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No.018 ダブリン・レンタカートラブル

No.018 ダブリン・レンタカートラブル

「ライアンの娘」のロケ地、ディングル半島を訪れたときの話だ。アイルランドに向けて旅立つ前に、レンタカー会社でナビ付きの車を予約した。ナビゲーションシステムを使えば、ホテルの場所などを探すのが、実に楽に済む。その分、旅・トラベルの面白さであるトラブルが減る寂しさもある。現地の人に道を訪ね、話が弾む経験を幾度となく、してきた頃が懐かしい。アイルランド首都、ダブリン空港内でレンタカーを借りる手もあったのだが、ダブリン市内を見てからディングル半島に向かうことを考え、市内の営業所で借りることにした。

レンタカー会社の営業所は、ダブリン市内とはいえ、ひっそりとした地区にひっそりとあった。空港内にある営業所と比べると、失礼ながら貧弱であった。嫌な予感がした。事務所のドアを押すと、Hi!と明るい英語と、ギィーというドアの音に挨拶された。にこやかなお兄さんが一人いるだけだった。こちらが日本人だと知ると、ジャパンのアニメはいいな、いつか行ってみたいぜ、と盛り上がったところまでは良かった。

車を見ると、ナビがついていない。「日本でナビ付きの車を予約したぜ。そう書いてあるだろ?」「今日はもうナビ付きの車はない。ダブリンのもう一つの営業所にはあるから、そこに行って取ってきてくれ。地図はこれだ。遠くはないし、今オレ一人だから事務所を離れなれないんだ。分かるだろ」旅・トラベルはトラブル、ちょっと嬉しくなったが、こちらが取りに行くのか?「ダブリンは初めてだし、ナビ無しでは行くのは難しいだろう?」アイルランド人のお兄さんと、漫才をするとは思ってもみなかった。

結局、タクシーを呼んでもらって、別の営業所に向かった。一人で運転して行くのは到底無理だと思った。例えて言えば、池袋から二駅離れたところの、名も無いパン屋さんを探せといった指令だ。加えて、こちらの思いと違っていた。「ナビゲーションを搭載した車」と思っていたが、「車にコードで外付けするナビ」をポンと渡された。虎屋の羊羹の重さってこのくらいか?

帰国してから、レンタカー会社に電話を入れた。こんなだった云々(うんぬん)。トラブルは楽しんだが、余計な時間がかかった、最低でもタクシー代は負担してくれ。電話の向こうの穏やかな男性が、領収書の有無を尋ねた。貰っておくべきだった。現地に確認して、先方に負担させればいいだろうと提案した。納得できないことに、首を縦に振るのはできない性格なのです。

穏やかな声で、報告の電話がきた。ダブリンの営業所は直営店でなく、先方は負担しませんとの返事でした。ですから、こちら日本の営業所がタクシー代金を負担いたします。それで了解です。空港内営業所は直営店、ダブリン市内のそれは、ふむ、なるほどねえ、納得です。勉強になりました。

応対の良さに感心して、穏やかな声の持ち主に名前を尋ねた。木下俊二(仮名)と申します。木下さん、お話ししていてお会いしたくなりました。こちらに遊びに来ませんか、美味しいものでも一緒に如何ですか。タクシー代金も入りましたし、ご馳走しますよ。男性もナンパするのです。

今は、俊二さん、信也さんと呼び合い、俊二さんの彼女とも食事を共にしました。これだから、旅はやめられない。トラブルもまた歓迎なのです。

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