさくさくだしお尻はぷりぷりだし。ミニスカートにガーターストッキングをつらぬく女。パンツ見えるぞ。
でも、リンダはパンツのひとつやふたつ、見えたって構っちゃいないんだ。くそ。観客のやつらめ。俺だってまだリンダのパンツをまともに拝んだことなんかありゃしねぇのに。うん客になりたい。そうだ客になろう。そうだ京都、行こう。
ライブハウスの斜め向かいのボロい雑居ビルの地下に、行きつけのバーがある。だいたい、いつも空いている。つぶれそうでつぶれない謎の店。
リンダはカウンターに座って、とりあえずオンザロックをたのむ。
「同じでいいんでしょ?」なんて勝手に決めつける、お前のそういうところも……好き!好きー!JRスキースキー!
リンダは基本、無口だ。ステージに上がっている時、以外は。今もそう。煙草を吸って、酒を飲んで、息をしている。以上。
ボサボサの金髪がリンダの横顔を隠しているから、どんな顔をしているのか俺には分からない。それでも、青や赤や黒のマニキュアでゴテゴテと飾られた指がすごくキレイなことを俺は知っている。
沈黙。
「ねえマスター」リンダの声が少ししゃがれている。「愛ってなんだか知ってる?」
この時のマスターは布切れでグラスを拭いていた。
「さあね」とだけポツリと答えた。
不愛想かよ。だから客が来ないんだろ。
「あんたは?」リンダが俺の顔を覗き込んだ。リンダの目がすわっている。その目つきがやたらエロい。キュンてしちゃう。俺、キュンてしちゃう。
「知るかよ」と、俺は吐き捨ててグラスをあおった。
心臓がドキドキ、胸がチュクチュクしちゃっていることを、気取られてはいけない。だって僕ちゃん、カッコイイんだもん!
空になったグラスはすぐに下げられて、おかわりが置かれる。さっき「同じでいい?」って聞かれて「あん?いいよ」って答えたからなんだけどさ。ワンコ・オンザロックだぜ。かっこクソダサイかっことじる。
「なんか……」リンダが煙を吐き出しながら言った。「疲れちゃった」
俺は驚いて振り返る。
リンダの口から「つ・か・れ・ちゃ・っ・た」なんて言葉が出る日が来るとか思ってなかったから。
リンダが俺を見る。その目がうるんでめっちゃセクスィ~。俺は思わず生唾を飲み下す。純!俺ってば純!北の国から!じゅ~ん!
リンダがまっすぐに俺を見つめて、とっても魅惑的な声で言った。
「あんたんち、行っていい?」
はい!OKでーす!両手どころか股も全部ひらいてウェルカムどぇ~す!と、心の中でハシャギながらも俺は答える。
「あぁ?マジかよ」
いやマジであってお願い!マジであってぇ~!お願いだから~!と、心の中では強く願っている。けど、口では、
「なんだよ、いきなり……」
「ダメ?」
リンダ!リンダリンダ!リンダ!ダメじゃない!ダメなものか!この世にダメなんて言葉は存在しないんだ!ダメだなんてダメ、絶対!
でも、俺の口からは、
「ちっ」
何が「ちっ」だよ~!おい~!俺~!
「おねがい」ぐっと近づくリンダの髪。
あんだけ煙草をふかしているくせに、ビックリするぐらいの甘い香りが俺の鼻孔をくすぐった。ドキドキだしチュクチュクだしクラクラ。
俺は本当に、心の底から「仕方なしに受け入れてやる」感じを出して答える。
「しょうがねぇな」
やった~!万歳!万歳!バンザーイ!これでやっとリンダのパンツが拝める!いやパンツどころの騒ぎじゃない!
うわ~今日はギターが軽いなー。まるで背負ってないみたいだよ♪うわ~!このまま空も飛べそう♪あはははは。あはははは。
昇天!昇天!昇天!からの……寝落ち!
朝ー!朝だよー!ベッドには愛する女。彼女を起こさないようにそっと抜け出す俺。
シャワーを浴びて帰ってくると、リンダがベッドの上に起き上がっていた。全裸だ。カーテンの隙間から朝の光が差し込んで、リンダの背中が光っている。
「おはよう」と、リンダを優しく抱きしめる俺。なんだったら、このまま朝からライブ・オン・ベッドいっちゃう!?なぁ~んちゃって!
「ちっ!」
え……?今のなに?もしかして……舌打ち?
「気安く触んな」
「え?」
「だーかーらー」リンダから、ごごごごごご……という効果音が聞こえて来た。「気安く触んな!この変態!」
ばあん!と両腕を振りほどかれた……と思ったら、視界がものすごいスピードで右に流れたし、目の前に火花が散った。ちかちか、あはは、お星さまだね、きれいだね、あはははは。
俺は、リンダのビンタをまともにくらった頬をおさえた。じわじわ痛い。だって涙がでちゃう。男の子だもん。
「つーか!なんであんたがここにいんの?」
「え?え?……ここ俺んちだし」
「じゃあ、なんであたしがあんたんちにいるわけ?」
「え?え?……自分で言ったじゃん。あんたんち行っていい?って……」
「つーか!」
リンダが怒っている。目つきが怪しいから、きっと昨夜の酒も残っているんだ。二日酔いでしかも怒っている。これはもう、ざっくり言っちゃって「最悪」。うん、最悪以外の何物でもない。
「なんでマッパなわけ?」
遅っ!気が付くの遅っ!
「それは……昨夜……俺たち激しく愛しあっ……」
「てめぇ!」
あら?おやおや?「あんた」から「てめえ」になったよ。これは格上げ?格下げ?どっちなの?なんてことを思っていたら、リンダがベッドから飛び上がった。昨夜ふたりを温めた布団が宙に舞い、リンダの白い体と相反する黒いヘアが見えた……と思ったら、どさぁ!という感触とともに、俺の体は床に叩きつけられた。
知らなかった。
リンダは飛び蹴りも得意だったんだね……。
「おい、てめえ」
リンダの声がする。声のするほうを見ると、立っているリンダの脚、股間、下乳、などが順番に目に入った。あいかわらずの全裸だ。
俺の口元がほほ笑む。耳に昨夜のリンダの甘い声の一部始終が蘇ってくる。
それを突き破るように、リンダの声がした。
「1発ヤッたぐらいで、勘違いすんな!」
「いや、3ぱ……」
「うるさい!」
「ぐはっ!」
リンダが思いっきり蹴った俺のみぞおち。おかげで俺はトイレに駆け込み、昨夜の一部始終を便器の中にもどした。
バスルームからシャワーの音とリンダの鼻歌が聞こえてくる。どういうこと?どんな情緒だよ。さっきまで沸騰したヤカンみたいに怒ってなかったか?でも……。
そんなお前が、俺はやっぱり……大好きだった。
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