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ヌカヅケ小説            ヌカヅケのヒッ! NO.7

ついたちだけあって、平井商店街はいつもより人出があり、誰もがヌカヅケを持っているため、辺り一面にヌカヅケの匂いが充満している。

わたしは普段よりも濃く漂うこの匂いに、梅雨の開けた夏の気配を感じた。


店はどこも混雑していた。どの家にも消費期限の迫ったヌカヅケが配られたのだろう。

期限が来る前に、さっさと使ってしまわなければと、人々は消費することに意欲的になっている。

こうした現象は、ある種の専門家たちを喜ばせる。彼らは売り買いが活発になるのが大好きなのだ。


いまでこそ、これほど活気のある平井商店街であるが、わたしの祖父の若かりし頃にはシャッターを下ろした店ばかりで、時折開いている店内では、埃を被った商品と誇りを失った老店主が、空気を節約して鎮座していた。

  
当時は近所の商店街より遠くのショッピングモールが人気で、週末になると、家族連れが続々とモールに押し寄せていた。

他国から取り寄せた格安の食品が棚に並び、一瞬でガラクタになり下がる派手な色した玩具が、子供たちを虜にした。

けれどもヌカヅケを拒否した国々から商品が入ってこなくなると、棚には並べるものがなくなり、モールは独活の大木と化した。

その後、モールは遺跡ほどの貫禄もないまま独り活きながら風に吹かれ、凡庸に朽ちていくのを待っている。


さて、わたしは『マダムイクコのおしゃれ着店』の扉を押した。

店内にはおしゃれ着が整理整頓され並べられている。

マダムイクコはおしゃれ着しか取り扱わないので、普段着が欲しい人は隣接する姉妹店『マダムトシコの普段着店』へいくのだが、わたしの欲しいものはおしゃれ着であり、つまりはマダムイクコの店にあるはずだった。

写真 : ヌカヅケをくわえるマダムイクコ

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