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No.073 シークフリード&ロイ / 絶品のイリュージョンショー

No.073 シークフリード&ロイ / 絶品のイリュージョンショー

(現在、ネットなどで検索すると「シ」ではなく「ジ」ークフリード&ロイとなっているのが普通である。手元にある当時のプログラムは「シ」になっているので、シークフリード&ロイを使う)

アメリカラスベガスで長くイリュージョンマジックショーで人気を博した二人組、シークフリード&ロイのひとりロイ・ホーン氏、5月8日逝去のニュースを目にした。死因は新型コロナウィルスとの合併症によるもので、75歳だった。シークフリード&ロイというと、やはり二人を有名にした、ホワイトタイガーを始めとする猛獣との絡みを含んだイリュージョンマジックショーが印象に残る。

1988年から1989年にかけて半年以上に渡り、東京・大阪に設置された特設会場でショー「Illusionイリュージョン」を行った。ラスベガスからの引っ越し公演だった。そのニュースを聞いて驚いたものだ。ラスベガスからの引越し公演は、当時としてはかなり珍しいものだった。もしかすると、日本では初の試みだったのかもしれない。寡聞にして知らない。

東京汐留での公演、すぐにチケットを申し込んだ。レイトショーS席ひとり1万円、由理くんと二人で行った。東京公演初日11月12日夜のショーがあまりに面白く、12月にもう一度足を運んだ。当時、新橋が最寄りの駅だった記憶がある。

豪華客船でマジシャンとして乗船していたシークフリードと、客船のサービス係として働いていたロイが出会い意気投合、ロイが飼っていたチーターをシークフリードのマジックに使ったのが、二人のコンビ結成の出発点の話はよく知られている。その後のあれよあれよとの成功物語から、ホワイトタイガーたちは外せない。

ショー「Illusionイリュージョン」が、どのような構成で進められるかなどの関心はなかったし、情報もなかった。テレビで見たシークフリード&ロイの「猛獣のイリュージョンマジック」を観ることだけが目的だった。

舞台に向かい、最前列一番左側、煎餅をかじりながら僕の隣に座る連れ合いの由理くんは、もっとお気楽「おもろいとええな〜」くらいだったか。

舞台が暗転、ショーが始まった。ロックのライブに負けじとの音量で、華やかな音楽が流れる。金銀のラメ衣装に身を包んだ、屈強な肉体の男たちとトップレスに近い女たちが、次々と踊りながら舞台に姿を現す。そうか、これは30分のマジックショーではないのだ。90分のラスベガスのエンターティンメントショーなのだ。

音楽は、怪しげなメロディに変わり、派手な衣装の人の群れの中に、天井から二つの透明な筒が静かに降りてくる。筒が舞台に降りると、透明な筒の中に煙が満ちてくる。煙が外に出てくる、と、不思議にも右の筒の中に金髪の男性、シークフリードの姿が、左の筒に黒髪のナイスガイ、ロイの姿があった。

ここから始まったショーは、実にバラエティに富んだものだった。人体浮遊や人体切断、猛獣の出現と消失などの疾走感溢れる見事なイリュージョンは予想を上回る素晴らしさだった。舞台装置も鮮やかで、マジックショーでよく目にする安っぽい道具とはかけ離れていた。

イリュージョンのパートに挟まれたのは、一輪車で舞台を駆け回りながらのバスケットボールショー、こちらも実に楽しかった。もう一つは、白いゴム素材の仮面をつけた男女二人のパントマイムショー、ゴムの顔どうしがくっつき困ってしまう芸術性の高いものだった。

ショーのトリの出し物、ホワイトタイガー、ライオン、クロヒョウたちを使った「猛獣たちとの触れ合い」は流石であった。マジックであるのは分かるが、タネや仕掛けなどどうでもいい。ここには超一流のエンターティンメントがあり、それは、芸術の域に入っていた。

アンコールのとき、興奮状態の僕と由理くんは「凄い!凄い!」とスタンディングオベーションだった。最前列だったので、確認はできなかったが、シャイな日本人、しかも初日、遠慮もあったのか、スタンディングした人は少なかった。

舞台左手で拍手を浴びていたロイが、スタンディングで手を叩いている僕と由理くんに気づいたのか、舞台から降りてきてくれた。ロイは微笑みながら、由理くんと僕をしっかりとハグしてくれ、手を振りながら舞台へ戻っていった。

あの、カッコ良かったロイの温かさが忘れられない。向こうの世界に入ってしまったんだな。合掌。

エンターティンメント・娯楽は人を楽しませることを良しとする。それはともすれば「ああ、楽しかった」の一過性が付き纏うものでもある。

シークフリード&ロイのショーは、エンターティンメント「娯楽」の世界でも、一過性でない記憶に残る「凄い」ものを作ることができることを示してくれた。

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