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凄絶な老女の語り「ミシンと金魚」

表題を知った時、ロートレアモンのようなシュールレアリズムかと思ったのですが、違いました。
全編カケイさんという老女による語りです。

「若いときは誰だって、あたしだって、自分だけはとしよりにならないぞ、とこころに誓って、としよりを厄介者あつかいしてたんだから、仕方ない。けど、しらないあいだに少しずつ少しずつとしよりになって、気がついたら誤魔化しようのないくらいとしよりになってるってのは、厄介者あつかいしたときの因果応報かもしんない」

志ん生を彷彿とさせるような語りが続いていきますが、4ページ読んだところでこれは傑作だなと思ったわけです。
カケイさんがみっちゃんと呼ぶ女性たち、病院やデイサービスには様々なみっちゃんがいますがその理由が後半になってわかってきます。
そして徐々にカケイさんの凄絶な人生が露わになってゆくのです。
カケイさんは認知症を患ってはいますが、過去に対しては清明な記憶があります。

著者はケアマネとして働きながら本書を執筆し、すばる文学賞を受賞しました。

以下は選考委員の言葉です。

「この物語が世に出る瞬間に立ち会えたことに心から感謝している」金原ひとみ

「ただ素晴らしいものを読ませてもらったとだけ言いたい傑作である」川上未映子

「小説の魅力は『かたり』にあると、あらためて感得させられる傑作だ」奥泉光

そして著者の受賞の言葉。

「ほんとうは、作家になりたかった。
劇団の裏方をやっていたときも、ほんとうは、作家になりたかった。
コピーライターをやっていたときも、ほんとうは、作家になりたかった。
下北でバイトをやっていたときも、ほんとうは、作家になりたかった。
ヘルパーをやっていたときも、ほんとうは、作家になりたかった。
専業主婦をやっていたときも、ほんとうは、作家になりたかった。
濃いあごひげを寄り目で抜いているときも、ほんとうは、作家になりたかった」

56歳での受賞でした。

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