見出し画像

産後うつのオンラインカウンセリングを受けたら驚きと学びがあった

やっぱり過酷、ワンオペ育児


 もしかしてこれ、産後うつかも……?

 産後9ヶ月にして、そう思うことが増えていた。朝から疲れすぎて何もできなかったり、ふとしたときに涙が出たり、食欲が湧かなかったりするのである。不穏だ。

 産後すぐになることが多いとされる産後うつだが、産後9ヶ月がもっとも産後の自殺が多いタイミングだという国立生育医療研究センターの調査もある。この調査によると、「35歳以上」「初産」などの条件が重なるとさらに危険性が高まるという……。いやバリバリ該当するがな。

 少し前から、心身共にだいぶすりきれてきたなあ、とは感じていた。

 産後1ヶ月以降の休みのないワンオペ育児と家事、それと並行してのフリーランス仕事の開拓。覚悟していたとはいえ、育児も仕事も自分がオーナーかつほぼ単独プレイヤー、という状況はたいへん厳しい。考えることが多すぎて朝から脳みそフル回転だし、スケジュール繰りはどうしたって子ども>夫>自分という優先順位だから後手後手の調整を強いられ疲弊する。
 もちろんそれだけではない。9ヶ月を過ぎた子どもは成長と変化著しく、こまめな情報収集やサポートの試行錯誤が欠かせない。去年妊娠中に会社をレイオフされて離職して以降、以前ほどには稼げていないため経済的に綱渡りな状況でもある(あゝ保育料!)。夜泣き対応で毎日寝不足だし、子どもの風邪きっかけで喘息も出ていて体調はボロボロだ。一日中咳をしていたら妊娠前より痩せた。

 たまに疲れが限界を超えるのか、頭が真っ白になることがある。その瞬間までにやっていたこと、これからやろうとしていたことなどが全部吹き飛んで、尻尾のスイッチを切られたドラえもんのように停止してしまうのだ。そういう時は、ただもう床に伸びてNetflixを眺めることしかできない。そして激しい自己嫌悪や焦り。知り合いの同世代たちは今頃どんどんすごい仕事をしているというのに、私ときたらこうやって「サイコだけど大丈夫」を観ることしかしていない……!

 夫には「何か自分にできることはないか」と度々聞かれる。しかし業務が有機的かつ膨大すぎると、業務の切り出し自体が負荷の高いタスクになり考えるだけで苦しい。結果、血走った目で「年収2000万円になっていただければ」とだけ言い、急な昇給などありえない公務員の夫が白目をむくというアホらしい顛末になる。夫によるとかれこれ3回くらいこの返答をしているらしいが記憶にない(やばい妻だ)。

 そんなわけで、「そろそろまずいかも」というのが私の感覚としてあった。子どもは銀河一可愛く、たとえイーロン・マスクに50億積まれたとしても絶対に手放せないが、愛情だけで親としての気力体力を維持し続けることは不可能である。

 ならとりあえず一回、産後うつのカウンセリングを受けるか。

 わりとすぐにそう思い至った。

 フィジカルと同様、メンタルのケアも先手を打つことが大切だ。本格的に具合が悪くなってからでは、回復のために動くこと自体が難しくなる。

 幸い、私は自分自身がコーチングの勉強をしてきて人に提供する活動もしているため、こういうサービスにお金を使うことには抵抗がない。心療内科のカウンセリングはとても予約がとれないが、オンラインカウンセリングならそれなりの供給がありそうである。

 あれこれと調べたのち、カウンセラーとのマッチングサイトで、産後女性のカウンセリングを得意としているらしい公認心理士のセッションの予約をした。私からの申し込み情報には「疲れがたまっているのか気持ちが落ち込む。すぐに状況を変えるのは難しいが、感情を吐き出して整理できれば」といったことを書いて、セッション当日を待った。

