No.207 戯れごと(1)石森章太郎とショコラティエ・エリカをネタに
No.207 戯れごと(1)石森章太郎とショコラティエ・エリカをネタに
戯れごとである。話があちこちに飛ぶ。飛んではいるが、石森章太郎の言葉を引用しているわけは、明らかであろう。ことばの描写と、写真を伴う文章の違いで遊んでみた。
小学六年生の時だった。少し前に書いた雑誌「COMこむ」創刊2号に掲載されていた石森章太郎「ファンタジーワールドジュン」の後書きのように書かれていた1ページをよく覚えている。編集者が作者石森章太郎に語りかけている。読者から訳の分からない漫画だとの手紙が来ている。後の売れっ子漫画家永井豪と思われるアシスタントが、自分も理解できないと横から口を挟む。それに対して作者石森章太郎が「今の若者は想像する力が欠けているのではないか、『ファンタジーワールドジュン』で君たちに挑戦する」と述べている。当時小学生、若者と言うには幼かった僕も、少し背伸びしてこの言葉を受け止め、抽象的なコマ割りの中に描かれた絵の一つひとつに「意味」を汲み取ろうと試みた。幼い頃よりいつもそばにいたもの、父や母・兄や姉たちの何気ない仕草から、染みるように受け取る無言の影響と同じように、はっきりと言葉にされた他者からの意志も人の一部を形成する。
改行スペースを取らず書いた。読む人がそれぞれに想像してぼんやりとでも情景を創造すれば、ひとつとして同じ画像にはならないだろう。
全文を引用すると、印象がまた変わる。
章太郎のファンタジーワールド in “the” world
編集者「一ページあまったから『すきなこと』かいてヨ」
章太郎「アイヨ」
編集者「ところでアンタのこのマンガ、なにがなんだかチートもわかんないという意見が多いんだけんども……。そのことについてかいたらどうだロ」
アシスタント「エー、じつはぼくにもぜんぜんわかんないスけどね」
章太郎「チョッ、なにが『すきなこと』だ。いいスよ、いいスよ、あやまりゃいいんでショ。ドーモドーモ、ちっともサービス精神がなくて……。というとおもったら大マチガイだぞ。だいたいいまの子どもはあまやかされすぎとる!あとは下のコマを読め!」
最近の子どもーつまりあなたがたーは、昔の子どもーつまりぼくたちーにくらべて想像力が不足しているんじゃあるまいか?
ちょっとむずかしい(ほんとはちっともむずかしくない)ひねったことをかくと「あ、こりゃもうアキマヘン」とくる。なぜそのまえにもう一度考えてみないのか?そしてそこから想像して、自分なりの解答を求めようとしないのか?
理由はいろいろ考えられる。
まず、あまりにもかんたんなまんがの読みすぎ。テレビなどの映像文化なるものの発達しすぎ。生活のテンポのスピード化etc,etc.....
昔は「本」というものは、絵よりも字のほうが多かった。だから字と字の間から、その行と行の間から、ぼくらはその場のいろいろの情景を想像した。
テレビなんてものもなかった。ラジオってやつの(今でもあるけど)しゃべることばの中から聞こえてくる音の中から、ぼくらは見えないことや、ものや、場面を想像した。また、それだけの時間もあった。
ところが、今はどうだ。「本」を開けば全ページに絵がある。スイッチをひねれば、そこにやはり絵がでてくる。そして、考えてる時間はない。
それが進歩というもんだ。それだけ多くの知識をより早く得られる。そしておまえたちまんが家も、そのおかげで商売繁盛……といわれればそれまでだ。
しかし、想像する力、考える力を失うということは、長い目で見れば、大きな進歩につながらないと思う。
読者よ。もっと考える習慣を!もっと想像力を!
