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伝わりにくい説明文には解説文+論説文を書き加える/作家の僕がやっている文章術146

説明文と、解説文と、論説文との書き分け、使い方のお話をします。

『伝えるべきことを優先させる/作家の僕がやっている文章術145』で紹介した、義手の装飾グローブの文章を再び使います。

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<文例1>
従来、装飾用義手のグローブの素材は塩化ビニル(PVC)製のものが一般的でした。

塩化ビニルは丈夫で2次加工が可能であり、接着性が良く切削加工等が容易です。

その反面、油性の汚れが付き易く、日々の生活で読む新聞や雑誌などのインクやその他の汚れが一度付着して中まで染み込んでいってしまうと、汚れを落とすことができません。

また、経年変化により長期間使用すると変色(黄色掛った色になる)や変質(硬くなる)がおこってしまいます。

これらの欠点を補う形で開発されたものが、シリコーン製のグローブです。

シリコーンは汚れが付きにくく、たとえついたとしても簡単に落とすことができます。

また、経年変化も起こらず、変質・変色も少ないため外観や装着感もほとんど変わることがありません。

反面、塩化ビニルに比べると強度が落ちるため、特に引裂き強度が弱いという点や、2次加工ができないなどの欠点があります。

さらに、強度が落ちることを補うため、材質に厚みを持たせる必要があることにより、少々重くなります。

装着を希望される方は、生活様式やお仕事の内容を考慮してください。
(原文)

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文例1は、ほぼ説明文です。

私が「読み取りにくいな」と感じたのは、次の三つの文章でした。

塩化ビニルは丈夫で2次加工が可能であり、接着性が良く切削加工等が容易です。

反面、塩化ビニルに比べると強度が落ちるため、特に引裂き強度が弱いという点や、2次加工ができないなどの欠点があります。

さらに、強度が落ちることを補うため、材質に厚みを持たせる必要があることにより、少々重くなります。

何となく分かるような、それでいて良く分からないような説明文です。

そこでこの文章を掲載しているサイト主である鉄道弘済会義肢装具サポートセンターに電話をして、義手を担当している義肢装具士(文責者ではない)に話を聴きました。

電話取材をしたのです。

取材をして分かった内容を解説文として、書き直しました。

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<文例2>
塩化ビニルは丈夫で2次加工が可能であり、接着性が良く切削加工等が容易です。
(説明文)

(ここから解説文)
2次加工とは、加熱によって幅を広げたり、縮めたりできる調製を意味します。

義手がきついと感じたら、義肢装具士が加熱によって、幅を広げることができます。

ゆるいと感じたら、やはり加熱で縮めることができます。

接着性とは、接着剤との相性です。

たとえば義手が破れてしまったときに、裂け目を瞬間接着剤などでくっつけることができます。

ただし、あくまでも応急処置であり、あまり推奨はしていません。

切削加工は、グラインダーなどで削る加工です。

塩化ビニルは、グラインダーやヤスリなどで削ることが容易です。

切断されて残っている手や腕や肩の部分を断端と呼びます。

断端に義手をはめたときに、義手の端が鋭角なままだと、角が当たって痛いと感じることが想定されます。

エッジが立っている鋭角な端をグラインダーで削って、丸みをつけるなどが切削加工の代表例です。塩化ビニル製だと、この切削加工が容易です。
(ここまでが塩化ビニル製の解説文)

引き続き、シリコーン製の弱点を解説文として書きます。

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<文例3>
シリコーン製には、亀裂が広がりやすい弱点があります。

グローブの表面に、わずかな傷が入ると、そこから裂けるように破れやすいのです。引裂き強度が弱いのです。

塩化ビニル製では容易な2次加工が、シリコーン製では、できません。

強度が劣るのを補う目的で、厚みを持たせるため、塩化ビニル製と比べると、数十~数百グラム重くなります。
(ここまでがシリコーン製の弱点の解説文)

文例1の説明文と、文例2と3の解説文を併せて、文章を整えます。

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<文例4>
これまで、装飾用義手のグローブの素材は塩化ビニル(PVC)製のものが一般的でした。

塩化ビニルは丈夫で2次加工が可能であり、接着性が良く切削加工等が容易です。

2次加工とは、加熱によって幅を広げたり、縮めたりできる処置を意味します。

義手がきついと感じたら、義肢装具士が加熱によって、幅を広げることができます。

ゆるいと感じたら、やはり加熱で縮めることができます。(ここまで説明文)

接着性とは、接着剤との相性です。

たとえば義手が破れてしまったときに、裂け目を瞬間接着剤などでくっつけることができます。

ただし、あくまでも応急処置であり、あまり推奨はしていません。

切削加工とは、グラインダーなどで削る行程です。

塩化ビニルは、グラインダーやヤスリなどで削ることが容易です。

切断されて残っている手や腕や肩の部分を断端と呼びます。

断端に義手をはめたときに、義手の端が鋭角なままだと、角が当たって痛いと感じることがあります。

エッジが立っている鋭角な端をグラインダーで削って、丸みをつけるなどが切削加工の代表例です。

塩化ビニル製だと、この切削加工が容易です。
(ここまで解説文)