 しかし私を待っていたのは、予想外の展開だった。

ジェンヌな言い回しのカウンセラー氏

 セッション当日Zoomに入ると、穏やかそうな女性の声が応答してくれた。画像はお互いにオフである。
 
 先述の通り、私がこのセッションに望むことは、「感情を吐き出して整理したい」に尽きた。何をどうしたって、「赤ん坊がいる」という状況自体は動かせないのである。夫がメインの稼ぎ手として働き私が家政担当となっているこの状況で、いきなり妊娠前のような生活を実現することはできない。
 だから状況を変えるのではなく、気持ちを落ち着けたかった。そして気持ちを落ち着けるのに、今は自分の話を誰かにしたかったのである。産後うつ向けのカウンセリングなら、むしろそこに特化した内容になるのではないか、と勝手に期待していた。

 しかし蓋を開けてみると、そうではなかったのである。 

 (以下、実際のやり取りをそのまんま起こしたものではなく、あくまで雰囲気を伝えるための文面としてやりとりを大雑把に思い出しながら書いています)



カウンセラー「みきさん、この度はお申し込みありがとうございます」

私「はい、よろしくお願いします」

カウンセラー「みきさんは産後9ヶ月で、今とてもお疲れとのこと……そうですよね、本当に、本当に大変な状況でいらっしゃると想像します。そしてこのような大変おつらい中、こうして大きな、大きな勇気を振り絞ってカウンセリングにお申し込みなさったこと、それがまずはとても……とても大きな一歩で、素晴らしいことであると私は申し上げたい……。この時点でみきさんには、実際に行動をとられたご自分をしっかりと褒めてあげてほしい、認めてあげてほしいと、そう思うのです……!

私「……!?

 カウンセラーの、感情をたっぷり込めたうたいあげるような言い回しに開始3分で圧倒される私。

 大きな勇気を振り絞ってって……? いや、勇気を振り絞って申し込む人もいるのかもしれないけど。私は別にそこまでの気合いを入れて申し込んだわけではないのに、なぜいきなりそんな前提が……。


カウンセラー「みきさん、まずはご自分のお気持ちをお話しになってください。どういったことでも、何からでもかまいません。心の浮かぶままに、ご自由に、今の想いを口にしてみましょう……」

私「あーー……はい、えーと、産後9ヶ月になって、子どももよく動くし、やっぱり育児で気が張るんですね。まだ夜中に必ず一回は起きるので睡眠不足も続いてて。夫は平日ほぼ家にいないし、休日は休ませておかないと体調崩しちゃうんで、なかなか私ががっつり休むタイミングってないんです。でも仕事はしていないと保育園に入れておけないし、家計も厳しくなるから今は踏ん張るしかなくて、疲れが溜まってきていることを痛感してます。なかなかそういう愚痴を言う相手もいないので、気持ちを吐き出して少しでも楽になれればな〜と思った感じなんですが……」

カウンセラー「……ありがとうございます。みきさんが今とっても疲れていること、休めないでいて苦しい、でも今は自分が頑張るしかない……そうやってとっても真面目に、必死で踏ん張っていること、ご家族への想い、苦しい、でも頑張りたい、そんな真剣な想いが、しっかりと伝わってまいりました……!


 なぜだ、しっかり伝わっているか不安になるのは。

 引き続きたっぷりと抑揚をつけ、私の言葉を繰り返す以上に大袈裟な言い回しで応答してくるカウンセラー氏に対し、戸惑いが膨らむのを抑えられない。

 いや、わかるのだ。労わろうとしてくれているのも、励まそうとしてくれているのも。しかしむずがゆい。「大変ですね……ッ!」と、最後に必ず小さなツと吐息が入るような「言葉への力の込め方」に、どうしても芝居っ気を感じずにいられない。というか、繰り返し聞いているうちにまるでタカラジェンヌと話しているような気がしてきた……。


カウンセラー・ジェンヌ「今のお話を踏まえて……ご自身に向かって、本当にやりたいことを、心のままに、正直に口にするとしたらどうなりますか……?

私「…………寝たい、ですかね……」

カ・ジェ「寝たい……。そう、ぐっすり眠って、疲れた心と体を癒したい……! それがみきさんの、今一番したいことなのですね……!!!