ぼくはこの「ファンタジー・ワールド」で、みなさんに挑戦するつもりなのである。
東京都港区白金台、路上駐車のスペースも両側にある、広く緩やかな坂道の途中、いやでも薄い緑色の壁と窓枠に目がとらわれる。愛用のイタリア製の自転車ビアンキとそっくりの緑色、日本の伝統色で言えば「翡翠(ひすい)色」が最も近いか。
翡翠色の壁に続く更に広いガラス扉の内側、小さなテーブルと椅子がいくつか見える。ネット販売はあるが、店舗はここ白金台のみのチョコレート専門店「Chocolatier Erika・ショコラティエ・エリカ」は、富裕層が多く住む白金台近辺の中で、意外にも庶民的な雰囲気を醸し出している。
白と翡翠色が基調の可愛らしい店内や、手書きの商品案内や値札がその一因か。ツツジに似た小さな花を咲かせる「エリカ」を店名に選んだ創業者の心意気が感じられる温かい店である。
そう、僕は結構甘いものが好きなのである。都内のホテルのアフタヌーンティーはあちこち食べ歩いたし、甘党女子の会話にも何とかついてはいける。「ショコラティエ・エリカ」もこの筋からの情報で、住まいの板橋から白金台は近いとは言い難いが足を伸ばしてみた。
クルミとマシュマロが入った、どっしりと重い直方体のチョコレートの塊「ラ・ボンヌ」や、翡翠色の小さな葉の形が愛らしい「ミント」などが人気のようだ。ここ「エリカ」の中での僕の好みは「ディアモン」、五色の銀紙に包まれている一口サイズのミルクチョコレート、たっぷりと500g入っている袋のものは食べ応え充分である。1kgのものもあり、その迫力にプレゼントをした相手が嬉しい悲鳴をあげていた。
1kgほどではないが、中々の迫力の500g入りの「ディアモン」を目の前にして、戯れ始めてしまった。銀紙に包まれたチョコのいくつかを床に並べ、ほくそ笑みながら平仮名やハート形を作ったりしている姿は、人に見せるにはいささか恥ずかしくもある。
500g入りだが、さて何個くらい入っているのだろうか?そもそも500g入っているのだろうか?妙な好奇心が湧いてきて、料理用デジタルスケールを出して更なる戯れごとを続ける。金属製のボールをスケールに乗せてスイッチを入れると、ボールの重さは計量されずにスケールは「0」を示す。便利なものだ。次に「ディアモン500g入り」を乗せると「524」の数字が現れた。「エリカ様、軽く疑いまして失礼しました」と独りごちる。
さて、524マイナス500イコール「24g」は「ディアモン」何個分くらいだろう。小皿を出して試してみる。元生徒のルミさん(No.054)あたりから「暇なことやってますねえ」と言われそうだ。4個では21g、5個乗せると27g、1個だけだと5gを示すので、銀紙に包まれたミルクチョコレート「ディアモン」一つあたり5gをいくらか超える重さだと結論付けられた。もっと正確なスケールを使えば、1g以下の小数点数字も計測できるだろう。
こうなってくるとスケールに「24」の数字を見たい怨念に取り憑かれていた。袋からディアモンを5個出して、パリが本店のマリアージュフレージュの紅茶「マルコポーロ」を飲みながら食す。チョコを包んでいた銀紙5個を丸め、「21」を示しているスケールの上の小皿に乗るディアモンの横に置くと「22」を示した。結局、「24」の数字を見るために13個のディアモンの銀紙を必要とした。
全部で約500g、ディアモンチョコ一個あたり約5gちょっとであるから、500gを5gで割る。一袋に約100個近く入っていることになる。今度500g入りの「ディアモンチョコ」を購入したら、食べる前に何個入っているか確かめてみよう。ささやかな楽しみができた。
白金台にあるチョコレート専門店「ショコラティエ・エリカ」の外観。愛用の自転車ビアンキの色にそっくりの翡翠色が目に鮮やかだ。
人気商品のひとつ「ラ・ボンヌ」クルミとマショマロがたっぷりと入っている。
「ミント」こちらの製品が一番よく知られているようだ。
「ディアモン500g」入り
量ってみるとみると「524」g❗️「エリカ様、ちょっと疑って失礼しました」
4個で「21」g。1個5g強か。
5個で「27」gか。「24」の数字が見たくなってきた。
やはり1個5gくらいか。
ディアモン4個と銀紙丸めたもの13個で「24」g。食べ過ぎた〜(笑)
「COMこむ」創刊第2号に掲載された石森章太郎「ファンタジーワールド・ジュン」。
「ファンタジーワールド。ジュン」第2回連載ラストページ。石森章太郎から若者に向けた思いと「挑戦」の言葉が載っていた。
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