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池井戸潤『ノーサイド・ゲーム』

ラグビー人気の火付け役となったTBS日曜劇場『ノーサイドゲーム』の原作です。原作、と言ってもTBS日曜劇場の企画として「ラグビーもの」が先にあり、ドラマのために池井戸先生が小説を書いた、と言われています。

本の内容 出版社のページから

池井戸潤最新作! 2019年7月放映、ドラマ「ノーサイド・ゲーム」(TBS日曜劇場)の原作。経営戦略室から左遷された男が挑む——。低迷ラグビー部を“経済的に”立て直せ!

本の内容 「BOOK」データベースより

未来につながる、パスがある。大手自動車メーカー・トキワ自動車のエリート社員だった君嶋隼人は、とある大型買収案件に異を唱えた結果、横浜工場の総務部長に左遷させられ、同社ラグビー部アストロズのゼネラルマネージャーを兼務することに。かつて強豪として鳴らしたアストロズも、いまは成績不振に喘ぎ、鳴かず飛ばず。巨額の赤字を垂れ流していた。アストロズを再生せよ―。ラグビーに関して何の知識も経験もない、ズブの素人である君嶋が、お荷物社会人ラグビーの再建に挑む。

感想

ラグビーを取り扱う小説、というと、「スポ魂」「仲間との結束・友情」「チームを作る苦労」の話が多く、企業ラグビーの内情を書いた小説は初めてでした。

『陸王』『半沢直樹シリーズ』でおなじみの池井戸潤先生の作品らしく、1つ乗り越えれば次の壁がやってくる、でも最後は勧善懲悪、一生懸命泥臭くやることが報われる、読んでいて気持ちがいいストーリーです。

ラグビー部を存続させるために、取締役会で必要性と将来性を説明するシーンを前に、主人公の君嶋GMが選手やスタッフに語る言葉です。

ラグビーと違ってオレの戦いにはルールはない。結果がすべてだと思っている。お前らのラグビー人生を預かってるんだ。そのためにはオレも命を懸ける。

働く限り戦い続けるビジネスの世界は、『正義が勝つのではない。勝ったものが正義』と言われます。だからこそ、ラグビーが持つラグビー憲章や『ノーサイド』が必要なのかもしれません。

本書の最後で、君嶋の宿敵であった(はずの)滝川元常務が発する言葉が印象的です。

もっと大きなところで、どんどん理不尽がまかり通る世界になっている。だからこそ、ラグビーというスポーツが必要なんだろう。
『ノーサイド』の精神は日本ラグビーの御伽話かもしれないが、今のこの世界にこそ、それが必要だと思わないか。もし日本が世界と互角に戦える強豪国になれば、その尊い精神を世界に伝えられるだろう。

ノーサイド(No Side)

ラグビーの試合において、試合が終われば敵味方なくサイドが分かれることなくお互いの健闘を称えあう、人生においては一瞬かもしれないがその素晴らしい戦いをともに作り上げた相手を尊敬・尊重し仲間となる。

『ノーサイド』は和製ラグビー用語であるというのはラグビー通では有名な話(英語ではPlay Off、フル・タイム)ですが、『ノーサイド』の精神は世界共通。試合が終われば、選手お互いに肩を抱き合い称えあう、試合後には、アフターマッチ・ファンクションで酒をかわす。

ラグビーワールドカップ2019日本大会で、まさに世界中の選手・ファンがノーサイドの精神を体現してくれました。ノーサイドの精神が、日本ラグビーから世界ラグビーへ、そしてラグビー以外の世界へ羽ばたきますように、と改めて思う小説でした。

現役ラグビー選手の感想

日野レッドドルフィンズ キャプテン 村田毅選手が書評を書いています。現役ラグビー選手、つまり内側から見ている選手の感想は、心にしみました。

(おまけ)ドラマの反響

ドラマ『ノーサイド・ゲーム』の反響はすさまじく、ラグビーワールドカップ2019日本大会を前に、日本中がラグビーに注目する土台を作りました。

ラグビーワールドカップ2019の日本国内での放映権は、NHK・日テレ・JSPORTSが持っており、TBSは放映権を持っていませんでした。自社の視聴率などを考えると、自社にはメリットはなく、「敵に塩を送る」形となりました。それでも「日本ラグビーが盛り上がればいい」というテレビ界のONETEAMが生まれました。

TBSさん、池井戸先生 ありがとうございました。

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