その反面、油性の汚れが着きやすく、日々の生活で読む新聞や雑誌などのインクやその他の汚れが、一度付着して中まで染み込んでしまうと、汚れを落とすことができません。

また、経年変化により長期間使用すると変色(黄色掛った色になる)や変質(硬くなる)が起きてしまいます。

これらの欠点を補う形で開発されたものが、シリコーン製のグローブです。

シリコーンは汚れが着きにくく、たとえ着いたとしても簡単に落とすことができます。

また、経年変化も起こらず、変質・変色も少ないため外観も装着感も、ほとんど変わることがありません。

しかし、塩化ビニル製に比べるとやや強度が落ちます。
(ここまで説明文)

シリコーン製には、亀裂が広がりやすい弱点があります。

グローブの表面に、わずかな傷が入ると、そこから裂けるように破れやすいのです。

これを引裂き強度が弱いと評しています。

塩化ビニル製では容易な2次加工が、シリコーン製では、できません。

強度が劣るのを補う目的で、厚みを持たせるため、塩化ビニル製と比べると、数十~数百グラム重くなります。
(ここまで解説文)

装着を希望される方は、生活様式やお仕事の内容を考慮してください。
(結文)

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説明文や解説文だけでは、読者は、何をどう選んだら良いのか迷うことがあります。

説明文や解説文は、客観的な文章です。

論説文は、主観的な文章です。

著者の意見を読者に提示すると、判断してもらいやすくなります。

主論を、論説文に書き改めてみます。

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<文例5>
装着を希望される方は、生活様式やお仕事の内容を考慮してください。

 ↓↓↓

塩化ビニル製は、引き裂き強度が高いのが特長です。

丈夫さと、修理の簡便さ、軽さを優先なさりたい方にお選びいただくケースが多いです。

建築現場や、港湾労働、物流関係などのアクティブな仕事に就いている方にお勧めしている義手のグローブです。

シリコーン製は、汚れにくさが特長です。

事務仕事や、教育現場、接客業などのパッシブな仕事に就いている方にお勧めしている義手のグローブです。

これから義手を着ける方には、生活様式やお仕事の内容を考えてお選びいただければと思います。
(以上が論説文)

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説明文+解説文+論説文の組み合わせで文章を整えると、文章は分かりやすく、読みやすくなります。

著者が何を言いたいのかを読者に理解してもらえます。

そして、どうすれば良いのかがはっきりします。

説明文だけではなく、解説文や、ときに論説文を組み合わせると、読者の理解、判断、行動をうながすことができるのです。

最後に、説明文+解説文+論説文を整理して書き改めた文章をご紹介します。

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<文例6>
これまで、装飾用義手のグローブの素材は塩化ビニル(PVC)製のものが一般的でした。

塩化ビニルは丈夫で2次加工が可能であり、接着性が良く切削加工等が容易です。

2次加工とは、加熱によって幅を広げたり、縮めたりできる調製のことです。

義手がきついと感じたら、義肢装具士が加熱によって、幅を広げることができます。

ゆるいと感じたら、やはり加熱で縮めることができます。

接着性とは、接着剤との相性です。

例えば義手が破れてしまったときに、裂け目を瞬間接着剤などでくっつけることができます。

ただし、あくまでも応急処置であり、あまり推奨はしていません。

塩化ビニルは、グラインダーやヤスリなどで削ることが容易です。

これを切削加工と呼びます。

切断されて残っている手や腕や肩の部分が断端です。

断端に義手をはめたときに、義手の端が鋭角なままだと、角が当たって痛いと感じることがあります。

エッジが立っている鋭角な端をグラインダーで削って、丸みをつけるなどが切削加工の代表例です。

塩化ビニル製だと、この切削加工が簡単にできます。

その反面、油性の汚れが着くやすく、日々の生活で読む新聞や雑誌などのインクやその他の汚れが、一度付着して内部まで染み込んでしまうと、汚れを落とすことができません。

また、経年変化により長期間使用すると変色(黄色掛った色になる)や変質(硬くなる)が起きてしまいます。

これらの欠点を補う形で開発されたものが、シリコーン製のグローブです。

シリコーンは汚れが着きにくく、たとえ着いたとしても簡単に落とすことができます。

また、経年変化も起こらず、変質・変色も少ないため外観や装着感もほとんど変わることがありません。

しかし塩化ビニル製に比べると、やや強度は落ちます。

シリコーン製は、亀裂が広がりやすいのが弱点です。

グローブの表面に、わずかな傷が入ると、そこから裂けるように破れやすいのです。

強度が劣るのを補う目的で、厚みを持たせるため、塩化ビニル製と比べると、数十~数百グラム重くなります。

ですので、シリコーン製グローブを作るときには、あとから修正しないで済むように、徹底的に採寸計測をする必要があります。

また装着したときに、断端に痛い箇所が生じないように、製作段階からエッジを丸める加工をほどこす必要があります。

塩化ビニル製は、引き裂き強度が高いのが特長です。

丈夫さと、修理の簡便さ、軽さを優先なさりたい方にお選びいただくケースが多いです。

建築現場や、港湾労働、物流関係などのアクティブな仕事に就いている方にお勧めしている義手のグローブです。

シリコーン製は、汚れにくさが特長です。

事務仕事や、教育現場、接客業などのパッシブな仕事に就いている方にお勧めしている義手のグローブです。

これから義手を着ける方には、生活様式やお仕事の内容を考えてお選びいただければと思います。

以上です。



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