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No.082 熊本の怪人にして友人 / 坂本さん・その1

No.082 熊本の怪人にして友人 / 坂本さん・その1

現在、熊本県八代市に住む坂本さんは同年代の友人だ。知り合ったのが25歳の時だから、かれこれ40年にわたる付き合いになる。数年前、ご両親の世話もあり、故郷の熊本に戻られた。東京にいた時は、独身だったこともあり、二ヶ月に一度くらい、我が家の夕飯にいらしたりした。

先日、熊本の坂本さんのお宅に電話を入れたところ、キリエ奥様(熊本で結婚。かなり年下です)がお出になられた。彼女は、地元でイラストや漫画なども描かれている。奥さんと話が弾んだ。以前noteの記事(No.037 英語・挫折の歴史・その6・坂本さん)で、坂本さんの怪人ぶりの一端を描いている。

奥さん曰く「ホントに、昔から今みたいにヒドい口の聞き方をしていたんですね。あの人、友達いないくらいですよ。オノさん良く付き合ってくれていますよね〜」「とんでもない、坂本さんは素晴らしい友人ですよ。話していて楽しいですし、刺激もたくさんもらっていますよ」僕の言葉を外交辞令と捉えたか、軽いため息のような「そうですか〜」には苦笑した。

キリエ奥様がおっしゃる「ヒドい口の聞き方」の一つを紹介する。英会話教室での出会いから数年後、偶然の再会の場面だ。

「そんなものは図書館で借りればいいです」背後から、危ないセリフが耳に飛び込んできた。前にいるショートカットが素敵な女性英語リスニング教材販売員の顔に、歪みが浮かんだのを確かに見た。振り返ると、ショルダーバッグを肩にかけ、両手はポケットに、マスクにメガネをかけた同年代の男性(当時・20代)が繰り返した。「買わなくていいです。図書館で借りればいい」(「No.037 英語・挫折の歴史・その6・坂本さん」より抜粋)

確かに、教材販売員を目の前にしての言葉であることを考えれば「ヒドい口の聞き方」であろう。よく言えば率直で正直なもの言いで、僕にとっては面白い人なのだ。それは、僕の連れ合いの由理くんも同じように捉え、初対面のあと「おもろい人やね〜」の感想を述べた。それ以来、我が家の夕飯に招待するようになった。

夕飯前の話である。僕が衝動買いした急須が、他の小物と一緒に棚の上に飾ってあった。かなり変わった形で、芸術性に富んだものだ。実用的ではないのは百も承知で買ったものだ。

坂本さんは、陶器を見たりするのも好きだ。この「芸術的な急須」を手にとって眺め回す。ため息をつきながら「ヒドい口の聞き方」をした。

「はあ〜、こんな急須を作るバカもいるんだ。こんな急須を買うバカもいるんだ」
「そうですか〜、坂本さん、僕は好きなんですがね〜」目の前の「バカな急須を買ったバカ」が反論する。
「こんなのが好きなんですか。こんな安物」坂本さん、急須を回しながら、底に目をやる。値札が貼ってあった。223500円、二十二万三千五百円。

目を見開く坂本さん
「えっ!こんなに高いんですか、この急須!」
ほくそ笑むしんや、ふふふ、ものを見る目のない奴だ
「どうですか、素晴らしい急須でしょう」
己の審美眼に失望する坂本さん
「う〜ん、そう言えば、素晴らしい」

わはは、いい加減な奴だな〜、サカモトくん。
実は23500円、二万三千五百円「2」を書き足しておいて、223500円、二十二万三千五百円だよ。
うろたえる坂本さん「えっ!人を騙したんですか!」

こちらは何も言わず、値札が貼られた急須の底に目が行くまで待つのがポイントの一つ。伊達にマジックを趣味にしているのではないのだよ、サカモトくん。
そんなに安いものでもないのだよ、23500円だからね。サカモトくん、修行しなおしたまえ!

二人のアホなやり取りを聞いていた由理くん。
「何、いい歳した二人がアホなことしてんねん。ご飯できたで〜」

楽しい夕飯の席につく坂本さん、思い出したようにバッグに手を伸ばし、紙包みを出した。
「今日はご馳走様です。手土産です」

僕が、紙包みを開けると中には、パックされた立派な辛子レンコンがあった。熊本名産である。ひっくり返すと値札が貼ったままだ。20000円、二万円。

思わず僕が声をあげた
「坂本さん、こんな高級なもの。もっと気軽にいらしてくださいよ!」
僕の隣に座る由理くんが言う
「レンコン、こんな高いわけあらへんがな〜」

そうなのだ。坂本さん、家を出る前に2000円の値札に「0」を付け加えて、20000円に仕立ててきたのだ。お互いに、ひっかかっている。長く、付き合えるわけだ。
坂本さん、ニコリともしないで夕飯のアジの開きを食べ始めた。心の中では、してやったりと思っているのであろうが。

愛すべき熊本の怪人坂本さん。「その2」では、坂本さんの勉学における「怪人ぶり」を紹介させて頂く。

・・・続く

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