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明日からできる、コミュニティマネジメントの技3つ——「いいコミュニティ」の育て方【中編】

▼この記事は、こんな方におすすめです
・自分の所属しているコミュニティをもっと良い感じにしたい
・習い事の教室や勉強会など、何かしらの「コミュニティ」の運営に携わっている
・これから自分のコミュニティを立ち上げてみたい

前回の記事はこちら
▶︎小さなタンゴ教室とコミュニティマネージャーから学ぶ、「いいコミュニティ」の育て方【前編】


コミュニティマネージャーが教える、コミュニティマネジメントの技

 コミュニティマネジメントの重要性や、陥りやすい罠はわかった。

 しかし、じゃあ実際に自分もコミュニティマネジメントを意識してみようと思ったときに、一体何から始めればいいんだろうか?

 私は今のところ自分のコミュニティというものを持っていない。しかし持っていたとして、コミュニティマネジメントを学んでいない状態の私はまず何をするべきか。

 礼奈さんに、「明日からすぐにできる」コミュニティマネジメントの技を3つ聞いてみた。

①肩書をはずして、「好きなおにぎりの具の話」をさせる

礼奈:ひとつめは、「肩書をはずす」です。

小池:肩書ですか。

礼奈:はい。場をつくる人って、そこにいる人たちのことを誰かに紹介したり、自己紹介をさせたりするシーンが多いですよね。そのときに、「こちらは××社のAさんです」とか「私はコミュニティマネージャーのBです」とかいった形で、所属先や職業から入るのをよく見ませんか。

小池:ありますね。私も、簡単に名乗らなければいけないときは「ライターの小池です」って言うかなあ。

礼奈:コミュニティマネージャーは、よくそれを意図的にやめさせるんです。たとえば今から自己紹介しますという場面であれば、「じゃあそれぞれ呼んでほしい名前と、今日どこから来たかと、あと好きなおにぎりの具を教えてください!」って言ったり。

小池:おお、それだとたしかに話しかけるハードルが下がる気がします。

礼奈:もちろんTPOや空気次第ではあります。ただ、フラットに交流できる場にしたいと考えている場合はこういう導入の設計が大事です。新しく来た人と既存の人の会話もはずみやすくなるし、既存の人同士の喋り方も変わることがあります。つまるところ、肩書きありきのコミュニケーションって、利害関係や上下関係の探り合いから始まってしまうことが多いんですよ。それをなしにすることで、フラットな関係のまま仲を深めていく可能性を広げてるんですね。

小池:肩書をはずすことの効果って大きいなあ。


②「中の人たちの表情がわかる」情報発信をする

礼奈:二つ目は、「中でやっていることをどんどん外に見せる」です。わかりやすく言うと、イベントレポートの類は小さい粒度でたくさん出していきましょう、ということ。発信ハードルは極力下げた方がいいって、コミュニティマネージャーの後輩にもよく話すんです。

小池:ほうほう、具体的に言うと?

礼奈:たとえばダンスの若手サークルってたくさんあるんですが、インスタを見ても、その人たちが実際に何をしているかわからないことが多いんです。「〜〜というイベントをやりました!」という説明書きと、遠くから撮った集合写真だけとか。どんな年齢層のどんな雰囲気のひとたちが、どんな表情で何をしているのかがそれだとわからない。

小池:そういうアカウント、ダンスに限らず結構あるかも……。

礼奈:カイトタンゴでは、むしろそこを意識的に見せるようにしています。特にやっぱり人の表情ですね。そうすると、その発信を見た人が「あ、自分と同じくらいの年齢の人がいるんだな」とか、「みんな笑ってて楽しそうだな」とか感じるきっかけになりますよね。

小池:表情のわかる写真はたしかに目がいきますね。会社の採用情報なんかでも、やっぱり中の人たちの雰囲気がわかる写真があると安心するし。

礼奈:ですよね。場にどんな人がいるかを知りたいというのは、人の自然な欲求としてあるじゃないですか。体験レッスンに行くまでそこはブラックボックスです、というのは初心者にはハードルが高いですよね。どんどん新しい人に来てほしいというコミュニティほど、ここは意識した方がいいと思います。カイトタンゴにも、今言ったようなインスタ発信がきっかけで教室に来てくれた方がいらっしゃいます。

小池:カイトタンゴのインスタ発信も、別にいちいち何百文字も書いているわけではないですもんね。しっかりしたイベントレポートをたくさん書こうということではなくて、小さくていいから中の様子をどんどん伝えていくことの方が大切、ということか。

③やってあげすぎないで、一緒に夢を見る

礼奈:三つ目は、「やってあげすぎない」ことです。

小池:「これをしろ」ではなくてむしろ「しない」ですか?

礼奈:です! これは習い事コミュニティなんかではあるあるだと思うんですが、オーナーやそのパートナーの方が、所属メンバーの「要望」を聞いて「やってあげよう」になっちゃうことって多いんですね。発表会したい? じゃあやってあげるね。チラシ作るね、人を呼ぶね、当日は「お手伝い」してね、って。

小池:ありますね。

礼奈:もちろん、本当に皆がそれでいいならいいんです。でも、表面的には「みんなで一緒につくりましょう」という会話をしながら実はオーナーがなんでもやっていて他は指示待ち、という状態だとコミュニティとしての自主性って育たない。メンバーが自発的に動くコミュニティにしたい場合、オーナー側は誰かの思いつきを深めるためのきっかけをつくるとか、ハードルの低いタスクを設定するみたいな役割に徹した方がいいですね。「学校の先生と生徒たち」という関係性になっちゃうと、どうしてもオーナー主導で動くコミュニティになるので。