 (ジャジャーン!!)
 

 そらーそう。

 
夜泣き対応で慢性的睡眠不足の人間が「一番したいこと」を聞かれたら、「何も気にしないでとことん寝る」になるのは当然ではないでしょうか。そりゃあ、睡眠より何より「推しの舞台を見に行きたい」とか「ハイブラの買い物をしまくりたい」とかいった欲求が出てくる人もいるのかもしれないが、しかしなあ。

 ここからカウンセリングは、私の予想とは違う方向へと進んだ。「今より長く寝るためには誰のどんなサポートがあればいいか?」「何か今日中にやっていることを省略して睡眠時間の確保はできないか?」など、私が実際に睡眠を確保するためにできそうなことの確認質問が展開されたのである。

 質問に答えながら思った。
 あれ、これってコーチングと一緒だな……。

 コーチングスクールや教本で教えられるベーシックなフレームワークには、「やりたいことなど叶えたいビジョンの優先順位確認→目標達成のために使えそうなリソースの確認→リソースを使ったアクションの策定」という流れというか進行がある(※絶対にこの流れを踏襲するわけではない)。これ自体は目標達成に向けた対話として有効である。が、私は気持ちを話して楽になりたいと言っているのに、なぜいきなり「どうしたらもっと寝られるか」の話になるのだろう。 

 これが元気なときであれば、「今日は気持ちを聞いてもらいたいんですが」など言って軌道修正できたのかもしれない。しかしこちらもカウンセリングを申し込む程度には疲れている身だ。「ダーウィンが来た!」のヒゲじいのように「ちょっと待ったぁ!」と声をあげる気力はない。

 この辺りになると私の集中力は完全に途切れ、ほとんどカウンセラー氏を観察することにばかり意識が向いてしまっていた。



カ・ジェ「みきさん、産後に、家事も仕事も育児もすべてを完璧にやろうとするのは無理です……! 今は大変かもしれませんが、どうにかしてお休み時間を優先することが大切です。まずは旦那さんにも気持ちをしっかり話して……」

私「あの、夫には全然話してます」

カ・ジェ「それは素晴らしいですね。旦那さんにもきちんと考えていることを共有なさっている。コミュニケーションの取れている、信頼関係のある関係でいらっしゃるんですね……!


 カウンセラー氏とのやり取りは常にこんな感じで、何か訊かれる→私が簡単に答える→それをカウンセラー氏があの手この手で(ゴージャスに)言い換えて自分の見方フィードバックしてくる、ということを繰り返していた。

 クライアントの言ったことを解釈してフィードバックするのも、この手のやり取りの中では必要な、言うなればひとつのテクニックである。だから別にやってもらってかまわない。私もやる。しかし、うーん、どうにもしっくりこない。

 理由は明白である。私が一行喋るとそれをすぐに三行分くらいにされるため結局私の喋る量が少ないこと、先方の発する言葉のすべてが「あなたはものすごく大変なママ・頑張りすぎの限界ギリギリ女である」ということをハナから前提にしており、こちらの感情を受けとめてもらった上でのフィードバックのような気がしないということ。

 つまりそう、「話を聞いてもらえている気がしない」のだ。

 

カ・ジェ「私どものカウンセリングではこのように、みきさんの優先順位を整理して、何か具体的なアクションが取れないかを一緒に探すということもできます。今日お話してみていかがでしたか?」

