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1on1は手段!いや目的かも知れない?!という議論から考えた対話の本質

「1on1は部下育成の手段ですよね。だから、ほかに育成の手段を持つ人はやらなくてもいいですよね?1on1をやることが目的になってはいけないと思います。」

とある企業のみなさんとディスカッションをしていたとき、こんな発言がありました。「1on1は手段」、ごもっともな意見です。

ですが、私はこの発言に違和感を覚え、つい、あることを言ってしまいました。今日はそのことをお伝えします。


1on1は「手段」だから実施率にこだわる必要はない?!

1on1を全社施策として導入してから5年ほどが経った企業でのお話。この会社では「社員の働きがい向上と成長のため、マネジメントを変える」という文脈で、1on1を実施しています。

全社導入時点からかなり戦略を練り、毎年、1on1実施状況データと社員の声、そして中期経営計画もにらんで「今年はここに手を入れよう」「次の重点課題はここ」とさまざまな手を打ってきました。その甲斐あって、1on1の実施率も満足度も上がり続けてきたのでした。

次の1年の1on1施策の方向性について話し合われる場に私も呼ばれました。

いつも直接やりとりしている人材系の部署の方だけではなく、関連部署の方も合わせて10名ほどが集まる場でした。参加者の顔ぶれと人数を見るだけで、この5年で、1on1がこのクライアントにとっていかに重要な意味をもつようになったのか、ということがわかりました。

一方で、会議の参加者が増えるということは、その分、いろんな意見が出てくるわけで、私はオンラインで初めてお会いする方の顔を眺めながら、「どういう方向性で進むのだろうか。」と少し緊張していました。

そんな中、こんな意見が出ました。


1on1って、部下育成のための「手段」ですよね?あくまでも「手段」だから、1on1以外に部下育成の「手段」を持っているマネジャーは、1on1をやらなくてもいいですよね?「100%実施を目指す」などということは、1on1をやることを目的としてしまっていて、手段と目的をはき違えていると思います。


「確かに・・・」という空気が全員に流れたのをzoomでも感じました。

もちろん私も、それはごもっともな意見!とすぐに思いました。

でもなんだろう、この違和感は・・・?部下育成の手段を持っているマネジャーは1on1をやらなくてもいい、とはどういうことだろう?本当にそうだろうか・・・?

そのとき、ちょっと閃くものがあって、心臓が急にドキドキしてきました。気づいたら「ちょっといいでしょうか?」と言っていました。

1on1をやらない人は「1on1に代わる手段」を本当に持っているのか

私の発言はだいたいこんな感じでした。


1on1がマネジメントの「イチ手段」であることは私も否定はしません。また、必ずしも全社の実施率100%を目指せばいい、ということでもないとも思います。

ですが、私がこれまで、御社での調査データや研修での様子を見てきた経験から、誤解を恐れずに言わせていただくと、

かたくなに1on1をやろうとしないマネジャーが、1on1以外の育成の手段を持っている、とは、私にはどうしても思えないのです。

実態はむしろ逆で、メンバー育成に意識が高く、他の手段も持っている人ほど、1on1をすぐに取り入れて上手に活用しているように感じます。「メンバーのマネジメントはできているから1on1は不要だ」という方で、メンバーからもそう思われている人は、残念ながらあまりいない、というのが現状だと思います。

これまで、1on1は必要ないと思っていたマネジャーが、1on1をきちんとできるようになったとき、マネジャーは「これまでとは別の視点」を得て、考え方が大きく変わり「マネジャーが成長する」、その結果、メンバーが変わる、ということが何度も起こっています。

手段ではあるかも知れませんが、なんというか・・・、きちんとした1on1をやることそのものが、マネジャーとしての成長というか、マネジメント変革であるというか。そんなふうにも思うんです。


しーん。
途中から熱くなってしまったたためか、全体が静まり返ってしまいました。半分くらいの方が「それも一理ある!」と思っている・・・ような?、雰囲気もありました。

1on1は「目的」でもいい?!

沈黙をやぶって、ある方が、わかった!という感じで、大きな声でこうおっしゃいました。


ということは!
うちの会社では、「1on1が目的」でもいいんじゃないか?
うちの会社では、1on1ができるようになることが、マネジメントを変えることであり、部下育成につながることなんだと。そう言い切ってもいいんじゃないか?と思えてきました!


1on1が目的!
目から鱗が落ちる、というより、鱗が思いっきり飛び出た感じがしました。もちろんこれは極論。まさか、社員に「1on1はやることが目的です!」なんて言えるわけもないのですが、それでも、こういうやりとりが、クライアントと私でできていることに意味を感じました。

私が口にした「違和感」をきっかけに発想の転換をしてくださったおかげで、その後、さまざまな意見が出て議論が広がっていきました。また、こういう議論ができるなら、このクライアントは、他の会社とは違う強さを持って、この会社なりの1on1を推進していける!とも思いました。

普通に考えたら、1on1はやはり、経営目標達成のための手段でしょう。しかし、「1on1は手段であって目的化してはいけない。他の手段があればやらなくていい。実施率は関係ない。」ともっともらしく発言するとき、それが「1on1推進からの逃げ」になっていないか、自問自答した方が良いと思いました。

1on1における「対話」とはなにか

話は変わりますが、このときに思い出したことがあります。

対話とは何か、ということです。

先に述べた通り、「自分に1on1は必要ない。部下とはコミュニケーションできてるし、十分理解している。」という方が、1on1を学び、実際に実践してみたとき、これまでとは「別の視点」を得てマネジャー自身の「モノの見方」が変わっていく、ということを、私は何度も経験してきました。これまで培ってきた成功体験や信念を手放し、部下と共にある、というあり方に変わっていくというか。

「対話」にはたくさんの定義がありますが、
埼玉大学の宇多川元一先生の書籍、「他者と働く」によると、

対話とはコミュニケーションの手段ではない

対話とは、一言で言うと「新しい関係性を構築すること」

他者と働く「わかりあえなさ」から始める組織論,宇田川元一,NewsPicksパブリッシング 

とあります。そしてその前提として、「対話とは、わかりあえないことを認めることから始まる」とありました。

そもそもわかりあえないことを前提に、1on1での対話を通じて、
「部下はそう思っていたんだ!」「部下からはそう見えていたんだ!」「部下がそう言う背景にはそんなことがあったんだ!」

と上司が気づいた時、

「部下のことはもう十分わかっている」「この部下はダメ、この部下は大丈夫」「自分が言ってることが正しい」

という「自分から見えていた世界」が変わり、上司・部下の関係性が変わるのではないでしょうか。そしてそうなったとき、部下の中に「変わろう」「やろう」という力が湧いてくるのだと思うのです。

また、対話を用いた精神疾患の治療方法である「オープンダイアローグ」では、その「7つの原則」の中で、「対話は解決のための手段ではなく、対話自体を目的と捉える」としています。

面白いですね、対話が治療の手段なのに、対話が目的というのは!

上司と部下の対話である1on1、考えれば考えるほどとても深いものだと気付かされます。

たかが1on1、されど1on1。
手段でもある1on1、目的でもある1on1。

今日はそんなことを書いてみました!






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