小池:参加メンバーに自発的に動いてほしいけどなかなかそうならない、結局自分がひっぱらないといけなくなる、と話すオンラインサロンのオーナーさんや講師業をしている人、何回か見たことがあります。そういう人たちは、やってあげすぎている状態なのかもしれませんね。

礼奈:カイトタンゴの例をまた出しますが、今年の秋からカイトさんがブエノスアイレスに行くから、しばらくオーナーが不在になるんですよ。それについて、先日メンバーの一人から「みんなで自主練しよう」というアイデアが出たんですね。ただ、ここで礼奈さんがずかずか出て行って、「それはいいアイデアですね、じゃあ自主練をするためにスケジューリングします、このスタジオに来てください」ってやっちゃ意味なくて。

小池:うんうん。

礼奈:自主練やりたい? おお〜たしかにやりたいですよね、やれたらいいですよね! って、まずは同じ目線で「やりたい」気持ちそのものにフォーカスする。みんなにもどんどん共有して反応を見てみる。そうすると、「自分はこういうことしたい」「こういうのはどう?」ってアイデアが増えますよね。そこでも私が話を進めたりはしないで、そもそもの言い出しっぺのAさんに「じゃあ今度、アイデアを固めるための打ち合わせでもします?」と声をかけて、Aさん自身のアイデアの具体化や行動化を後押しするわけです。

小池:なるほど。それなら、Aさんはその取り組みを「自分がオーナーシップをもってやることだ」と考えますよね。

礼奈:はい。コミュニティをつくる人は、そういう意味においてはメンバーに頼っていい。信頼していいんです。コミュニティの要望を一手に引き受けるのではなく、みんなの中に入って、一緒に夢を見るというか。その方が、言い出しっぺの人の情熱に火がついて、みんなにもそれが広がるという化学変化が起きたりもするんですよね。

小池:情熱やアイデアは、人に信じてもらえたときほど膨らみやすいと私も思います。「この人たちにはできないだろうから、大変だろうからやってあげなきゃ」と思われている状態だと、その人本来の力って出てこないというか。これ、親子関係なんかにも通じそうな話ですね。

コミュニティマネジメントとは、突き詰めれば”コミュニケーション”である

小池:お話を聞いていると、コミュニティマネージャーだからといって、すごく特別なことをしているかというとそうではないのかなという印象を受けます。ひとつひとつを見ると、「それってコミュニティマネージャーじゃなくても大事だよね」と思うことが多いというか。

礼奈:いや、そうなんです。だからコミュニティマネージャーって、説明すればするほど「そういう役割の人って昔からいますよね?」って言われるんですよ。街で人気のカフェにいる名物オーナーとか、地域の楽しい溜まり場にいつもいる子どもに人気のおじさんとか、やっていることを見ればコミュニティマネージャーと一緒だったりして。

小池:人が集まる場所を、いい具合に活性化させている人。

礼奈:そうそう。それに名前がついて、やることが整理されてつくられた存在なのかなって。

小池:「いい具合に場を盛り上げてくれる人がたまたまいた、ラッキー」ではなくて、そういう存在から学べる、再現性のあるスキルとは? ということを考えていくと、コミュニティマネージャーという職能になっていくと。

礼奈:そう思います。

小池:この仕事の、何が礼奈さんをそんなに惹きつけるんでしょう?

礼奈:突き詰めると、コミュニケーションの醍醐味を味わえることですね。競技ダンス時代の恩師に言われて、今でもすごく好きな言葉があるんです。「良いリードは良いフォロー」っていう言葉なんですけど。コミュニケーションって、結局全部それだと思うんです。

小池:私もタンゴを踊るのでわかるところがあります。リードはダンスを先導する方でフォローはそれについていく方、という風に役割をバキッと分けて考えやすいけど、実はそうではないというか。素晴らしいリードは相手の意図や動きを適切に受け止めることに通じていくし、フォローも単に相手についていくのではなく主体的に踊ることで初めて相手へのフィードバックになったり。あくまで相互作用的なものですよね。

礼奈:そう思います。私がペアダンスを好きで、楽しいと思えるのはまさにその部分なんです。コミュニティマネジメントも同じ。私はコミュニティマネジメントという仕事を通じて、たくさんの人とリードやフォローを楽しんできたと思います。だからペアダンスが好きなことと、コミュニティマネジメントという今の仕事が好きなことは、私の中で完全に繋がっているんですよ。

 ダンスもコミュニティマネジメントも、礼奈さんのコアにあるのは「本気でコミュニケーションを楽しむこと」であるらしい。

 それは、インターネットのおかげで人と繋がることが一見容易になった現代においても、いまだ多くの人が求めてやまないものではないだろうか。

 そう、礼奈さんの話を聞いて、改めて思い至ったことがある。

 良いコミュニティとは多くの場合、良いコミュニケーションがある集まりのことだ。そしてそのコミュニケーションの活性化を自覚的に、意識的に促すのがコミュニティマネジメントの力なのである。

 でも、それは必ずしもコミュニティマネージャーの専売特許というわけではない。コミュニティに属する誰もが、やろうと思えばその力を発揮することができる。そしてそれは、まず目の前の相手を信じ、本気で関わろうとすることから始まるのだ。

後編へ続く
▶︎コミュニティに必要なのは、意識的に「砂をならす」こと——「いいコミュニティ」の育て方【後編】

◆「いいコミュニティの育て方」シリーズ
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