マーケティングリードの怪
前回に引き続き、マーケティング絡みの翻訳仕事で驚愕事件が発生!
これは海外の業務管理システムのローカライズ仕事で、ヨーロッパの翻訳会社の担当者に「ここのトライアルを受けてほしい」と頼まれて、受けたら合格してしまったものです。
その時点で、すでに数人の日本語翻訳者がチームとなっているも、ガイドラインも何もできていない状態だったので、他の翻訳者の翻訳をチェックするために、まずはレビュー作業メインでスタート。
一応、仕事を始める前に、システムを販売するIT企業の担当者から、Zoom上でこの商品の説明はあったのですが、こちらの商品知識の有無を確認せずに中東訛りの早口な英語で説明する姿に「なんだか嫌な空気だな」と思ったのが第一印象でした。
先にチームとして作業をしていた翻訳者の翻訳文は、内容的に英語の直訳に限りなく近いもので、「この程度のローカライズで本当にいいの?」と疑問に思ったほどです。
とは言え、それでクレームがないのであれば、そのスタイルに従うしかありません。レビュー作業では「てにをは」を直し、群発する「〜することができる」を整理し、誤訳を訂正しました。
この「〜することができる」は、若手翻訳者が好んで使います。動詞ごとに可能動詞を確認せずにコレを使うため、製品説明らしからぬ冗長な文章になってしまいます。
翻訳文のスタイルを把握してから翻訳作業を始めて半年くらい経った初夏の頃、このIT会社に日本人のマーケティングリード(♂)が新たに採用されたらしく、私の翻訳や字幕にクレームが入ったと連絡がありました。
翻訳会社の担当者が転送してくれたそのマーケリード氏のメールで指摘されていたクレームは……
●この人の“content writer”としての能力は期待外れ
●翻訳はGoogle翻訳レベル
●致命的な誤訳あり
ん? コンテンツライター? これってローカライズ翻訳じゃないの? そんなギャラはもらっていないし、指示も資料も一切ない。
Google翻訳レベル? 5~6ワードの文章ならGoogle翻訳でもまともな翻訳文を出せる時代に、その例として挙げられていたのが「Focused solving the customer's pain(原文ママ)」の翻訳文でした(笑)。
致命的な誤訳? きっと動画なしで行った字幕翻訳のことでしょう。これは、翻訳プラットフォームに流し込んだタイムコードと英文のテキスト書類を翻訳する作業でした。
そもそも字幕翻訳を翻訳プラットフォームで行うこと自体が間違っています。特に日本語の場合は英語と語順が異なるため、秒数と文字数に合わせて字幕を作ると、本来の英文とは異なる日本語訳がターゲット言語入力枠に入ることになりますので。
基本的に、翻訳文を他の翻訳者がレビューして仕事完了となるので、件のIT企業が見るのはレビュー後の翻訳文になり、翻訳プラットフォーム上には「Published by レビュー担当者名」と記載されます。
それなのにわざわざ翻訳者を名指しして、「こいつは使えねぇ!」とクレームを入れるマーケリード氏の言動が摩訶不思議ですね。
翻訳会社の担当者にクレームに対する私の見解を伝えると、「全面的にMikiに同意」との返事とともに「日本語翻訳者のチーム編成が大幅に変わった」と教えてくれました。
もちろん、こんなマーケリードがいる会社と仕事をする気は一切ないので「チームから外してほしい」と即刻お願いしました。ちなみに、この翻訳会社からはそれ以降も別の仕事が入ってきますよ。
翻訳者のみなさん、マーケティング関連翻訳やローカライズ翻訳の場合、マーケ担当者の好みに合わないと仕事を切られることがありますので、ご注意ください。
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