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No.080 若き友よ!(5)めぐみちゃん / 道を切り拓け!その1

No.080 若き友よ!(5)めぐみちゃん / 道を切り拓け!その1

めぐみちゃんはこちらの塾の卒業生で、今は僕のことを「しんやさん」と呼んでくれる若き友人の一人だ。中学2年生から大学受験の時まで在籍していた。お母さんが、めぐみちゃんを評しての言葉「要領がいい子ではないんです。ちょっとドン臭いところがあるんです」には、笑った。「ドン臭い」この言葉のイメージが、お母さんと僕とでは大分違っていたかもしれないが、僕には「粘り強く頑張れる生徒」の好印象を残した。

めぐみちゃんは某私立中高一貫校に通っていて、こちらの塾に来はじめた時の成績は、学年順位、中の下だった。勉強をしていなくてこの位置ではなく、結構頑張っての成績だった。学校のレベルが高めだったこともあるだろうが、指導を始めて、成程、お母さんの仰ったことが理解できた。確かに、学習事項を要領よくすぐに覚えるタイプではなかった。ただ粘り強く、明るい性格だった。

できない問題に対して「あっ、ダメだ。覚えられない」明るく、ちょっと大きめの声でブツブツと独り言を言う。もちろん生徒の性格を見て言うのだが、口がワル目の僕は「まあ、めぐみちゃんは頭がいいタイプじゃないよな〜。がんばるっきゃないしょ〜」「も〜、わかってますよ。うるさいなあ〜。ほんとに〜」僕の悪口雑言にメゲずに言い返してくる逞しさは高校生の時から備わっていた。

めぐみちゃんの高校3年大学受験のときの頑張りは凄かった。めぐみちゃんの志望校はM大学、彼女の成績を考えると楽な受験にはなりそうになかった。学校の授業が終わるとすぐにこちらに来て学業に励んだ。

めぐみ「日曜日、朝8時に来ていいですか?」
しんや「オレ、起きる頃だな。シャーない、7時59分50秒に一階開けておく」
こちらは、四階建てビルの4階が自宅、1階が教室になっている。職住接近の生活、通勤時間走って10秒、ウサイン・ボルトには負けると説明している。そう、めぐみちゃん、休日や夏休みは、朝の8時過ぎから夜の12時過ぎまで、こちらに来ていた。三度の食事をこちらで取っていたくらいだ。

夜12時過ぎ、めぐみちゃん、同級生の佳世ちゃんと僕の3人で自転車を飛ばし、家路を急いだ日々も懐かしい。途中、コンビニに寄っておでんを買い、店の外、3人でプラスチックの入れ物を順繰りに回し「あっつ〜」「危ない、落とさないでよ〜」。僕がお箸を落として、3人で笑い転げた時もあった。

「人生、意気に感ず」この言葉好きだなあ、やる気のある生徒の姿勢には応えたいしなあ、「めぐみちゃん、がんばるっきゃないしょ〜」はホントだしな。二人を送った後、そんなことを一人考えながら、僕はひとり夜中の地元商店街を、自転車で、風を切り裂き、走り過ぎるのだった。

入試科目の英語と国語は、めぐみちゃんの努力もあり、何とか得点できるようになったが、競争相手に大きく差をつける程ではない。もう一つの科目、世界史で高得点を目指すようにした。入試前までに、山川出版「世界史B用語集」398ページをほぼ完璧に記憶した。

しんや「え〜と、マイソール戦争を説明して」
めぐみ「南インドのマイソール王国とイギリス東インド会社の間で4次に渡った戦争でーす!」
しんや「ピンポーン。中国四大奇書をあげよ」
めぐみ「中国は得意、簡単ですね〜。水滸伝、三国志演義、西遊記、金瓶梅!」
しんや「よろしー!大学に入ったら読んでみたらいいかもね」

めぐみちゃん、受験したM大学4学部中3学部合格。最初に発表のあった学部が不合格、ボロボロ泣いた話も今だから書いておく。大学合格三ヶ月後にこちらに遊びに来たとき、あんなにしっかり記憶した「世界史B用語集」を見事なほど忘れていたのには、ある意味感心した。「水滸伝」も読みそうになかったのは、少し残念ではあった。

大学入学後は、学業もしっかりこなした上に、アジアの国々を中心にバックパッカーの旅で10数カ国を巡る。友人二人で行ったモンゴルへの旅の話は面白かった。ジープを運転するガイドさんと3人、ヤギを一頭乗せて大草原へ。草むらのトイレは当たり前に加えて、食糧にヤギの解体を手伝った。帰国後、携帯の待ち受け画面に、解体したヤギの頭の写真を使っていたのには「趣味ワル〜!」と言ってやった。とにかく、逞しい女子大生だった。

めぐみちゃんが高校生のとき、お父さんの優一さんに言ったものだ。「めぐみちゃん、将来は発展途上国で、穴掘りしているのが向いていそうですね」

そんな彼女が就職先に選んだのは、都内某区役所だった。
しんや「向いてないところ、選んだね〜」相変わらず、忌憚のない言葉をめぐみちゃんに向けた。
めぐみ「何言ってるんですか。安定している職場につけたんですよ〜」
しんや「まっ、何かあったら人生相談でも、結婚相談でも、いつでも来てくれ」

3年後、めぐみちゃんから電話が入る。「遊びに行っていいですか?」人生相談だった。

・・・続く

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