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No.190 旅はトラブル / オランダ・アムステルダム&イングランド・コッツウォルズ訪問ひとり旅2012(17)コッツウォルズ・テットベリーの「The Close Hotel クローズホテル」

No.190  旅はトラブル / オランダ・アムステルダム&イングランド・コッツウォルズ訪問ひとり旅2012(17)コッツウォルズ・テットベリーの「The Close Hotel クローズホテル」

No.188の続きです)

イングランドの田園地帯コッツウォルズ地方の村テットベリーに向かう途中、レンタカーを降りて陽光眩しい中、思いがけず「干し草のロールケーキ作り」のスペクタクルをじっくり楽しめた(No.188)。時間の制限の少ない気ままなひとり旅ならではの贅沢な一コマを思い出に加え、路肩でじっと待っていた、五日間ばかりの「僕の愛車Ford」の運転席についた。

ここまで、ロンドンを離れて30分弱のドライブ、行き交う車も多くなかったが、生真面目にハンドル左にあるウィンカーで、今回は間違えずに右折の指示を出した。走行車線に戻り徐々にスピードを上げてはいくが、東京都内の運転で決まって「飛ばし過ぎですよ〜」と言われる僕としてはかなりゆっくり目の速度である。

「目的地に早く着こう」とか「飛ばそう」とかいう気持ちがまるで湧かない。「旅の途の身」ゆえ自らの内より出でる感情か、「陽光のもとゆったり流れゆく乾いた風」が強要する心の動きなのか、「イングランドの田園風景」の中にいるから起こる穏やかさなのか、おそらくはその全てが綾なして成すものなのであろう。

ラウンドアバウト(No.188)に入った後のナビゲーションのゆったりとした英語にも慣れてきた。「Take the exit to 2nd . 2番出口です」「はいはい、了解〜」日本語で返事したり、「I’ve got it ! 分かりました〜」などとナビとの英会話を楽しんでいると、徐々に対向車も少なくなってきた。

道路沿いのいくつかの街と村を過ぎドライブも1時間を超えた頃、緩い上り坂が続いた。下り坂に入るところで、自然と目に飛び込んできた風景に「おお〜!」と声を上げてしまった。広々とした大地に広がる空の青さと、草原の緑と、刈り入れ後の台地の黄褐色のコントラスト。ここまでのドライブで見てきた景色は「イングランドの田園風景」の入り口だったのだ。

なるほど、ガーデニングを好むイギリス人が、退職後にコッツウォルズ地方を終の住処としたい気持ちに共感を覚えた。ここにあるのは、人を拒絶するような厳しい自然ではなく、優しく穏やかに人と共生する自然なのだ。世界を見渡すと意外と少ない種類の自然なのではないか。この地に根をおろしていない他所者の無責任な第一印象は、コッツウォルズ滞在五日間で変わっていくのだろうか?

「Turn right. 右です」ナビの声に従って主要道路を降り、灌木に挟まれた道を進んでいくと、茶色と灰色の中間色と言うのか、ハニーストーンとも呼ばれる独特の色の石造りの家が両側に立ち並ぶ一画に着き、「The Close Hotel 」の看板が目に入った。この日の宿泊地テットベリーTetburyは「村」と言うよりは小さな「街」の風情だった。

雑誌「Figaro Voyage フィガロ・ヴォヤージュ」を見て惹かれた「The Close Hotel クローズホテル」には、二泊の予約を済ませていた。「クローズホテル」は16世紀のタウンハウス(貴族などの富裕層の別邸)を改装して1974年にホテルとして生まれ変わったと、フィガロは案内していた。築400年を越える建物と、記事の中の「中庭を望むエレガントなレストラン」の文言にやられたわけであった。客室数も18部屋、ヨーロッパのホテル選びの僕の基準(No.180)10数部屋から100部屋以下を満たしてもいた。

ホテル裏の駐車場に車を置いた後にフロントに向かうと、金髪のにこやかな女性が挨拶をしてくれた。部屋の鍵は昔ながらの鉄製の無骨な鍵で、それだけで嬉しくなってしまう。ガチャリと手に届く重さを楽しみ、二階の部屋に入ると小ぶりな部屋の窓から、おそらくフィガロの記事に触れていた「中庭」が見下ろせた。

一人用ながら天蓋ベッドであり、浴室にはネコ脚の浴槽がしつらえてある。天井からローソクデザインのシャンデリアの明かりが部屋の床をうっすらと射している。窓の横に止められているドレープカーテンを引くとずっしりと重い。全体的に派手さはないが、きちんと整えられていて、快適な時間を過ごせるのは保証された。

フロントに降りていくと、先程の金髪の女性と目が合った。いつもの旅のように、情報収集だ。まずは、彼女の名前を聞き出す。「Oh,I’m Naomi.ナオミよ」ナオミ?日本人の血が入っているのか尋ねると、微笑みながら「よく言われるの。母がナオミ・キャンベル(有名なファッションモデル)の名前から頂いただけ。日本は行ったこともないわ」。こんなたわいも無い会話が、街の印象を、旅先の心象を良くしていく。

この日のディナーはホテル内のレストランでとることにして、街の地図をもらい、彼女の名前以外の情報も得て、テットベリーの街探索の一歩を踏み出した。

たっぷりと散歩してお腹を空かせたならば、良い評判を聞くことの少ないイギリスでの最初の食事もマシになるかな?それとも「中庭を望むエレガントなレストラン」での「おひとり様ディナー」は、僕の「旅はトラブル」の思い出の一ページを作るのかな?

まず左方向に行ってみよう。前方に目をやると、蜂蜜色ハニーストーンの家並みに混じり、白色や薄いピンク色の家もある。商店であろうか緑や青の扉も見える。何件かの家の壁には真っ赤な花のブーケが飾られている。生まれて初めて接する街並みで、日本を離れている実感が僕の心を高揚させる一方で、何処か何故か懐かしく感じてもいた。

イングランドの不思議に魅せられ始めていた。

・・・続く

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