私「えーと……やっぱり寝てないのはよくないな、と思ったのでなんとか寝ようと思いました……」

カ・ジェ「素晴らしいですね! ぜひ今はご自身のことを優先して、しっかり休んでください!」

私「はい……(それがなかなかできないから辛いのだが……)」


 こうして、私の産後うつカウンセリングは終わったのであった。チーン。


育児の愚痴の、適切な聴き方に思いを馳せる

 ……正直言って、今回のカウンセリングで気が楽になったかと言われると全然なっていない

 全体的によくわからなかったし、カウンセラー氏の解釈や意見を聞いている時間が長くて疲れた、というのが素直な感想である。

 一応補足しておくと、これは相性の問題だと思う。今回の人は私には合わなかったが、前のめりに労ってもらったり、「今あなたは大変な状態なんだ、無理しちゃいけない」と言い聞かせてもらうことが必要な状態の女性も大勢いるはずだ。私のように、「とにかく愚痴って気持ちの発散だけしたい」と目的を絞り込んでいるクライアントの方が少数派な気もする。だから件のカウンセラー氏のやり方を批判する気はない(チャカしてしまっていますが)。

 あと言うまでもないことだが、カウンセラーや公認心理士として活動している人はものすごく大勢いる。私が今回セッションしてもらったのも、さまざまなプラットフィーム上に何百・何千人といるカウンセラーの中の一人にすぎない。そのため、この記事を読んで、「ゲッ、産後うつカウンセリングってこんなのばっかりなの!? 絶対受けないどこ!」などとは絶対に思わないでほしい。

 こういうのは出会い系と同じだ。相性が良い人と巡り会うまでためし続けるしかないのである(そして多少の失敗を耐えるためにも、やっぱりある程度元気があるうちにカウンセリングを受けた方がいいのだ。本格的にメンタルが落ちてからだと、変なカウンセラーに当たったときのダメージを受け流せないから)。


 何より今回、カウンセリングを受けてみて良かったと思った部分もあった。というのも、自分が今何を求めているのか、何が嫌なのかが前よりよくわかったのである。

  
 状況を大変だとは感じているが、人から「大変だろう」「苦しいだろう」と決めつけた言葉をやたらと投げかけられたくはない。

 「今は全部やるのは無理だよ」「仕事を犠牲にしても休むべきだよ」などといった正論については重々承知しているので、それがまったくわかっていない人間であるかのようにアドバイスされるとピキピキ(#^ω^)くる。

 というか「今は頑張るな」と言われると、自分の現状の無力さを必要以上につきつけられる感じがして辛い(おっ、「虎に翼」の世界ですね)。

 そういうことよりも、今私が感じていること、本当はやりたいと思っていることなどについて、現実的な優先順位は脇に置いて普通に聞いてほしい。「今は休んだ方が」とか「無理しないで」とかそんなことはいいから、自分の中に転がしている苦渋や可能性の飴玉を、じっくりぺろぺろ舐めさせてほしいのだ。その苦味や甘さを味わう余力が、今の私からは尽きかけているのだから。

 

 カウンセリングを終えたあと、私はひとしきりそんなことを考えた。

 そして考えているうちに、「つまり、自分が同じような状態の人の話を聴くときにもこういうことに気をつけなくっちゃ」と思い始め、気づきをまとめるうちになんだか元気になってきてしまったのである。

 前述のように、私もライター業などの傍らコーチングという形で対話セッションサービスを提供している。専門家でないためカウンセリングはしていないが、妊娠・出産でライフステージの変化を体験している人と会話する機会はそれなりに多い。
 その人たちに対し、無神経なことを言わないように意識を引き締めようと強く思うことができたのは、今回のカウンセリングの大きな学び、収穫だった。まさかカウンセラー氏も、こんな形で私がカウンセリングを有効活用したとは思わないだろうが。


 私も引き続き自分のケアはしていかなければならないから、また懲りずに何かしらのカウンセリングは利用してみるつもりでいる。これは良いカウンセリングだ! と思ったら今度はそのレポをしたい。

**

 長々と書いていたらもう21時半だ。今日も仕事の残務をして、子どもと一緒に部屋に籠る。

 世のワーキングペアレンツの皆さん、引き続き頑張っていきましょう。産後うつには気をつけつつ(もちろん男性もですよ)。


読んでくださりありがとうございました。「これからも頑張れよ。そして何か書けよ」と思っていただけましたら嬉しいです。応援として頂いたサポートは、一円も無駄にせず使わせていただきます。