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父と娘と「ベストキッド」

帰宅したら小六の娘の機嫌が悪い。

「日本語は禁止、英語で話せ。日本語を使ったら罰金100円!」と拙い英語で言う。
何があったのか知らないが、無視していたら
「response! response!」
としつこい。
さすがにムッとして、それでも「ハイハイ」と
適当に返すと「100円!」

それからしばらくして同じことがあり、面倒くさいから「ハイハイ」と言うと
「200円!」

仕方なく財布から小銭をかき集めて手渡しではなく、テーブルに200円をバチっと置く。これは一方的な契約であっても約束は破りたくないのと、せめてもの抵抗。

娘は「これは自分のためには使わない」と言いながら自分の長財布に収める。常日頃言っているように将来の学費のために使うということだろう。それでも自分のために使うのに変わりはないが。

夕食後、いきなり「おれら、親友だよな」と娘が言う。

(ん?)

そして「仲直りしようぜ」と握手を求め、

「学校であった愚痴を聞いてくれる?」

愚痴を聞いてやると、たわいのないことだったが小学生にも色々ある。そう、大人にも会社員にも主婦にも子どもにも生きていれば色々とある。

先日あるタレントが自殺した。ショックだった。表面では陽キャを演じていても内心すさまじい苦悩や葛藤があったのだろうことは想像に難くない。
娘に思わず「自殺したくなったらパパに言いや」と言うと、

「私は絶対に自殺なんかせえへんわ!それにパパには絶対言わない!相談すると思ってんの!父親づらすんな!昭和の男尊女卑か!」

となんだかえらい剣幕である。最後の言葉は意味不明であるが。
それにしてもこの前、親友や言うたばっかりやろ。

これが中学生になったらさらに大変だろうとは予想がつく。まあ、言いたいことを言ってるうちが花か。

娘は塾から帰るとこんなことがあった、と息もつかずに話し出す。正直読書しているときなんか、ウザい。

僕のスタンスは「お前も頑張れ、父ちゃんも頑張る」だ。だから勉強しろ!なんかは絶対に言わない。

最近娘がジェイデン・スミス主演の「ベストキッド」を観てハマり、ジャッキー・チェンのファンになった。実は僕も何年も前にその映画を観てジャッキーのファンになった。若い時のジャッキーより断然カッコいい。

大人の僕ならわかるが、小学生の娘が彼のファンになるのは意外だった。渋い。好きな食べ物はわけぎとイカの酢味噌和えです、と小学生が言うみたいな。

先日その「ベストキッド」を娘とプライムビデオで観た。ジャッキー扮する冴えないアパートの管理人が少年にジャケットを脱いで拾って掛けるという動作を反復させる。毎日毎日何百回も何千回も。
ある日さすがに嫌気がさした少年は「こんなことやって何になるっていうの!もうやめた!」

管理人はたち上がり、ゆっくりと少年の前に立つ。
「ジャケットを脱げ」
少年がしぶしぶ脱ぐと同時に管理人が攻撃を仕掛ける。その動作が防御になる。
「拾え」
同時に前蹴りを放つ。拾う動作がダッキングになり、空振りする(実際はボクシングのようなパンチだけなら有効だが、蹴りもある格闘技ではダッキングは危険過ぎる)。ジャケットを掛ける動作はそのまま攻撃になる。

もう一度同じ攻撃を繰り返す。
防御した少年の両腕をつかみながら「強く、もっと強く!」と真剣な顔で管理人は言う。

僕はこのシーンでこらえていた涙が出た。以前観た時は泣かなかったのに。

「泣いてんの?泣くならもう観ない!」と娘。

「いや、もう泣かないから最後まで観よう」

娘にとって父親が泣いている姿は見たくないのだろう。

強く、もっと強く

毎日何気なく繰り返していることでも意思の力で変われることもある。

強く、もっと強く

そうだ、これからも娘と生きていく。

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