翻訳者のニューノーマル

2021年は春から紐でグイグイ引っ張られるようにIT方面へといざなわれ、IT業界独特の英語・日本語の単語や言い回しにも慣れて、産業翻訳スキルが少しだけ上がった感じがします。MTPEも苦にならないので、どんどん腕を上げている翻訳AIちゃんと力を合わせて、翻訳文のクオリティを向上させようと思う2022年です。

ほんと、今年はどんな分野に導かれるのかと今から楽しみです。不思議なもので、「これをやってみたい」と思うと、程なくその分野の仕事の打診が舞い込むタチゆえ、「自分が何に食指を伸ばすのか」がキモかもしれません。

1年前に始めたこのnote。昨年後半は忙しさにかまけて放置プレイしておりました。書きたいと思うネタはちょくちょく浮かぶのですが、それを深く考える時間的&気持ち的余裕がないのが悩ましい。今年はもう少しオンオフのバランスを取りながら生活したいと思っています。

さて、タイトルの「翻訳者のニューノーマル」とは何か?

何のことはない「MTPE」です。そう、機械翻訳のポストエディット。

これ、ヨーロッパの翻訳会社では主流になっており、翻訳支援ツール(CAT)にすでに機械翻訳が入っているのが前提で、基本的にはそれに見合ったワード単価が設定されます。とは言え、大抵は普通の翻訳単価と大差ないので、翻訳会社も依頼するクライアントも、ポストエディットは翻訳とほぼ同じ労力ということを理解しているようです。

ただ、この機械翻訳、所詮は「そこそこ良い」レベルゆえ、じっくり読むとその不自然さに気づくのですが、サラッと読むと意味は通じるので「これでオッケー」となってしまう厄介なクオリティ。

そのため、ポストエディットが必要な文章でも、その状態で納品してしまう翻訳者がいる事実を知って驚愕しました。一つのジョブでその頻度が高いと「それってプロとしてどうなの?」と思ってしまうわけです。

機械翻訳が最初からCATに入っているのはここ2年くらいのこと。機械翻訳のメリットは、自分では考えつかない言い回しを提示してくれる点ですが、それでも文章全体の流れは整える必要があります。そのため「自然な日本語を見極める能力」が不可欠に。

これまでの翻訳は、ソース言語をターゲット言語に“翻訳”または“解釈”する力が重視されていました。「意味が通じれば良い」というレベルでもオーケーが出ることが多かったわけです。

ところが、翻訳AIの性能が上がり、翻訳文の精度がグーンと上がった今、意味が通じれば良いというレベルではプロの翻訳者として生き残るのは難しいでしょう。そのレベル、機械で十分対応できますから。変な話、大まかな意味を把握したいだけなら、無料の翻訳アプリで十分だったりします。

この先、翻訳を生業とするためには、機械翻訳と協働する度量と柔軟性が重要です。実際、CATの翻訳AIはMTPEによってクオリティが向上します。人間が多彩な文章を入力すればするほど、翻訳AIに蓄積される語彙や言い回しが増えると意識するべきでしょう。

普通の機械翻訳アプリだけでなく、精度が高くて使いやすい字幕翻訳用アプリや、特定の分野に特化した機械翻訳アプリなども増え始めているので、外国語から日本語に翻訳する情報だけでなく、日本語から多言語に翻訳する情報も、今後はどんどん増えていくはず。

そうやって考えると、翻訳業界は面白い時代に突入したと思います。今年もこの時代的な変化を楽しみながら、面白い仕事をしていきたいですね!

若手翻訳者のみなさんも、機械翻訳主流の今だからこそ、ソース言語とターゲット言語をガシガシ鍛えて、面白い翻訳文を機械に教え込んでくださいませ。

さあ、楽しい時代の幕開けです♪


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