転勤の一番の問題は、一方的な辞令だと思う。

ある日突然言い渡された私の赴任地。
赴任理由や期間も告げられぬまま、同意するためだけの内示の時間。
初めての赴任地発表は、私の中で3年経っても色あせない、会社への不信感の泉の元だ。

私は今、全国赴任制度をとる営業職として働いており、社会人になるまで暮らしていた東京を離れ、地方勤務をしている。
個人的には転勤に対して不服な思いを抱える一方で、
3年目になり会社がなぜ転勤という制度を営業職に求めるのか、客観的に理解してきた。

そこで、個人としての視点と、会社の視点から、転勤を考えてみた。

転勤したくない個人

① とにかくライフプランの見通しが立てづらい
結婚、出産。いつどこにいるのか見通しがつかないので、決断に至れない。
全国無期限突然異動制度を社員に課し続けることは、パートナーとの関係性やそのパートナー自身のキャリアをも問われる事が、十分に考慮されていない。

パートナーと同居するために退職する同期がちらほら出始めたが、その決断をする社員の多くは女性だ。
対等の総合職についているパートナー同士でも、やっぱりまだ合わせているのは女性、それが個人的に非常に悔しい。

② 住む場所を選べない不服感

住み慣れた場所や好きな場所、自分で決めた場所に住みたい。多くの人が当たり前に抱く願いだ。
育児や介護など、事情があると場所の希望が通る仕組みもあるが、
「都会ライフが好きなので、東京赴任希望」は聞いてもらえない。

先日、1つ上の営業所の先輩が個人的な希望を優先し、転職して帰京した。
「若者は我慢をしらない」と年上の先輩方は口をそろえて言っていたが、価値観が昔とは変わってきただけだと、私は思う。
今の若者は、何を大切にするか、人生において何を優先するかは、自分で決めたいのだ。

③ 説明責任もきちんと果たさず、人生に介入してくる不信感
冒頭でも述べたが、貴重な20代を過ごす赴任地を、私の顔と名前すら一致しないお偉いから、ただ一方的に伝えられた不信感を私は忘れていない。
私という存在が、その赴任地に行くことになった理由、何を期待されての配属なのかすら教えてくれない会社との希薄な関係性に恐怖を覚え、
また、サラリーマンになる現実を突きつけられた気がした。

希望が通っていようが通ってなかろうが、会社の決定事項を一方的に告げる方式は、“日本の伝統的なキャリア形成”の一環なのだろうか。
ひょっとすると、地方赴任になることよりも、人事がブラックボックスであることの不信感や、会社が説明責任すら果たさずに自分の人生に介入してくる点に強い違和感があり、受け入れがたいかも。


転勤させたい会社

① 駒が駒じゃなくなると困る!?
エリアの中で、ずっと強い人は強い、逆に言えば弱い人はそのまま。
人の入れ替わりがない限り、競合とのシェアの取り合いはある地点で着地する。(特に私の業界はパイを広げることが困難)

弱い人がいるから、人を動かすという側面だけではない。
強い人が担当し続けると、そのエリアはその営業マンでないと成りゆかなくなってくる。
代わりの効かない駒。それは組織にとって、非常にリスクだ。

② 顧客との関係の透明性確保、コンプライアンス遵守
担当が長い社員から引き継ぐ際に、最も感じるのはこれだ。
なぁなぁに色々な要求をのんでしまうことを痛感する。



転勤したくない社員、させたい会社。

担当者が入れ替わる必要性、ある程度の人員を全国に配置する必要性。社員はそのことを理解している。
加えて、社員はいち労働力でしかなく、誰がどこに赴任するかなど、多少の条件精査はあれど、伝えられるほどの大きな理由はない(お偉いさんを除いて)。
それも社員は、自覚している。

だからこそ、全国赴任制度は維持しながらも、
もっと選択できる転勤制度の整備を進めるべきであると考える。

① 会社は社員に対して説明責任を果たすべき
自分自身が望む生き方の実現を考える中に、働き方の選択がある事を、会社は忘れていないだろうか。
会社は条件以外で、社員に選択してもらえる十分な努力ができているだろうか。

私は、会社はどの社員に対しても、
・期待する発揮役割
・赴任やポジションを決定したプロセスと理由の詳細
・条件
を明示し、その選択を選んでもらえるよう社員にアピールする必要があると思う。

② 社内公募制度を全国の営業所にも適応すべき
ポジションの多くを人事部の采配でなく、できるかぎりオープンに開示し、望む人がチャレンジできる環境整備が必要だと思う。
現状として本社内の業務ポジションは開かれているケースはあるが、地方都市の営業ポジションがオープンになっている事例を耳にしない。

居住地に縛られない働き方、1つの会社に縛らず自分のスキルをマルチに活かす働き方。
様々な新しい働き方実現の風が吹いている中で、
組織の人事も風通しよくする必要があると考える。

会社と社員の関係性がもっとフラットになること。
社員が会社というフィールドを最大限に活用できるようにすることが、転勤問題に限らず、
これからの組織に最も求められることだと思う。

#日経COMEMO #転勤は本当に必要か

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